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ツルギの剣【再編集版】  作者: 稲枝遊士
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第五十五話 第二の能力




「んなアホな!?


 なんでお前がここにおるんや!」



 驚愕のあまり、真希は立ち上がって声を上げる。


 だが、ステラはこれを見てニヤリ、と笑う。

 してやったり、という顔。



「そんなの、順番に塁を回ってきたからに決まってるじゃ~ん?


 ミーの『もう一つの能力』を使って、ね」



 ステラは闘気を纏っていた。


 今まで見ていた白の闘気ではなく、純粋な、黒の闘気。


 闇の色をした闘気で、左の瞳の中に『夜』の字が浮かんでいた。



「ステラは、この世に存在する数多の超野球少女の中でも類を見ない、二つの字を授かっているのである。


 一つは星。

 光のように素早く駆け抜ける能力。


 そしてもう一つは夜。

 闇に紛れるかの如く、気配を消す能力。


 出塁さえすれば、ステラはこの能力で確実にホームまで帰ってくることが出来る」



「な~んでアバドンが自慢気に言ってるのさ~!


 そこはミーがかっこ良く説明するとこじゃん!」



「ステラのアホでは語彙が足らぬであろうからな。


 吾輩が代理してやった」



「何を~っ!」


 子供の喧嘩のようなやりとりをして戯れる二人。


 だが、これは余裕の現れでもある。

 それが真希にとっては恐怖だった。



 ホームに帰還したステラが余裕なら、まだ分かる。


 だが、さっき空振りしたばかりで、前の打席では三振に倒れたアバドンは不自然だ。


 余裕で冗談を口に出来る状況ではないはず。



「……剣ッ! 次や次!」



 真希は剣にボールを返し、キャッチャーズボックスに座り直す。



 続く二球目。

 一球目とは異なり、今度はピースディープ。


 タイミングを外した形になる。


 横の変化はせず、外角低め一杯を狙う。



「無駄だ。吾輩の衰滅波動の前では、どのようなコースも無意味であるッ!」



 言って、スイングするアバドン。


 ピースディープをバットが捉えることは無い。



 だが、スイングによる衰滅波動の雲が白球を飲み込み――そのまま、弾き返す。


 強烈なエネルギーを貰い受け、大飛球となった。


 ホームランは確実、といったコース。



「これが吾輩の衰滅波動『裏打ち』の力である。


 衰滅波動で吸収した力を、逆に開放し、自在にボールへ与えることが出来る。


 そのために、一打目は空振りしたのである」



 言って。


 アバドンは、悠々とダイヤモンドを回り始める。



「――まだだッ!


 僕が取って見せるッ!」



 ナイルが両腕を地に付き、飛び上がる。


 衰滅波動で飛び上がる白球をキャッチしようというのだ。



「無意味、無意味よッ!


 言ったであろう、吾輩の衰滅波動は自在にコントロール出来るのであるとッ!」



 言って、アバドンは右腕を白球に向ける。

 そして闘気を開放。


 連動し、白球を包む黒紫の衰滅波動も輝きを強くする。


 途端、白球は軌道を変えた。


 ナイルが狙って飛び上がった軌道から大きく逸れる。


 そのまま何者の邪魔も受けず、スタンドへ落下。

 ホームランだった。



「ふむ。


 お主らの魔球の力のお陰でホームランになったようであるな。


 強い力を吾輩に与えてくれたこと、感謝するぞ」



 アバドンは二塁を回りながら、剣に言う。



 ただ、この余裕の言葉は演技であった。


 衰滅波動が吸収するエネルギーには限度がある。

 そして限度を超えた衰滅波動は霧散する。


 また、裏打ちを使うためには、エネルギーを吸収した波動をそのまま出し続けていなければならない。


 これがまた高い負担になる。



 剣の魔球の力は吸収限界を超えていた。


 故に早めに吸収を切り上げねばならなかったのだ。



 それを悟られてしまうのは危険だ。


 故に、圧倒的な力の差があるような素振りを見せてやる。

 衰滅波動に弱点があることを隠す。



 ダイヤモンドを回り終え、ホームを踏むアバドン。


 無情に立ち去るその背中を、真希は苦い表情で見送った。



「――タイムや!


 タイムをくれ!」



 そして叫ぶ。


 誰も許可の声を上げないうちからマウンドに走り寄り、剣の手を掴む。



「ちょっ、真希?」


「来い、剣!」



 そして剣を引き連れ、ベンチへと走っていった。

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