第22話 レベル3
地図を確認しながら進んでいくと、通路の先でぷるりと半透明の影が揺れた。
本日の第一スライム発見。
薄暗いダンジョンの床に、ゼリーを落としたような存在感。
相変わらず、のんびりしていて危機感がない。
俺は足音を殺し、二メートルほどの距離で足を止める。
この距離なら、安全圏だ。
頭の中で狙いを定める。
盗るものを、はっきりとイメージして——
「スチール!」
スライムゼリーをスチールしました。
「スチール!」
スライムの胃袋をスチールしました。
「スチール!」
消化液をスチールしました。
スライムはまだ、何が起きているのか理解していない。
盗られているのに、ただプルプルと揺れているだけだ。
「スチール!」
速さ1をスチールしました。
「スチール!」
知力1をスチールしました。
「スチール!」
防御外皮1をスチールしました。
スライムが、ぴょんと一飛び。だが俺のところまでは1メートル以上ある。
一歩後ずさって距離を取り直し——
「スチール!」
MP1をスチールしました。
「スチール!」
HP1をスチールしました。
「スチール!」
HP1をスチールしました。
脳内に淡々としたメッセージが響いた直後、
スライムの体がどろりと水に変わる。
床には、ぽつんと魔石だけが残された。
この辺りのスライムは、まだレベル1だ。
もっと奥に進むとレベル2になるはずで、そこまで地図には書かれていない。
現れるスライムのレベルは、自分でおおよその位置を地図に書き込んでおこうと思う。
スライムゼリーと魔石はスライムの胃袋に入れておく。
だって、いちいちリュックを下ろしてるのはめんどくさいんだもん。
先の方に本日二匹目のスライムが見える。
ぽよんぽよんと飛びはねて止まった。
近づいてスチールを発動し、スライムゼリー、スライムの胃袋、消化液、速さ1、知力1、防御外皮1、MP1、HP2、魔石を手にいれる。
その瞬間。
スチール(ユニーク)のレベルが3に上がりました。
一度に2つのものをスチールできるようになりました。
脳内に、はっきりとしたメッセージが鳴り響いた。
え!
一度に2つスチールできる?
……てことは、
やったー!
スチールをかける回数が半分にできるぜ!
これでかなりの時短になる。
すぐに次のスライムを発見して、スライムゼリーとスライムの胃袋を思い浮かべながら、スチールを発動した。
「スチール!」
スライムゼリーとスライムの胃袋をスチールしました。
やったぜ!
成功だ!
2つ狙ったものをスチールできた。
両手で同時に何かを引き抜いたような感覚。
右手には、スライムゼリーが握られていた。
スライムゼリーをスライムの胃袋に収納して、続けざまにスチール発動。
「スチール!」
消化液、速さ1をスチールしました。
「スチール!」
知力1、防御外皮1をスチールしました。
「スチール!」
MP1、HP1をスチールしました。
あとは、HP1を盗めばHPが0になり、スライムは死滅するはず。
「スチール!」
HP1をスチールしました。
魔石を残し、スライムは水たまりに変わった。
黒い煙が立ち上っている。
うむ。
やはり思った通りだ。
この順でスチールすればレベル2でもレベル3でも倒せるはず。
でも、スチールのレベルだけが先に上がったのは想定外だ。
俺自身のステータスも、そろそろ上がるはずなんだ。
ちょっと遅いな。
俺は4匹目のスライムを探す。
そして攻撃。
スチール5発で討伐完了。
そして鳴り響く、脳内メッセージ。
レベルが3に上がりました。
だろう。
くると思ったぜ。
俺は、早速ギルドカードを取り出し、ステータスを確認する。
「ステータス!」
赤嶺天心 ヒューマン 14歳 レベル3
職業 怪盗紳士
HP 10(+217)
MP 0 (+97)
力 10
防御外皮 10(+98)
知力 9 (+92)
速さ 10(+91)
器用さ 14
スキル スチール(ユニーク)レベル3
スライムの胃袋(90)レベル1
消化液(86)レベル1
魔法 なし
装備 なし
アイテム リュックサック
うむ。
思った通り基本のステータスは1ずつ伸びてるな。
想定通り。想定通り。
それにしても、MPはレベルアップしても増えないんだね。
MPは、魔法を使う時に消費されるポイントだよね。
つまり基本、魔法は使えないってことかな?
まあ、現状使えないけど。
職業が怪盗紳士じゃなくて、魔術師とかだったら使えるのかな?
普通の職業でも身体強化系の魔法とか……使えてもいいのにね。
よくよく考えてみると、スライムからMPを1ずつスチールできているってことは、スライムは、MPを1持っていて、魔法が使える可能性があるってことかも?
レベル1のスライムでは、魔法を使える個体に出会ったことはないけど、特殊な個体が魔法攻撃してくる可能性は、0ではないということか?
0ではないということは、ほぼ0だろうと思うけど、油断は大敵だな。
気をつけよう。
アニメで見たスライムのように、突然水魔法で、ピュピュッと消化液とか飛ばしてきそうだ。
だが、もしスライムが魔法を使ってきて、その魔法をスチールできたら、俺がその魔法を使えるようになるってことか?
いいねえ!
くくく!
バカな想像を巡らせすぎたわ。
0ではないが、ほぼほぼ0に近い可能性に、胸躍らせてしまった自分が恥ずかしくなる。
どんだけ楽天的で、ご都合主義なんだ……俺は。
何はともあれ、スチール、スチール。
働いて、働いて、金を貯めないとな。
金を貯めて、装備をそろえて、誰から見ても、一人前の探索者にならなくちゃ。
第二階層に行くとなれば、スライム相手のように安全じゃない。
ずっとスライム相手をしていたら、スライムスレイヤーなんて呼ばれかねない。
有名なアニメのゴブリンスレイヤーみたいに嘲笑を込めてな。
第二階層には絶対に行く。
道造さんは、ずっと第一階層にいればいいと言ってたけど、俺は嫌だ。
そのためには、装備を揃えなくてはいけない。
安全第一だからね。
俺はまた、スライムを探して進みだした。




