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ツルギの剣【再編集版】  作者: 稲枝遊士
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第十二話 制裁




「――お前らがどんだけウチらを憎いのか知らんが、甘ったれるなよ。


 おどれら無力やからウチらに負けたんや。


 戦いに敗れたもんは全てを奪われる。

 居場所も、人生も、未来も。何もかも失うんや。


 それが勝負ってもんやろ。


 それぐらい分かっとるやろ。


 真剣勝負は、一球一打に精魂込める戦争なんじゃ!


 雁首並べて突っ立っとる以上、奪われるだけ奪われるのは分かっとるやろうが!



 それで壊されたやのなんやの言うて、今さら被害者面するなよ。


 お前らも、ウチもおんなじや。

 奪い潰し合う加害者同士やないか!」



 バッターボックスの中から、グラウンドへ向けて挑発する真希。


 これに、元部長が声を貼り上げて答える。



「黙れ!


 恵まれて生まれてきた人間に何が分かるか!


 必死に努力して、どうにか形にしたものが全部壊される。


 あんたらみたいな才能に恵まれた人間が、まるでゴミクズみたいに努力を皆殺しにする。


 生まれてからずっと奪う側でいた人間が、奪われる側の人間の気持ちなんか分かるわけない!」


「どこまでも阿呆か貴様ら。


 ほざくなよ!


 才能に恵まれとろうが、奪われる時は奪われる。


 全ての頂点におる人間以外は全員同じ地獄の釜で茹だっとるんや。

 知ったような口を聞くな!


 お前らが当然のように持っとるものを捨てて、捨て尽くして、それでどうにか超野球少女やってんねん。


 ただ生まれてぼーっとしとっても才能ありゃあ勝てる、なんて大間違いやで!」


「ふん、それでいい。


 そうだよ。

 お前たちも奪われるんだよ。


 野球でどんだけ勝ち続けようが、最後には何もかも失う。


 私達と同じようにな。――やれェッ!」



 元部長の絶叫。


 マウンド上のピッチャーが頷き、セットポジションを取る。


 真希は、恐らくデッドボールが来るだろうと身構えた。

 来ると分かっていれば避けようもある。



 だが、予想は外れる。


 不意にピッチャーはプレートから足を外し、一塁側へ送球。



 牽制だ。



 負傷したラブ将軍はリードもしていないのに、何故。


 という疑問も一瞬。


 誰もがすぐさま意図を理解した。



 憎悪と悪意に満ちた元野球部の考えそうなこと。


 ――牽制球を捕球するフリをして、ラブ将軍に暴行を加えようというのだ。



「逃げろ、ラブ将軍ッ!」


 真希の叫び。

 無論、ラブ将軍も身構える。


 だが、何の意味があろうか。


 塁から離れることは出来ず、かと言って反撃することもままならない。


 殴られる覚悟以上の何が出来ようか。



 牽制球は高めに飛ぶ。


 一塁手はこれをジャンプして取り、わざとらしくラブ将軍の足を狙って着地。


 脛をごりごりと削るようにスパイクが滑る。



「ぐぅッ!」


 ラブ将軍は、痛みを堪える。


 暴力に決して屈するものか、と。



 情けない悲鳴を上げることを自身に許さない。



 牽制はアウトにならず。

 だが、暴行自体は成立してしまった。


 一塁手がピッチャーへと返球し、再びセットポジションに。



 今度こそ自分へのデッドボールが来るかと思った真希。


 だが、ピッチャープレートから足は外れた。


 再び牽制球。



 一塁手は塁から離れており、助走をつけてベースカバーへ。


 ボールを捕球しながら、逃げることの出来ないラブ将軍へ膝蹴り。


 崩れるように倒れこむラブ将軍。



 だが、それでも塁から離れなかった。


 執念で塁上に張り付く。



「やめろやァ! これ以上殴る必要がどこにあるんや!」



 真希が叫ぶ。

 怒りと、悲鳴の叫び。


 だが、元部長は皮肉に笑う。



「いくらでも殴るさ。


 あんたたちから奪えるだけ奪い尽くす。


 これはそういう勝負だろ、 超野球少女さん?」


「こんなん勝負ですら無いわ!

 殴るならウチを殴れ!


 正々堂々、ウチを殺しに来いや卑怯もんが!」



「お前も後で殺してやる。

 あのボロ雑巾を引き裂いた後でな」



 引き続き、牽制球。


 一塁手はやはり、わざと塁から離れていた。

 助走を付けての暴行。


 避けることも出来ないラブ将軍は、一方的に暴行を受けるのみ。


 そしてまたボールは返球され、また牽制。



 延々と繰り返される暴力行為。


 グラウンド上で異様なプレイが続く。

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