第3話 |是山道造《これやまみちぞう》
3-?-3
今度は三でフィーバーしそうだ。真ん中の数字が回転しそのスピードがだんだんゆっくりし始める。そろそろ止まりそうだ。またそろうのだろうか? 俺は期待しながら台を見つめる。
「3がくるじゃろう! 確変になったんじゃから続かなかったらぐれちゃるぞい!」
確変になった?
俺には分からないがジジイには分かることがあるらしい。
俺はルーレットの数字を見つめる。
「3! 3! 3!」
俺は、祈りながら呟く。
「来い! 来い!」
ジジイもパチンコ台を凝視する。
ピコピコピコ!
8! 7! 6!
「来い!」
5! 4! 3!
「来い!」
2!
「行き過ぎた!!」
一瞬、止まったように見えた。
次の瞬間――
「来い!」
ジジイの掛け声。
3!
「よし!」
……って、戻るんかーい!
心の中で全力ツッコミ。
俺は驚いたが、ジジイは当然のごとくムフフという表情。
俺はだめだったと思っていたのだが、戻ってフィーバーしちゃったよ。
――スゲー。
でもそのあと何度も見ていたら、必ず戻るものらしい。
演出かよ!
またまた、下方の受け口が開き怒涛の勢いで打った球を飲み込み始めた。
チン! ジャラジャラ! チン! ジャラジャラ!
再び始まる出玉の嵐。
ジジイが、フウと一息をつき背もたれに体重をかける。
「まだまだ確変じゃぞ!」
俺は、いつの間にか自分の台で打つのを止めて、ジジイの台に見入っていた。
ジジイはそのことに何も言わず、むしろ打たないでよしというスタンス……だと思う。
「さあ! もう一回じゃ!」
ルーレットがまた回りだし、当然のようにリーチがかかる。
――注目。
7-?-7
今度は7でフィーバーだ。
来い!
俺の拳に力が入る。
そして再び7がそろう。
フィーバー突入!
チン! ジャラジャラ! チン! ジャラジャラ!
結局フィーバーを7回続け、打ち止めになってこの台の勝負は終わった。
――大箱4個半。
ジジイはどや顔で俺を見る。
「すごかったっすねー! 俺、こんなの初めて見たっす!」
実際、毎日『打ち止め』はおこっていたが、こんなに近くで見たのは初めてだった。
いつもはテレビ見てたからね。
他人のパチンコしてるとこなんて見ないよね――普通。
「ワシは、だいたい毎日こんな感じじゃぞい!」
ジジイ、それはちょっと盛りすぎでしょう。
……でもジジイ、けっこう金持ってたよなあ。
パチプロか?
……ほんとにパチプロなら弟子にしてもらおうかな。
「両替に行くぞい」
「運びますねー」
いつの間にかスタッフが大箱四つを運ぶ態勢に入っている。
ほんとこの人、忍者みたい。
いつの間にかそばにいるよねー。
ちょっと怖。
俺はジジイについてカウンターに向かった。カウンターにはいろんな商品が飾られている。
「どうぞー」
球数を機械で数えたカウンターのお兄さんがジジイに箱のような何か渡してきた。
え!
……ここでいろんな品物と交換するんじゃないの?
ジジイは何も言ってないのにカウンターのお兄さんは何と交換するのか分ってるんだな。
ホントに毎日こんなことしてるのか?
少なくとも顔なじみなのは間違いない。
マジでパチプロか?
