表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツルギの剣【再編集版】  作者: 稲枝遊士
22/25

第二十二話 宿敵




 ――一方、同時刻。深水島の某所、合宿所。



 他方から深水島まで練習試合の為、遠征に来た団体が宿泊する施設。


 多くの優秀な生徒を抱える深水島の各学園は、他県から団体を招致して試合することも少なくない。


 なので、合宿所は頻繁に、多くの人々が入れ替わり、利用する。



 現在合宿所を利用する団体のうち一つ。


 聖凰高校野球部二軍。


 来週に深水女子野球部との練習試合を控え、メンバー全員がここに宿泊している。



 聖凰高校の為に用意された宿泊施設の一室。

 三人部屋。


 そこに少女が居た。白いフリルをあしらったドレスに身を包み、金髪を縦にくるくると巻いており、まるで何処かしらの王国の姫のような外見。


 そして、不釣り合いにも、手には白球。



「――ただいまだよ~、ジュン!」


 部屋の扉を開き、一人の人物が入ってくる。


 金髪碧眼で、日本人離れした顔立ちの少女。



「遅かったですわね、ステラ。


 偵察の方、どうでしたか?」



 ジュンと呼ばれた少女はドレスを優雅に操り、美しく振り返る。


 高貴な印象を与える身振りから、なおさら白球が違和を訴える。



一方で、ステラと呼ばれた少女は気の抜けた笑顔を浮かべて言う。


「あ~、それね。


 なんかグラウンド周りでこわーい顔した野球部員さん達が見張っててさ。


 それで私、全然近づけなかったんだ。


 仕方ないから諦めてアイス買って食べてたよ」



「あのねぇ……それじゃあ偵察にならないですわ。


 ちゃんとしてくださいまし」


「まあまあ、そう怒らないでよ。


 ジュンの分もちゃんとアイス買ったから」


「あら、それは本当かしら」


「もちろん。


 まあ、帰ってくるまでに我慢できなくて食べちゃったけどね」


「駄目じゃない。

 もう、ステラったら……」


 呆れて頭を抱えるジュン。


 ステラは、悪びれもせずに、ポケットからレシートを出す。



「はい。

 カントクに渡して、経費で落としといてね~」


「いい加減にしないとしばきますわよ?」



 ジュンの脅しも何のその。


 ステラはそそくさと部屋へ上がり、ソファに腰を落ち着けた。


 まるで緊張感の無い様子に、ため息を吐くジュン。



 と、そこへ。

 再び部屋の扉が開く。


 入ってきたのは、褐色の肌をした少女。

 アジア系の顔立ちではあるが、日本人ではない様子。



「遅くなった、ジュン殿」


「お帰りなさい、アバドン」


 ジュンは、褐色の肌をした少女をアバドンと呼んだ。



「貴方はステラのような失態など犯しませんわよね?」


「無論だ。


 吾輩はそこのくるくるぱーとは違うのである」



 ジュンに言われ、アバドンは妙に古風な口調で答える。


 これを聞いて、ステラがむっと頬を膨らませる。



「何を~、アバドンめ!


 ミーが何をしてきたか知らないのによくそんなこと言えるね!」


「どうせ偵察失敗してアイスでも食ってたのであろう。

 吾輩にはお見通しである」


「……そんなこと無いし~?」


「嘘を吐くのはおやめなさい、ステラ」



 悪びれないステラに、ジュンもアバドンも呆れ顔。


 放置し、話を進めることにする。



「それで、偵察の結果はどうかしら?」


「うむ。

 深水女子高等学校野球部は、どうやら内部分裂しているらしいのだ」


「内部分裂?」


「超野球少女でチームを強化した結果、普通の部員が反乱を起こし、暴力的な野球で超野球少女に制裁を加えている、というところである」


「ふふっ。

 愚か者共ですわね。


 超野球少女側も、反乱を起こした側も」



「だが、問題は超野球少女側の数だ。


 向こうは五人の超野球少女を抱えている。


 我々はジュン殿、ステラとかいうクソアホ、そして吾輩の三人のみ。


 数の上では不利である」


「お~いアバドン?」


 クソアホ呼ばわりされたステラが、抗議の声を上げる。


 だが、アバドンもジュンも無視。

 放置して話を進める方向だし、そもそも事実だ。



「問題無いですわ。


 わたくしの魔球であれば、例えどんな超野球少女でもヒットを打つことは不可能ですもの。

 十人だろうが百人だろうが、かかって来いというところですわ」


「うむ、それについては心配しておらぬ。


 問題は、奴ら五人の超野球少女の中に、厄介な人物が一人紛れているのだ」



 アバドンは言いながら、部屋へ上がる。


 そして、テーブルの上に写真を広げた。



「奴らの様子を盗撮した。


 無駄な写真も紛れてはいるが……この一枚を見て欲しいのである」



 言って、アバドンは一枚を指し示す。


 ジュン、そしてソファーを離れたステラが写真を覗きこむ。



 それは他でもない。


 マウンド上から魔球を投げる、深水剣の姿だった。



「これは――ッ!」



 ジュンが驚きの声を上げる。


 途端に、憎しみからくる表情が顔に浮かぶ。



「青い闘気。

 浮き上がる魔球。


 そして、グラウンド上の仲間が呼んだ名前。


 総合して考えると、この少女は以前ジュン殿が話していた少女、フカミツルギではないかと推測する。


 どうであるか?

 ――と、聞くまでもないようであるな」



 アバドンはジュンの様子を見て、話を区切る。


 ジュンは頷き、剣の写真を殴るように、拳をテーブルに振り下ろす。


 ダアン、と大きな音が響く。



「この面構え……忘れもしませんわ。


 わたくしが生涯を懸けて憎み恨み否定してやると決めた顔。


 この少女、深水剣で間違いありません」



 ジュンは笑った。


 怒り故か、剣を憎む感情が、恐ろしい笑みとなって表れた。



「楽しみですわ。


 わたくしが全身全霊で奴を否定してみせます。


 奴の野球を打ち破り、奴の犯した罪を余すこと無く全て広めてやりましょう。


 そうすることで、剣から野球も仲間も、全て奪ってみせます。



 あの日から野球を辞めたと思っていましたが……こんなところで続けていたとは。


 好都合ですわ」


 言うと、ジュンは部屋の片隅に置いてある日傘を手に取った。



「行きましょう、お二人共。


 奴らに宣戦布告するのです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