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『親ガチャ失敗・俺の親、泥棒ですが何か!』 怪盗紳士は『スチール』極めて成り上がる。  作者: 米糠


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第19話 パチプロとデイトレーダー



 大箱四つ半。


 いつもと同じくらいで打ち止めになる。


 店員さんが慣れた腰つきで台車に大箱を積み上げ、景品交換所に移動する。

 道造さんと俺は、離されない程度の距離でついて行く。


 出玉のカウントが終わると換金用の景品を受け取り、店を出て換金所に直行。

 換金が終わるといつものコンビニに寄り、道造さんの家に行く。


「今日は、トントンってとこじゃのう」


 え、そうか……打ち止めしたからと言って、儲かってるとは限らないんだ。

 出すまでに、突っ込んだ金と相殺して残りが儲けだもんな。

 ……今日は出るまでに相当金を使ってたんだ。

 最初の台にどれだけ金を突っ込んでたんだろう?


「天心が来てくれて助かったぞい。来なんだら、ずっと1台目に突っ込んでたわい。あの台、回収台に変わってたようじゃしのう」


「確かにあの台、最後まで出てませんでしたね」


 俺たちが帰る時でも、あの台はまだフィーバーしていなかった。

 あのままあそこで打っていたら、今頃泣きぬれていただろう。


 台を移動したのは、道造さんの判断だけど、俺が来たことで気分転換ができたのなら、冷静になるきっかけくらいには、なったのかもしれない。


 俺のおかげというわけじゃないが、多少は良い影響があったのなら、俺も嬉しい。


 道造さんは、いつものようにテレビとエアコンをつけて、コンビニ弁当を取り出した。


 俺も床に胡坐(あぐら)をかくとスナック菓子を袋から取り出す。


「道造さんって、パチプロじゃなくて、デイトレーダーなんですよね?」


 いつもパチンコで勝っているからパチプロみたいだと思っていたが、今日はトントンと言っていたし、やっぱりパチンコは遊びで、本業は株の取引なんだろう。


「デイトレーダーじゃよ。パチンコは遊びじゃ」


「デイトレって、パチンコより儲かるんですか?」

 

「儲かる時もあるし、大損する時もあるのう」


 淡々と答える道造の言葉に少し驚く。


「大損ですか?」


「そうじゃ。大損じゃ」

 

 道造が俺に鋭い視線を向ける。

 これは、ホントに大損の経験があるんだなと思った。


「10回利を得ても、1回の損ですべてが持っていかれる世界じゃな」


「10勝1敗で、プラマイゼロってことですか?」


「そういう経験は、よくするぞい。大負けせぬように、損切りは素早く判断するつもりなんじゃが、それが難しいのじゃ」


 ……損切り?


 ……損が出るのに株を売ることかな?


 よく分からないけど、たぶんそういうことだろう。


「じゃあ、パチンコのほうが儲かってるんですか?」


「いや。株のほうが儲かっとる。……はずじゃ。今のところ」


 歯切れが悪いのは、大きく損をすることがあるからだろうか?

 それとも、パチンコが相当儲かってるからだろうか?

 ……どうでも良いか。


「俺でも、デイトレーダーできますかね?」


 道造さんは、テレビの音を少し下げると、弁当の箸を置いた。

 いつもの軽い調子ではなく、少しだけ真面目な顔になる。


「うむ。デイトレーダーをやるのに資格も年齢制限もない。じゃが、ネット環境と、証券口座がいるな」


「ネット環境? 証券口座?」


 聞き慣れない単語に、首をかしげる。


「ああ、そうじゃ。ネット環境とは、パソコンとか、インターネットじゃな。じゃが、その前に、東証で取引ができるのは朝9時から昼休みをはさんで午後3時半までじゃ。学校にいる頃じゃからまだできんじゃろう」