「そういやまだ名前を聞いてなかったのう。わしは是山道造じゃ。小僧の名は?」
「は、はい。赤嶺天心です」
「ほー、なかなか古風な名前じゃのう」
「そ、そうですか?」
「『天心』と言えば、岡倉天心という明治大正時代で活躍した者がおったからのう。生まれは江戸時代かもしれん」
「へー。そんな有名な人と同じ名前なんですね? 俺の名前。……で、何した人ですか?」
「そこまでは知らん。ちょっと名前を知っとっただけじゃ」
俺は、後でグーグル先生で調べてみようと思った。
「玉を何に換えたんです?」
箱のような何かに視線を落とし、俺は聞いた。
「ああ、これか。ついてくれば分かるぞい」
道造は、そういうとパチンコホールを出る。
俺は道造の後について行く。
パチンコ屋からさほど離れてない路地裏に入り小さな小窓の奥に謎の箱を置く道造。
誰かの手が出てきて箱が消え、代わりに金がおかれる。
……換金か。
「8万3千か。そんなとこじゃろう」
道造は、金をしまい大通りを目指す。
「あの。道造さんは、もしかしてパチプロですか?」
「ははは、わしは、デイトレーダーじゃ」
「デ、デ、デイトレーダー!」
あの、株を売り買いするやつか?
「小僧。今日は世話になったな。お前のおかげで久々に勝てたわい。気持ちがいいのう」
あれ?
……いつも勝ってるって言ってたよな?
「昼間も世話になったし、ちょっとおごってやるからついてこい」
「え! いいですよ。大したことしてないし、知らない人に付いて行っちゃいけないって小学校の時教わりました」
「そりゃ、小学生の話じゃろう。中坊の分際でパチンコ屋に来てる時点でその教えは無効じゃな。いいから来い。どうせコンビニに寄るだけじゃ」
「いいです。いいです」
「そう言うな。すぐそこじゃし、そんな大したものはおごらんから」
「そうですか? ありがとうございます」
すったもんだしてても仕方がないので、ここは好意に甘えることにする。
コンビニはすぐ四、五軒先に見えている。
コンビニのドアをくぐり、道造は真っすぐ入った弁当ゾーンの前で立ち止まった。
「おまえ、飯は? 弁当おごるぞ?」
「飯はもう食べました」
握り飯二個。
「なら、なんか飲み物と菓子を買ってやろう。シュークリームとかどうじゃ? ほれ、これで好きなものを買いな」
道造が、さっきの万札を一枚突き出す。
「こ、こんなにもらえませんよ!」
「釣りもやろうと思っとったんじゃが、いやなら釣りは返せばよい。ほれ」
俺は、道造さんから一万札を受け取った。
そしてスナック菓子とコーラを一本選んでレジに並ぶ。
道造さんも、レジに並んでいた。会計を済ませるとお釣りを返す。
「これ、お釣りです。どうもありがとうございました」
「たったそれだけか? 謙虚なやつじゃのう」
道造は、俺から釣りを受け取り苦笑する。
「小僧。おめー、今日は公園で寝るのか?」
「え…………」
何で知ってるんだ?
「この前、公園の遊具の中に寝とったじゃろう?」
……たしかにおれは、昨日も公園で一夜を過ごした。
見られてたのか?
「ワシも、出稼ぎ時代にはよく公園で生活しとったもんじゃ。しかし、おめーはその年で路上生活者か?」
「家はあるし、母親はいますよ。父は刑務所の中」
「はは、そうかい。母親のところに男が来ると、追ん出されるってところか?」
「……そんなとこです」
……何でもお見通しってか?
「ワシもひとり暮らしで、身寄りのない身じゃ。良かったら泊っていかんか?」
「……え」
これ、……良いのかな?
道造さんは、悪い人ではなさそうだけど――。
でも……公園で寝るより家の中で寝る方がいいよね。
「ワシもさみしい身の上じゃからのう。どうじゃ?」
「い、良いんですか? 俺、泥棒の息子ですけど?」
「泥棒は、お前の親父じゃろ? お前も盗みをしたことがあるのか?」
「いえ。ありません。清く正しく生きてきました」
「なら問題なかろう。それに、老い先短い人生じゃ。金なぞ、あの世には持っていけんし、多少無くなっても関係ない。じゃが、盗みはするなよ。おめー自身のためにのう」
俺は、大きく頷いた。




