第十一話 攻守交代
ベンチ側に五人が集まる。
真っ先にラブ将軍が口を開いた。
「すまない真希君っ……!
私が判断を間違った。
まさか奴らがここまでするとは思っていなかった。
君の傷は私の責任だ。
もし望むなら、君の気が済むまで私を殴ってくれて構わない」
ラブ将軍は言いながら、真希に土下座して頭を下げた。
が、真希は困ったような表情で受け答える。
「ええって!
顔上げてくれや、ラブ将軍。
あんたに頭下げられてもどうにもならんって。
それに、軍の大将がそんなみっともないことしたらあのクソッタレ共にナメられてあかんわ」
「それもそうだな……償いは打席と塁上でやらせてもらおう」
頭を上げ、立ち上がるラブ将軍。
バットを手にして、そそくさとバッターボックスへと向かう。
ラブ将軍は考える。
恐らく相手は敬遠してくるだろう、と。
だが、キャッチャーは座ったまま動かない。
ピッチャーはマウンド上で足を上げた。
(勝負に出るつもりか?)
半信半疑ながらも、ラブ将軍も身構える。
打ってやろう。
彼方まで白球を運んでやる。
そして放たれた白球を睨み、目で追った。
気付いた時には――遅かった。
無情にも、勝負をする気ではなかった。
白球は真っ直ぐ、ラブ将軍の頭部へ向かって直進する。
油断していたラブ将軍の額に硬球が直撃。
ラブ将軍は倒れる。
「そんな、ラブ将軍!」
剣がベンチから声を上げた。
心配から駆け寄ろうとする四人。
だが、ベンチから出る前にラブ将軍が立ち上がる。
「そういうことか……」
額から血が流れる。
ラブ将軍の顔を。
ユニフォームを。
血が真っ赤に染め上げていく。
「どこまでも汚いな、外道共が!
敬遠どころか、意図的な死球か!
見損なった、野球人として最低だよお前たちは!」
怒鳴りつけるラブ将軍。
だが、もう元野球部員チーム側も止まらない。
どれだけ暴力に怒ろうが、復讐心は消えない。
「何と言われようが、私達はあんたら超野球少女を許さない!」
ショートの守備位置に立つ、野球部の元部長が声を張り上げる。
「お前らは他人の努力を踏みにじる畜生だ!
どんな理由があるか知らないが、私らが続けてきた野球部がめちゃくちゃにされたのは事実だ。
そんなの、許せるわけがあるか!
たとえあんたらが正しかろうが、私は絶対に許さない。
復讐してやる。
あんたらも野球ができなくなるぐらいの酷い目に合わせてやる!」
第三者、観戦者の居ない勝負。
どれだけ暴力的な手段に出ようとも、野球部員全員が口裏を合わせればどうとでも隠蔽出来る。
となると、元部長の言うことはあまりにも現実的な話だった。
復讐に怒り狂った集団を相手にするのだ。
例え後々悪行を裁かれることになろうとも、今この場に邪魔が入りさえしなければ、復讐は最後まで成し遂げられるだろう。
真希、そしてラブ将軍は、無残にも暴力に蹂躙されることになる。
「……許さない」
剣は声を漏らした。
「私、こんな野球は絶対に許さない……っ!」
怒りに拳を握る剣。
微かに青い光が立ち昇る。
「まあ、抑えてくれや剣ちゃん」
真希が剣の肩に手を置く。
表情は、剣同様険しい。
だが、どこか落ち着いているようでもある。
デッドボールの為、ラブ将軍は出塁。
まるで元野球部のどす黒い憎悪に抗議するかのように。
血で汚れた姿のまま、堂々と塁上へ。
続く打者、阿倍野真希。




