かぶれ
学校の帰り道。
歩道に生えていた背の高い雑草に触れて、腕がかぶれた。
腕がヒリヒリとして、とてもかゆい。
たいていの人は、かゆい以外のことは何も思わないだろう。
思ったとしても、
「あの雑草には今後触れないようにしよう」
くらいなものだ。
でも、僕は違うみたいだ。
試しに違う種類の雑草に腕を押し当ててみる。
今度はまったくかぶれない。
今度はこっち。
次はあっち。
いろいろ試してみたけれど、かぶれたのはあの雑草だけ。
僕はそこに興奮した。
考察を開始する。
まず第一の仮説として、僕はアレルギーを持っている可能性がある。
あの雑草に含まれていた要素によって身体が拒絶反応を示したのだ。
それを証明するために他の人でも同じようにかぶれるのか試したくなる。
……いや、それはダメだ。
いったん後回しにして次の仮説に移る。
あの雑草は、近くで見ると茎や葉が刺々しくて、僕の肌を傷つけたという仮説はどうか。
腕をじっと見てみる。
肉眼では何ともない。
けれど拡大してみれば、本当は傷だらけなのかもしれない。
僕はスマホで腕を撮影した。
すぐさまその画像を開く。
──最大ズームしても、何もないように見えた。
さっき引っかいた皮膚が白くなっている。
そこで閃く。
少し考え方を変えてみる。
あの雑草には、細かい花粉や刺さりやすい種が付着していたのではないだろうか。
歩道の雑草は、人に触れられることを前提に進化していても不思議じゃない。
あれだけ踏まれても生えてくる雑草だ。
種の繁栄のためなら、手段を選ばないかもしれない。
つまり僕は、狙われたのだ。
露出した腕。
疲れて油断した歩行。
そんな人間に触れて、遠くまで運んでもらう。
雑草の背が高いのも歩道に上手く項垂れるためなのだ。
僕は先刻、腕をかいて道路に種を撒いていたのかもしれない。
完全に、あの雑草の思う壺だ。
そう考えると、妙に納得できてしまう。
でも、どうやら駅前にはまだ繁殖してないらしい。
辺りにあの雑草は見当たらなかった。
……僕は無性に真意を確かめたくなった。
けっこうな距離を歩いたけれど、来た道を戻って確かめた。
──「だから、遅刻してしまいました。申し訳ありません。」
塾の先生は目をぱちぱちさせながら口を開いた。
「……それで?
その雑草はどうだったの?」
僕は腕を後ろに回した。
「言ったら絶対に怒らないですか?」
「そうとも。すごい考察力と想像力だね」
僕は小さく息を吐き出してから言った。
「作り話です」
先生は口をあんぐりとさせた。
「……じゃあ本当の遅刻の理由は?」
「興味を引く話を考えていました」
先生は少し黙ってから笑った。
「もっと早くから考えなさい。
さあ、座って」




