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ツルギの剣【再編集版】  作者: 稲枝遊士
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第十七話 格付け




 ラブ将軍が打席に立つ。


 立っていることさえ苦しい怪我。

 足取りは覚束ない。


 片手で持ったバットが杖代わりになって、なんとか身体を支えている。



「そんな身体で何が出来る。


 地力で打席に立つことすら出来ないような腑抜けめ」



 元部長の挑発。


 だが、ラブ将軍は不敵に笑う。


「ああ、大したことは出来ない。


 貴様らには取ることも叶わないような、大飛球を浴びせてやるのが精々だろうな」



 無謀な宣言。


 ホームランを打つというのか。

 この状況で。


 デッドボールや敬遠球しか飛んでこないだろう。


 それでも、打つのだろうか。



 あまりにも現実離れした言葉。


 だが、元部長は恐れた。



 立て続けに不可能が可能になってきた。


 剣のエンタイトルツーベース。

 日佳留の内野安打。


 そして今度は、ラブ将軍が。


 正に不可能そのものへと挑んでいる。



「来い、愚か者共。


 貴様らの憎悪は生温い。


 漠然と起こした癇癪同然の感情など、まるで及ばんぞ。


 真希君、日佳留君、私、そして剣君のような人間には。


 血肉を燃やし輝く者の前で、圧倒的な力の前で、猿知恵など役に立たんということを教えてやる」



 ラブ将軍は、元部長、元野球部員達を煽る。


 どこからこの高慢な態度がでてくるのだろうか。

 誰もが疑問に思った。


 不気味にさえ感じるのだ。


 誰の目にも、戦えるような状況ではない。

 それでなぜここまでのことを言えるのか。


 力の差は、むしろ逆転しているのではないか。


 ホームランなど夢の話、スイングすることさえままならないのではないか。



 様々な疑念が渦巻く。

 元部長もまた同じであった。


 唯一つ、安全策は敬遠以外に無いと考えた。


 ラブ将軍が何をしようが、バットが届かなければホームランなど打つことは不可能。


 一方で、デッドボールのコースでは既に剣のエンツーという前例がある。


 敢えて死球を狙わずとも、再び塁上で傷めつけてやればいい。



「――敬遠しろ!」



 元部長は叫ぶ。


 投手、そして捕手もまた、それしか無いと考えていた。


 頷く。



 捕手が立ち上がり、十分な距離を取って手を上げる。


 情けないミットへ向けて、投手はゆっくりと、山なりの敬遠球を投げる。



 ――その瞬間だった。



 ラブ将軍は地面に突いたバットを持ち上げ水平に保つ。


 そして、まるでハンマー投げでもするかのように回転を始める。



「待っていたぞ!

 この緩く遅い敬遠球をッ!」


 ラブ将軍は十分な回転により強い遠心力をバットへ与える。


 そしてボールが近づいてくるとバットを手から離し、投げ飛ばした。


 瞬間的に手首のスナップを加えることにより、バットまでもがプロペラのように回転。



 そして、白球を捉える。

 バットの芯が直撃。


 ラブ将軍の回転と手首のスナップにより、バットに与えられたエネルギーが、白球へと伝導していく。



 これがラブ将軍の狙いだった。


 遅く緩い敬遠球相手であれば十分な回転時間が取れる。

 エネルギーも十分に蓄えられる。


 また、白球に狙いを定めやすい。


 ふらつく足でも、回転運動であれば遠心力で体重が支えられ、立つことに労力を費やす必要もない。



 見事に捉えられた白球はぐんぐんと伸びていく。


 外野が慌てて追いかけるが――無念。



 白球はギリギリで仮設フェンスを超えて着弾。

 完全なホームランとなる。


「――ふん。この程度の飛距離では誇る気にもなれんな」



 ラブ将軍は皮肉を言って、それが強がりだと誰の目にも分かるぐらいの危なげな足取りでベースラン。


 二塁上に倒れる剣は日佳留が抱え、全員がホームへと帰還する。



 一挙四点。

 現在五対〇で、点差を五点とした。


 今回は五回までの十点差でコールドゲームとなるので、残り五点で試合終了となる。


 故に、この満塁本塁打は勝利へ大きく近づく一打となった。

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