 言われてみれば、俺はその時間学校にいる。


「時間的にまだ無理だってことですか?」


「まあ、そういうことじゃ」


「……そうですか。残念です。……けど携帯とかでできるんですよね?」


 希望を捨てきれずに聞く。

 だって、デイトレーダーって響き、めちゃカッコいいんだもん。


 俺は携帯を持たされていないが、中学を卒業して職につけば携帯を自分で契約したいと思っている。


「できんこともないが、画面が小さいから、タブレットも一緒に使った方が良いかのう」


「画面が小さいと良くないですか?」


 道造さんは、親指と人差し指で小さな四角を作る仕草をした。


「うむ。見づらいと分かりづらい。それに、操作がしづらいんじゃ。マウスがないとタップしづらい。入力のスピードは大切で、注文を入れるまでに値段がかなり動くことも多いんでな。本来なら、パソコンが望ましいのう」


「ふーん。そんなもんですか?」


「大金をかける以上、不利な条件はできるだけ少ない方が良い」


 その一言に、積み重ねた経験と重みを感じる。


「それはそうですね」


「一番良くないパターンではの、……例えば仮に、その時1000円で売りが出ている株があったとする」


 道造さんは、テーブルを指で叩きながら説明を始める。


「はい」


「買うために1000円で買い注文を入れるんじゃが、入力している間に1002円に上がってしまい、買えない。そこで、1004円で買い注文をしなおすんじゃ。仮に売値が1003円に上がっていても、1003円で買えるから、1004円で買い注文を入れても注文自体に損はない」


 道造さんが鋭い視線を俺に向ける。


「じゃが、こういう時は往々にして1005円に上がって買えなかったりすることが多い。そしてまた1007円で注文をし直すことになったりする」


「はあ?」


 正直、もう頭が追いついていない。


「こういう時に入力に時間がかからなければ、間に合うこともある訳じゃ。それで買えればいいのじゃが、またしても買えず、ついに1010円で買うことになる」


「買えて良かったけど、初めに注文が間に合ってれば1000円で買えてたわけですね」


 俺は、思わず吹き出しそうになる。

 それじゃあ、まるでドジっ子じゃん。


「それもそうなんじゃが、最悪なのが1010円で買えた途端に値段が下がりだしたりすることじゃ。よくあることなんじゃぞ」


 淡々とした口調なのに、やけに生々しい。


「これが最悪なんじゃ。デイトレード失敗じゃな。デイトレードはこの値動きで1000円で買い、1010円で売らにゃあならん。そうすれば1株につき10円儲かる。売買単位が1000株ごとなら1万円儲かったことにな」


「なるほど。だから入力時間は大切だっていうんですね」


「そういうことじゃ」

 

 道造さんは、ふっと肩の力を抜いた。


「今のは例えばじゃぞ。実際は色々ある。買うために値を上げずにそのまま待つこともあるし、そのために買えたり買えなかったりするからの」


「えーと、1002円にあがってから、一回1000円に戻って、また1005円に上がったという時は買えるってことですよね?」


「そうじゃ。株の値動きは、上げ下げをくりかえす。波のようにのう」


 波ねえ?


「なるほど。なんだか難しそうですね」


「難しい。誰も予知はできぬし、分析もあてにはならぬ。結局は勘だけがたよりじゃ」


「勘ですか? そんな、原始的な」


 難しそうな話だったが、最後は勘だよりって……今までの信頼がガラガラと崩れていくような気がする。


「情報収集や、分析が無駄だとは言わんし、わしもそれは大切じゃと思うぞ。じゃが、それだけでは勝てん。絶対勝てん。勘じゃ! 最後は勘じゃ。それは、ある意味技術でもある。まあ、経験を積まねば、理解できぬことじゃろうがな」


 おっと、高度な分析を基にした上に成り立つ勘ということらしい。

 やっぱり凄いよ、道造さん!

 崩れた信頼が一瞬でもとに戻る。


「ふーん。ちょっと俺には無理そうですね」


「それは分からんぞ。天心は、勘が良いかもしれんしな。悪いかもしれぬが」

 にやり、と道造さんが笑う。


 マジっすか? 

 俺にもできるんですか?


「そうですね。あとで、道造さんがトレードしているのを見学させてください」


「ああ、学校が優先じゃがな」


「そうですね。学校の時間とかぶってますもんね。卒業したら見せてください」


「分かった。弟子1号に任じてやろう」


「やったー! ありがとうございます」


「せいぜい種銭をためておくことじゃな。安全に探索者をして」


「はい。そうします」


 俺は頷きながら、道造さんに、デイトレーダーという職業に、尊敬の念を抱くのだった。




 



 

 

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