第三十四話 試合開始
試合開始。
一同整列しての礼をして、各自守備につく。
先攻は深水女子。
一番打者は日佳留。
日佳留はフィールド上を見渡す。
先週の宣言通り、盾がピッチャー。
センターにアバドン、ショートにステラ。
他の守備位置に居るのは、超野球少女ではないのだろう。
直感的にそう理解する。
闘志というか、ぎらつくものが無かったからだ。
(センターとショートに向けて打つのは危ない。
とにかく転がせば、私の縮地で一塁は確実に踏めるはず!)
日佳留は右打者なので、流し打ちを意識することに決める。
「――無駄ですわよ。
貴女はわたくしからヒットを打つことは出来ない」
マウンド上の盾が宣言する。
だが、所詮煽りだ、と日佳留は判断した。
無視して意識を集中する。
第一球。
盾の身体から闘気が、緋色の炎が立ち上がる。
そして額に浮かぶ焔の字。
超野球少女として背負う能力。
正体こそわからないが、今は全力でぶつかるのみ。
日佳留は力を解き放つ。
金色の闘気が弾け、盾の炎と押し合いになる。
盾が足を上げた。
左投げの、オーバースロー。
ぐっと大きく引き上げられた腿。
そこから前へ飛び出すみたいな踏み込みを経て、白球は放たれる。
赤の闘気が乗り移り、火球となって迫る。
球速は百六十キロにも及ぶだろう。
が、日佳留には球が見えた。
変化も何も無い。
ただの剛球ストレート。
確実に狙ってのスイング。
転がすだけでいいのだ。
全力は必要ない。
だが――信じられないことが起こる。
日佳留のバットが火球を捉えた瞬間。
闘気が爆発を起こす。
衝撃に弾き返されるバットと日佳留。
そして白球は、叩きつけるような方向から打たれたにも関わらず――まるで跳ねるように高く浮き上がり、盾の方へと飛んでいった。
「な、何が起きたの!?」
尻もちをついた姿勢のまま驚く日佳留。
盾はそれに笑いもせず。
決闘に燃える、凛とした表情で答える。
「これがわたくしの奥義。魔球『炎城』ですわ」
言って、盾は落ちてきた白球を叩くように捕球する。
闘気の残り香が弾け、火の粉が舞う。
盾の身体から立ち上がる赤の輝きは衰えることなく、未だに燃え続けていた。
「どんな打法も無意味。
全ての力をわたくしの炎城はねじ伏せます。
そして必ず、わたくしの手元へ帰ってくる。
貴女達はヒットを打つことは出来ません。
例え全力のスイングでバットに捉えようとも、それをわたくしの闘気が叩き潰し、必ずフライアウトに仕留めるのですから」
盾の宣言。
その魔球の恐ろしさに、日佳留だけでない全員が打ち震えた。
想像の範疇を超えた魔球。
飛ばすことの出来ない魔球など、どうやって打てというのか。
深水女子の全員が唖然としていた。
「わたくしを打ち倒したければ、全力の力でかかってきなさい。
わたくしの焔を、貴女達のスイングで打ち消してみなさい!
見ての通り、わたくしは闘気に身を削られるような鍛え方はしていません。
この程度の魔球、何百球でも投げ続けてみせますわ。
スタミナ切れを狙っても無駄です」
言い放つ盾。
深水女子の誰一人として、盾の魔球に対向する手立てを思いつかなかった。
口を噤む。
日佳留も悲惨な様相でベンチへと戻っていく。




