ゴー・アンド・バック
ここはある日の小さな旅客用スペースシャトル内。
乗客男性二人、すでに特殊な仕様のマスクを装着しながら話をしている。
「君はなんでこの船に乗っているんだい?」
「商店会の福引で当たったんですよ。初でした!」
目を丸くするおっさん。すぐに気を取り直して、
「ぇ、君の名前は?フルネームで」
青年はスラスラと、
「遠藤陽一郎、です。平凡ですよね」
言った後、少し照れくさそうに微笑んだ。
その流れから、おっさんも、
「ちなみに俺は横田喜三郎。結構ポピュラーだろ?」
現地の惑星に到着、横田は遠藤に朗々と、
「このシャトルを降りて街へ向かう。君も来るか?」
遠藤は喜びながら首を縦に振った。
横田は目的地のNPC (街の案内役)に話を通し、通行許可を得る。
ついでに連れの遠藤のそれも得る。
しばらく街なかを散策、
二人は散策途中に「アノ時」のスクリーンショットを見られる機密リンクをいくつも発見する。
たとえば、バイクを乗りこなせる数人がこぞって速度を競っていたらしい。その“痕跡”が、大通りのタイヤ痕として刻まれている。
「こりゃすげぇな……しかも真ん中抉れてて」
「見たことないですこんなの。僕は普段スクーター乗りますがどうしたら……」
他にも、どぎついネオンやいかにも派手派手しい馬鹿野郎たちの騒がしさ。
遠藤が冷や汗を若干かきながら曇らせた表情で、
「今まで見たことないですこんなの。それにしても何故……」
横からヒョイと横田が、
「ああ。コイツらはこうしか生きられなかったんだろう。君とは違う生き物たちだ。ソレはわかってくれ」
その中の一枚に【環のあるピンク色の惑星が目の前にまで接近しているように見える】ものがあった、
遠藤が目を丸くして「なんでしょうこれ?」
横田はニュートラルに、
「ああこれか。光の屈折によるバグだろう。この世界線ではよく起こる。で、初めて見る奴はたいていなにか引っかかる」
遠藤はイマイチ納得できない顔で、
「……にしても大きすぎますねこの星。う~ん」
横田はなに食わぬ顔で遠藤を見る。
横田は昼メシに齧りつく。茶色く太いバー、だった。ふ菓子のようで、ふ菓子じゃない、不思議な存在感を放つメシだった。
遠藤は思わず横田に、
「スゴいなぁ、それ。美味しいですか?」
横田は、
「おいしいよ。君の分もあるから、食うか?」
横田から遠藤へ、ホイルに包まれたソレが渡された。
遠藤がそれを食べ終わる頃、横田は何気なく、
「そういやさ」
「何でしょう?」
「俺、ここに何で来たと思う?」
「分からないですよ、何ですか?突然」
「ゆるーく指令が届いちゃって……まあ、その」
「……」
「「あるモノ」を取りにね」
遠藤の全身が青ざめた。
「ソレ、って最近報道されていたあの……」
横田は頷いた。
話しながら二人は、元からいかにも寂れまくって人が寄りつかなさそうな街の裏通りへ進んだ。
横田が何かに気づき、屈んだ。
そして、分厚い手袋をはめた右指でつまんだソレは、
「コレだコレ」
彼は、それを遠藤の目の前にちらつかせ、
「このカードキー。どんな材質で出来てるか?」
脂汗をかく遠藤。それでも、
「水銀ベースの、ヤバいやつ」
横田はすぐに頷き、
「そうだ。この星ではコレを堂々と使っていた。そう、アノ時まで」
彼はますます青くなって石化する遠藤を気にすることなく、問題の品を手早く特製と思われる銀色の堅牢なカードスリーブに収めた。そして、
「行こう。一つでも持って帰れれば任務は完了、俺たちの住む星での暮らしにしばらくは困らない」
と、言うなりニヤッと笑った。
遠藤は、弱々しく頷くのがやっとだった。
夕方ごろ、シャトルの停まった辺りに戻るも、がらんどうになっていた。
「ありゃまぁ〜」
「これじゃ帰れない……」
がくぜんとした後うなだれる遠藤を見ても横田は全く動じなかった、それもそのはず、赤い砲身のように見える物体を見つけたからだった。
これは懐かしの「ピンクバルーン」を作れる機械で、なおかつ、「その中に人を入れられる」品だった。
「おお、これさえあればまだまだ未来のある遠藤君は」
横田の目が、輝いた。
ここから横田は遠藤に、
「今からお前に指示を出す。絶対に守ってくれ」
遠藤は迷いなく、
「わかりました。でも一つだけいいですか?」
「何だ?」
「横田さんは、この後帰れるんですよね?」
横田は何も答えなかったが、しばらくして、
「無事、生還しろよ。絶対にな!」
遠藤の表情が少しだけ緩み、
「はい!」
遠藤は横田の指示に従い、件の砲身から出された明るいピンク色のバルーンの中へ入った、そして、その中で発射されるのを待った。
ほどなくして大きな揺れが起こり、遠藤は星外へ放り出された。
―――
晴れて?宇宙空間を漂い始めた遠藤は、生き延びるために働く勘で、数日間は酸素等が持つと考え、あまり動かないようにした。
そして、運がよかったのか横田が緻密な計算を実行するといったお膳立てをしたからかは分からなかったが、遠藤の入っているバルーンの存在を、巡航宇宙船が通って知ったのだ。
巡航宇宙船に拾われ、事なきを得たように見えた遠藤だった。
が、ただ一つ問題があった。
それは服がないという恥ずかしさの前に、船内にいるほかのメンバーたちが目のやり場に困る、そのことを見越したスタッフから、Lサイズくらいのシップウェアが手渡された。
遠藤はさっそくそれを着て、スタッフに指示を仰いだ。
***
数日後、遠藤のもとに、一通の電子通信が届いた。
内容は《俺は生きてる。お前は生きてるか?》というものだった。
遠藤はその場でボロ泣きが止まらなかった。




