第2節:異文化コミュニケーション(物理&言語)
本日は続けての投稿です。第1節がちょっと短かったので。よろしくご笑覧ください。
巨大なガレオン船『黒き聖母号』が、小舟のような『神龍丸』に横付けする。
見上げるような高さの甲板から、縄梯子がバラバラと下ろされ、同時に数十丁の火縄銃が光圀たちに向けられた。
「¡No te muevas!(動くな!)」
ドスの効いた声が響く。
甲板には、薄汚れたシャツにバンダナを巻いた、いかにも荒くれ者といった風貌の男たちが鈴なりになっていた。
「¡Malditos vagabundos orientales! ¡Sacad todo el oro!(東洋の漂流者どもめ! 金目の物を出せ!)」
言葉は分からないはずだ。
普通なら。
格さんが「何を言っているのか分からんが、殺気だけは伝わる」と刀を抜こうとする。
だが、光圀はそれを手で制し、ゆったりと両手を挙げて立ち上がった。
そして、ニカっと笑って言い放った。
「¡Hola! ¡Gracias por la ayuda, amigos!(やあ! 助けてくれてありがとう、アミーゴ!)」
一瞬、時が止まった。
銃を構えていた船員たちが、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で顔を見合わせる。
「……え? 今、こいつスペイン語を喋ったか?」
「東洋のサルが?」
光圀は構わず続ける。
「¡No tenemos oro, pero tenemos historias interesantes!(金はねぇが、面白い話ならあるぜ? 俺の船に乗ってみねぇか?)」
「……若殿、いつの間にそのような言葉を」
格さんが目を丸くする。
「ん? お前らが夜な夜な勉強会してるの、知ってたからな。聞き耳立ててたら覚えた」
光圀は事もなげに言う。
助さんが苦笑する。
「……やはり、若殿の才能は底知れませんね。私の『言語模倣』を、ただの聞き覚えで再現するとは」
ざわつく船員たちを割って、一人の人物が姿を現した。
「……騒がしいぞ、何事だ」
凛とした、よく通る声。
現れたのは、豪奢な帽子を被り、真紅のマントを羽織った少女だった。
燃えるような赤毛。
海の色を映したような蒼い瞳。
腰には装飾の施されたサーベルを帯びている。
年齢は光圀と同じ、十八、九といったところか。
男装をしてはいるが、その圧倒的な美貌とカリスマ性は隠しようもなかった。
「船長! こいつら、言葉が通じるんです!」
少女――船長マリアは、興味深そうに眼下の三人を見下ろした。
「ほう。東洋の辺境にも、文明の光が届いていたか。……上げろ」
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