第20話 球技大会の余韻
翌日俺は、家に戻り服を着替えると、にぎり飯を作って食べ、学校に向かった。
なぜだか、いつもなら寝ているかーちゃんと男はいなかった。
……別にいなくてもかまわないけどね。
学校につくと、クラスのみんなは昨日の興奮が冷めやらない様子で、委員長の平田の周りを、たくさんの女生徒たちが囲んでいた。
まあ、昨日のヒーローは委員長の平田だから、当然かな。
勉強も運動もできる平田、モテモテで羨ましい。
俺は、目立たないように自分の席に着く。
昨日、俺も少しは活躍したような気がしていたが、そんなことは全然なかったらしい。
キーパーは点を取られたら駄目なのは分かってる。
PK戦で、ゴールを守ったのはこの俺で、厳しいシュートを止められたと思うんだが……そう思ったのは俺だけか。
まあ、ボッチの俺が少しくらい頑張っていたって、誰も声をかけてくるはずないんだよ。
俺は、机のパソコンを開いて株取引を調べる。
……ふむふむ。
なんだかわからねー!!
やっぱり、俺には無理だな、これ。
パソコンを閉じると担任の田淵が教室に入ってくるところだった。
「昨日の球技大会、男女とも一組に勝利した。よく頑張ったぞ! 特に男子は、一人、人数が少ない中、よく守り通してPK戦にもつれ込み、辛くも2-1で勝ちをもぎ取った。先生は感動したぞ! 佐藤、平田、よくやった!」
先生も、担当クラスが勝つと嬉しいらしい。
「特に赤嶺! お前、よくゴールを守ったな。何度も点が入る状況で、奇跡のようなセーブをして見せた。素晴らしかったぞ!」
あれー……俺、田淵に褒められてるよ。
クラスのみんなの反応は、そんなことなかったのになあ?
これは、あれか?
この前、犯人扱いしたことへの、埋め合わせか……?
罪滅ぼしか?
ご機嫌取りか?
まあいいや。聞き流しておこう。
「赤嶺でも、やればできるんだ。自信を持って、頑張って生きるんだぞ!」
俺でもって、なんだよ?
でもって?
自信を持ってって、何だよ?
これ、俺の評価、メチャ低くねー?
田淵、お前、褒めてるつもりだろうが、しっかりディスってますけど。
まあいいや。
今日も保健室いこー。
「みんなも赤嶺を見習って、しっかり頑張ってくれよ」
頑張らなきゃいかんのかい!
俺は頑張らなきゃ、ちゃんと生きていけないのかい?
けっこう傷ついてるんですけど。
俺は、普通に生きていければいいんだよー。
「先生! 保健室に行ってもいいですか?」
俺は、早速許可を求める。
これ以上、ディスられ続けるのはつらいです。
田淵は話の腰を折られて顔を歪めたが、それでも行くことを認めてくれた。
俺は、静かに教室を出た。
背後で扉が閉まると、さっきまで耳にまとわりついていたざわめきが、嘘みたいに遠のく。
廊下を歩き階段を降りて保健室へ向かう。
――やっと、逃げられたぜ。
白いカーテン越しに柔らかな光が差し込む保健室には、、保健室の松本先生(25歳前後、女性)が机に座っていた。
「あら、赤嶺君。今日も体調不良なの?」
「はい……」
小さく頷き、見え見えの嘘。
……分かってるなら、聞かないでほしい。
「昨日はキーパー、凄かったわね」
見てたのか。
まあ、先生だし、そういうこともあるよね。
「そうですか?」
「うん。赤嶺君、凄くキーパー上手だったよ。運動神経いいんだね?」
「…………」
返事に困る。
「普通は、あんなシュート取れないよ。まるでプロのサッカー選手みたいだった」
「……ほめ過ぎですよ」
嬉しい、より先に、疑う気持ちが出てしまうのは、たぶん癖だよな。
「そんなことない。君、サッカー選手を目指したら? 高校に行ったら、サッカー部に入ってさ」
――ああ、やっぱりこうなるか。
「俺、高校いけないんで」
「え…………いけないって?」
「就職するんで……」
一瞬、松本先生の表情が固まった。
俺の家庭のことを思い出したのか、何かを察したのか、声の調子がふっと柔らぐ。
「……そっか。……就職か。そうだよね……」
それ以上、何も言わなかった。
俺は、ベッドのカーテンを開けて潜り込んだ。
「すみません。寝ちゃっていいですか?」
松本先生が、こんなに話しかけてくれたのは初めてだった。
でも、うっとおしかった。
高校だの、サッカー部だの、そんなの俺とは無縁の場所だ。
「あ、ごめんね」
松本先生が、申し訳なさそうに、でも優しく言った。
俺は仰向けになって目を閉じた。
松本先生がベットのカーテンを閉じてくれた。
消毒液とシーツの匂いがした。
俺は気持ちを切り替えて、探索のことを考える。
昨日発見した、レベル2のスライム。
第一階層には、スライムしか出ないって話だけど、スライムにもいろいろあるんじゃないかな?
奥に行けば、レベル3、レベル4……って、強くなるのかも。
でも、ドロップするのは、スライムゼリー1つだけなんだよなあ。
でも…………強くなるためには強い魔物を倒した方が良いんだよね?
そろそろレベルアップしないかな?
もうしそうなものだけど……。
薄暗いカーテンの向こうを想像しながら、俺は考え続ける。
今俺ってレベル2だよねー。
俺は探索者カードを取り出し、ステータス・オープンと唱える。
赤嶺天心 ヒューマン 14歳 レベル2
職業 怪盗紳士
HP 9(+219)
MP 0(+93)
力 9
防御外皮 9(+94)
知力 8(+88)
速さ 9(+87)
器用さ 13
スキル スチール(ユニーク)レベル2
スライムの胃袋(86)レベル1
消化液(82)レベル1
魔法 なし
装備 なし
アイテム なし
探索者カードの表示が現在のものに更新された。
…………そっかー。
やっぱりレベル2だった。
レベル3になるとたぶん1づつくらい上がるんだよね?
少しづつだが、強くなればスライム以外とも戦えるようになるかもしれないし、そうすれば第二階層に行く実力が付くってもんだ。
まあ、15歳までは第二階層に行く許可が下りないけどね。
それと、武器や防具を買う金をためることも大切だ。
それにしても、()の中の数字は何なのかな?
+のマークがるってことは、足すんだよね。
そうすると、HPは228ってこと?
…………まさかね。
速さは、9+87で、96?
だから、シュートを止められたのか?
知力は、8+88=96って、天才級じゃない?
メッチャ頭良いはずじゃん。
……でも、俺そんなに頭良くなった感じはないんだけど。
あまりにも数字が大きくなりすぎてるので、この仮説は却下かな?
でも、他にどう考えればいいのだろう。
まあいいや。
今日も地道にスライムを狩るだけさ。




