第9話 ことわらなかったぞ
翌日、俺は上機嫌で学校に向かった。
今日もスライムを狩って、金を稼ぐつもりだ。
財布には、昨日稼いだ金が1万円以上もある。
俺にとっては大金だ。
……ムフフ。
ぎりぎりで教室に滑り込むと、すぐに田淵がやってきて、出欠を取り始める。
「相田ー」
「はい!」
「赤嶺ー」
「はい」
「赤嶺、あまり早引きが多いと留年するから、出席日数には気をつけろよ!」
……クッ、保健室と言い出す前に先制攻撃をされてしまったぞ。
ぬかったぜ。
黙って頷く。
仕方ない。
…………今日は我慢して授業を受けるか。
出欠を取り終わると田淵が話しはじめた。
「明日の球技大会は、全員が出場するように。分かったな。平田、中条、大丈夫だな?」
…………球技大会、明日だったのかよ。知らなかったぞ。
「はい。大丈夫です」
学級委員長の平田翔と副委員長の中条明日香が返事をした。確か男子がサッカー、女子が9人制バレーボールだったと思う。
俺達2組は男女とも10人だったので、男子は全員が参加しても11人には一人足りない。1組は男が確か11人だったはず。
人数的に不利だが、誰か休んだらその差は決定的になる。
…………俺も休むわけにはいかなそうだ。
一限目の授業が終わり、平田翔が立ち上がると宣言した。
「男子は、今日昼休みにサッカーのポジション割を決めます。すぐ決まると思いますが少し時間をください」
あ、そうなのかと軽く感じていた。
そして昼休み。
久しぶりの給食、美味かったなと思ってぼっとしていると、ポジション会議が始まった。
クラスのサッカー経験者を中心に、大方のポジション・前衛から中盤までは決まっていて、残りの者がバックということになった。
左右真ん中はその時次第で適当に決まるのだが、それで別段問題はない。
そこまで厳密に決める必要を、誰も感じていないということ。
問題なのは、誰がゴールキーパーをやるかだった。
残った4人に当然俺が含まれていた。
残った四人が下を向く。
「誰がゴールキーパーやるんだ。四人でジャンケンするか?」
「無理! おれできねー」
「俺も無理。赤嶺が良いんじゃね」
「そうだよ。赤嶺やれよ!」
下を向いていた3人が俺にゴールキーパーを押しつけだした。
俺だってやりたくないが、この流れに逆らうには無駄だろうなと思った。
「分かったよ。でも、俺だって上手くはできないよ」
「そんな弱気じゃ困るんだよね」
サッカー経験者の一人が俺を睨む。
横山っていう奴だ。
俺としては、かなり譲歩したつもり。
キーパーをやるって言ってるのに、ひどい言いようだぜ。
「一組のフォワードはサッカーのユースに入ってるやつがいるから強いぜ。気合入れて守ってくれよ。こっちは1点取れればいいほうだからな」
「そんな上手いやつがいるんじゃ、俺じゃあ点取られるんじゃね?」
「気合入れてやれよな! 絶対点取られるなよ。この泥棒やろー」
…………『この泥棒やろー』は余計だろう。
いじめか? 言いすぎだろ。
点取られたら、またとやかく言ってくるのか?
「とにかく頼んだよ。赤嶺君」
委員長が割って入ってその場を収める。
睨まなくってもちゃんとやるよ、横山。
……ああ休みてー。
そのまま解散になったわけだが、戻りざまに横山が振り返った。
「放課後キーパーの練習してやるから残ってろよ!」
えー、やなんですけど。
保健室に逃げよ。
今日は午後の授業は2時間ある。
俺はさっそく保健室に逃げ、途中から校外に出た。
早引きになってもキーパー練習にかこつけたリンチは勘弁願いたい。
…………ストレス発散はよそでやってくれ。
石神公園に退避しようか、それとも家に帰ろうか?
昨日に続いてダンジョンに行くのは、受付のお姉さんから不登校者としてチェックされそう。
考えた末、一旦家に帰ろうと決めた。
家につくと、かーちゃんがテレビの前に寝転んでドラマを見ていた。
「ただいまー!」
「おかえりー。早かったね」
早引きしてきたし、時間も潰してないからな。
いつも家に帰ってくるのは夕方だ。
かーちゃん的には早いと思うだろう。
「明日、球技大会だから、今日は早上がりなんだよ」
すみません。
嘘です。
かーちゃんが心配しないように、思いやりの嘘をつきました。
なにせかーちゃんは、俺がちゃんと学校に行ってると思ってるんだから、不登校になってるとは、これっぽっちも知らないんだ。
いずれバレる嘘をつくのも、地味に心苦しい。
「今日は、男来るの?」
「ごめんよ。晩御飯はどこかで食べれるだろ。金はあるみたいだしね」
昨日稼いだからな。
「あるから大丈夫。じゃあ、俺また朝、帰ってくるわ」
「そうしておくれ」
さてと…………今からならダンジョンいっても学校帰りと思われる時間かな?
俺は体操着に着替えて池袋西探索者ビルに向かった。
今日は昨日見つけた路線バスを利用する。
バスが通ってよかったわ。
石神公園前バス停でバス待ちをしていると、授業が終わったのか校舎から出てくる生徒は目についた。
……バス待ちをしてるところを見られたらやばいかな?
一区間だけ歩いちまうか。
俺は昨日乗って知っていた、バスの路線に沿って駆け出した。
あれ! 俺、こんなに早く走れたっけ。
全力で走っているわけではないのに、とても早く走れてる気がする。
……たぶん気のせいかな?
この時の俺は、ステータスが上昇したことの効果がどういうものか、まだ全然理解していなかった。
バスの一区間分なんてたいした距離じゃない。
俺の家までのほうが遠いくらいだ。
俺はバス停につくと路線図を確認してここでバスに乗って池袋西探索者ビルにつけることを確認した。
そしてバスが来るとそれに乗り込み、池袋西探索者ビルに着く。
ダンジョンに入って、またスライム狩りを始めた。
今日は竹槍も持っていない。
『スチール』を何度もかければスライムが死んでしまうのは、昨日で分かっている。
1メートルくらい離れたところから『スチール』をかけているので、あんまり反撃もしてこないしな。
「スチール!」
防御外皮1をスチールしました。
「スチール!」
知力1をスチールしました。
「スチール!」
速さ1をスチールしました。
「スチール!」
HP1をスチールしました。
「スチール!」
スライムの胃袋をスチールしました。
「スチール!」
MP1をスチールしました。
「スチール!」
HP1をスチールしました。
スライムがどろりと広がり、水たまりになった。
転がっている魔石を拾う。
スライムゼリーを盗む前に死んじまったか。
狙って盗むには、……やっぱり頭で思い浮かべるのかな?
次のスライムを見つけたので早速試してみる。
「スチール!」
防御外皮1をスチールしました。
失敗か!
「スチール!」
スライムゼリーをスチールしました。
やった。今度は二回目でゲットしたぜ!
やっぱり思い浮かべたのが良かったのかな。
じゃあスライムくん、思い残すことなく死んでくれ。
「スチール!」
速さ1をスチールしました。
「くそ! スチール!」
HP1をスチールしました。
「スチール!」
スライムの胃袋をスチールしました。
なかなか死なねーなあ?
「スチール!」
MP1をスチールしました。
「スチール!」
HP1をスチールしました。
スライムがどろりと広がり、水たまりになった。
やっと死んだか。俺は、転がっている魔石を拾った。
この調子でどんどん行くぞー。
そして俺はスライムを倒しながら奥へ入っていくと、先の方に人がいるのが見えた。




