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ツルギの剣【再編集版】  作者: 稲枝遊士
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第五十四話 時間稼ぎ




 攻守交代。


 聖凰は本来なら五番打者から開始だが、三人しか居ない為に一番に戻る。



 三人全員が出塁したら、その時点で打者不足による攻守交代、というルールで続けることとなった。


 敬遠を続ければ深水女子の勝利が確定するのだが、無論、誰もそんなことを望みはしない。



 正面から勝負しなければならない。


 深水女子はそれをよく理解している。


 一週間前の戦いで自ら味わったのだから。



 聖凰の一番打者、ステラが打席に立つ。


 既に白い闘気を身に纏い、右の瞳に星の字が浮かぶ。



(必ずヒットを放つ。


 ミーの魂を救ってくれた、ジュンの為に!)



 ステラはかつて、自分が盾の仲間になった時のことを思い返す。


 ヨーロッパで唯一の超野球少女であったステラは孤独であった。



 同じ力を持つ仲間も無く、それでも自分の野球能力に期待する人々の声に答え、野球を続けていた。


 誰一人として己の本質を見てくれない。


 それでも、望まれるのであれば。


 誰かの心に感動を呼ぶことが出来るなら。



 お調子者でお馬鹿なのに、野球は上手い。


 そんな偶像の存在を演じて生きる、と覚悟した人生であった。



 物心ついた頃には、既に己の願いに生きることすら許されない人生を歩んでいた。


 本当は花を愛で、夜空に輝く星に胸をときめかせる。


 そんな穏やかな人生を歩みたいとさえ願っていた。



 しかし、例え結果次第では容易に失望されるものであっても、自分の野球に胸を熱くする人の心は本物だと知っていた。


 だから裏切れなかった。


 願いの叶わぬ悲しみを知っているから。

 人々の期待に答えようと思っていた。



 そんな時、盾が表れたのだった。


 火群盾は、自分の目指す野球の為、運命を共にする超野球少女を探していた。


 そしてステラを見つけ、日本に連れてきた。



 盾の語った野球道は、ステラの野球道に似通っていた。


 ずっと一人きりだと思っていたステラは、心に涙が流れた。


 一人きりではない。

 同じ戦いの中に生きる人が居る。


 それだけで、ステラの心を蝕む孤独感は吹き飛ぶようだった。



 盾が今の野球を目指していたからこそ。

 ステラを勧誘してくれたからこそ、ステラの心は救われたのだ。


 そして今――心から、野球を楽しむことができている。



「さあ、好きな魔球で来ていいよ~。


 ミーは必ず出塁するからね」



 お調子者らしい言い方で宣言するステラ。



 その発言が嘘偽りでないことを、深水女子の全員が理解していた。


 守備の時に見せたあの足の速さ。

 日佳留の縮地にも並ぶだろう。


 本来なら凡打であっても、ステラなら悠々内野安打にしてしまう。



 だが――それでも。


 ボールを触られるだけでもヒットになると分かっていても。


 剣はクリオジェニックショットを放つ覚悟が出来なかった。



 剣の投球。

 魔球、ピュアディープ。


 芯をずらす横の変化をつけながら、膝元ギリギリに投げ込む。



「無駄だよッ!」



 ステラは言って、スイングを魔球に合わせてくる。


 流し方向への平凡なゴロだ。


 セカンドに立つ日佳留が縮地で前進。



 剣よりも更に手前で捕球するが、既にステラは一塁に迫っていた。


 急いで一塁を踏みに戻る日佳留。


 だが、縮地でももう間に合わない。


 ステラは一塁を駆け抜けた。

 セーフ、内野安打。



 続いて、二番のアバドン。


 打席に立ち、黒紫の波動を開放。


 そして、バットに纏わせる。



「さあ、吾輩の衰滅波動の真髄、見せてやろう」



 剣はアバドンのことを警戒しながらも、魔球を投げた。


 限界突破のディープショット。



 アバドンはこれをスイングで捉えられず。


 タイミングも合わず、かなり早いタイミングでの空振り。


 衰滅波動の雲が軌道に生まれ、その中を魔球が貫いた。



「なんや、口だけかいな」


 真希がアバドンを煽る。


 だが、アバドンはこれを鼻で笑った。



「今のはわざと空振りしたのだ」


「はぁ? なんでや」


「無論、一つは時間稼ぎである」



「――そうそう。


 ミーがホームに帰ってくるまでのね~♪」



 不意に、真希の耳に聞こえてはならないはずの声が届く。


 驚いた頃には、もう遅い。



 すっと、まるで最初からそこに居たみたいに。


 ステラの姿がそこにあった。

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