第八話 作戦会議
一度、五人は部室に集合する。
野球をするため服を着替え、作戦会議と顔合わせ。
「とりあえず、名前も知らんってのは面倒やからな。
自己紹介からいこうか」
最初に名乗り出たのは真希だった。
「ウチは阿倍野真希。
高校一年生や。
超野球少女で、キャッチャーやっとる」
よろしくな、と片手を上げて話を締める。
真希は愛子の方へ視線をやって、続けるように促す。
「私は越智愛子。
私も一応、超野球少女ということになる。
野球部プレイングマネージャーで、三年だ。
これから試合となるので言っておくが、私のことは先輩、監督、マネージャー、ましてや名前そのままに越智だの愛子だのと呼ぶな」
「えっ、じゃあ何て呼べばいいんですか?」
日佳留が間の抜けた声で尋ねると。
愛子はこれでもかというぐらい不敵な笑みを浮かべて答える。
「将軍だ。
名前の一文字、愛を取ってラブ将軍と呼ぶのがなお良い。
諸君は少なくとも、今後私を呼ぶときは必ず将軍、あるいはラブ将軍と呼ぶように」
「は、はい……」
引き気味の日佳留とナイル。
呆れ顔の真希。
そして、どうでも良さげな剣。
次は君だ、と愛子――もとい、ラブ将軍が命ずる。
剣は、はいと答えて簡素に名乗り上げる。
「深水剣です。一年です」
言って、すぐに視線を隣へ。
日佳留の方へ送る。
これを受け、頷いてから口を開く日佳留。
「アタシは剣と同じクラスの、宇佐見日佳留です。
もう陸上部に入ってるので、野球部は今日お手伝いするだけになると思います。
――ね、剣?」
日佳留は剣に確認する。
剣も野球部に入るつもりは無いのだろう、と。
剣も同じ気持ちだ。
頷いて、日佳留の問いに答えてみせる。
「最後は僕だね。
船原ナイル。二年だよ。
僕も体操部だから、野球部に入部するわけじゃない。
そこのところよろしくね」
「え、あんた二年やったんか」
「今更だね真希サン」
こうして、全員が名乗り終える。
ここからが本題。
どうやって野球部の九人チームと戦うか、という作戦の話。
「では諸君。まずはポジションの話から始めよう」
ラブ将軍が早速、といった様子で話しだす。
「言うまでもないが、真希君はキャッチャーだ。
そして、ピッチャーは剣君に頼もうと思う。
それで良いね?」
「はい、そのつもりです」
どういうこと?
と、ナイルが日佳留に小さい声で尋ねる。
が、この件は日佳留もあまり話したくはない。
まあまあ、と押し留める。
「そして私が二三塁周辺を守る。
サードとショートの守備範囲を一人で担う。
一二塁間、セカンドは日佳留君に守ってもらう。
無論最低限しか期待していない。
ファーストのベースカバー、センター方向寄りの遅いゴロの処理は全て剣君に任せようと思う。
そして外野だが、こればかりはカバーしきれない。
ナイル君に全域を守ってもらう。
何もアウトを取れと言うわけではない。
一打ランニングホーマーだけ防いでくれれば十分だ。
白球を拾ってこちらに返す。それに専念してくれ」
ラブ将軍の指示を受け、日佳留とナイルも頷く。
これで守備の話は終了。
続いて、攻撃の話。
「最後に、打撃についてだ。
打順は一番が私、二番が真希君、三番が剣君。
四番にナイル君、五番に日佳留君だ。
五番まで回ったら、そのまま一番まで戻る。
打者が塁上に居て打てない状況にあるのであれば、アウトカウントを一つ増やして次のバッターへ進む。
今回はこういったルールに則って試合を行う。
故に、三番までで点がとれなければほぼ自動的にチェンジになったも同然だ。
恐らく向こうは勝つために手段を選ばない。
三番までを敬遠してくるのも自然な話だ。
そうなれば、未経験者の四番五番にヒットは望めなくなる」
「せやな。
それで、どうやって点取るつもりなんや?」
「ふん。
一点にヒットは要らん。
奴らが満塁になるまで敬遠してきたところで、ヒットエンドランを仕掛けてやればいい。
例えナイル君や他の誰かがアウトになろうとも、私が生還すれば一点になる。
例え二人がボールに触れなかろうが、我々の足と体力なら無理やりホームに帰ることも可能だ」
「なるほどな。そら確かにそうや」
「以上が今回の試合における作戦内容だ。
各人、役割を忘れるな!」
ラブ将軍の呼びかけに、一同がはい、と威勢よく答える。
作戦の伝達は終わった。野球部部室からグラウンドへと向かう。




