第3章:恋と航海と、野望の地図 第1節:格之進、星を数える
本日は2本投稿いたします。まずは1本目。
太平洋の夜は、吸い込まれるほどに深かった。
頭上には、宝石箱をひっくり返したような満天の星空。
波音だけが静かに響く甲板で、二つの人影が夜空を見上げていた。
「……素晴らしい」
感嘆の声を漏らしたのは、格さんこと渥美格之進だ。
彼は南蛮渡来の奇妙な道具――六分儀を覗き込み、手元の羊皮紙に何やら数式を走り書きしていた。
「星を『道標』として見るのではなく、『数値』として捉える……。この『緯度』と『経度』という概念、扶桑国の測量技術に革命をもたらしますぞ」
その隣には、無口で隻眼の老人、航海長のペドロが立っていた。
彼は格さんの計算書きを覗き込むと、ニヤリと笑ってその広い肩を叩いた。
「飲み込みが早いな、東洋の学者殿。その計算なら、現在のズレは半里もない」
言葉は片言だが、数式と図面は万国共通の言語だ。
格さんはこの航海中、ペドロに弟子入りし、西洋の天文学と航海術を貪るように吸収していた。
「よっ、ガリ勉。船酔いは治ったか?」
夜風に当たりに来た光圀が、ヒラヒラと手を振って近づいてきた。
「若殿! 酔っている暇などありません。見てください、あの星の輝きを!」
格さんは興奮冷めやらぬ様子で南の空を指差した。
「あれが『南十字星』……! 扶桑国では絶対に見られない、南の空の極を示す星です!」
「へぇ。十字架の形をしてんのか。……洒落た星だな」
光圀は星空を見上げ、満足げに頷いた。
「精が出るな、格。お前が賢くなれば、俺も安心して暴れられるってもんだ。しっかり頼むぜ、未来の『天文方』さんよ」
「はっ! この知識、必ずや国へ持ち帰りましょう」
格さんの眼鏡が、星の光を受けてキラリと光った。
感想もお待ちしております! 「ここが良かった」「このキャラが好き」など、一言でもいただけると作者が小躍りして喜びます。




