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第5節:夜の告白

本日はここまでとなります。

 その夜。

 甲板では盛大な宴が開かれていた。

 樽酒(ラム酒)が抜かれ、肉が焼かれる匂いが漂う。


「さあ張った張った! 次に真ん中に当てるのはどっちだ!?」


 一角では、助さんが船員たちとナイフ投げに興じていた。

 船員が投げたナイフは的の端に刺さるが、助さんが無造作に投げたクナイは、百発百中でど真ん中を射抜く。


「¡Mierda!(クソッ!) また負けた!」


「悪いですね。……じゃあ、この銀貨は頂いていきますよ」


 助さんは涼しい顔で、船員たちの小遣いを次々と巻き上げていた。


「すげぇなアンタ! 兄貴って呼ばせてくれ!」


 いつの間にか、彼は荒くれ者たちのカースト上位に君臨していた。


 一方、格さんは――。


「ううっ……お前の母ちゃん、苦労したんだな……¡Salud!(乾杯!)」


 巨体の船員と肩を組み、号泣しながらワインを煽っていた。

 言葉は片言だが、酒と涙に国境はない。


「お前も大変だな、謹慎中の坊ちゃんのお守りはよぉ」


「そうなんだよ……聞いてくれよアミーゴ……!」


 酔いつぶれた二人は、がっしりと熱い抱擁を交わしていた。周りの船員たちは呆れつつも、「なんだかんだでイイ奴らだな」と受け入れている。


 そして、喧騒から離れた船尾。


 月明かりの下、光圀とマリアが並んで海を見ていた。


「……父は、死んだのだ」


 酔いも手伝ってか、マリアがぽつりと語り出した。


「事故と言われているが……私は信じていない。父は、我が国の腐敗を正そうとして消されたのだ」  

 

 彼女はグラスを強く握りしめる。


「だから私が継いだ。この船も、父の密命も。……女だてらにと笑われようと、私がやるしかなかった」


 震える肩。

 強がっていても、彼女はまだ十八の少女だ。

 重すぎる荷物を、たった一人で背負っている。

 光圀は何も言わず、ただ隣で海を見ていた。

 そして、自身の杯をマリアのグラスに軽く当てた。

 チン、と澄んだ音が響く。


「ま、たまには肩の力抜こうぜ。俺も謹慎中の身だしな」


 光圀は悪戯っぽく笑った。


「俺なんか、国元で暴れすぎて勘当寸前だぞ? それに比べりゃ、あんたは立派すぎるくらいだ」


 マリアは光圀の横顔を見た。

 月の光に照らされたその表情は、優しく、そしてどこまでも広い海のように頼もしかった。


(……不思議な男だ)


 胸の奥が、温かく疼くのを感じた。


 こうして、奇妙な航海が始まった。

 暴れ龍と女海賊。二人の運命の歯車が、太平洋の真ん中で静かに噛み合い始めたのだ。

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