第14話 サッカー
…………チャンスの後にピンチあり、とはよく言ったものだ。
俺たちが惜しいシュートを外した直後、相手はすぐに攻め込んできた。
切り替えが早い。
いや、向こうは最初からずっと攻め続けているだけか。
サッカー経験者がドリブルで突っ込んでくる。
一人、二人、三人――
あっという間に四人抜かれてる。
頼りの平田も、フェイント一つでかわされてるし。
マジか!
これで点を取られたら負け濃厚。
緊張が走る。
負けんなよ委員長ー。
あ、抜かれた。
クッソ―!
一対一の大ピンチだ。
キーパーにとって、最悪で、そして避けられない場面。
俗にいう決定的場面ていうやつね。
普通この場面で失点してもしょうがないよね。
…………お願い。
ミスって。
ゴールポスト外してー。
目の前三メートルでシュートが放たれる。
ボールは俺の右に来る。
ボールがゆっくり感じられる。
いや、俺の体が素早く動けてるんだ。
取れ――!
考えるより先に、体が反応してる。
ズシリ!
重たい衝撃が、胸の前に来た。
……あ。
ボールだ。
俺はボールを、体の真正面で抱え込んでいた。
「おおおおー!」
校庭が、爆発したみたいにざわめいた。
歓声が、耳に突き刺さる。
……守った?
守った、よな?
シュートしたサッカー経験者が、目を見開いて俺を見ていた。
俺は急いで横山を捜し、カウンターを狙う。
だが、走り出した横山はまだ自陣深くにいた。
そりゃそうだよね。さっきまで全員で必死に守ってたんだもん。
その後も俺たちは、押されっぱなしだった。
ゴール前は、相変わらず人だらけ。
土煙が舞い、怒号と足音が入り混じる。
とにかく、前に蹴り出す。
体を当てる。
止める。
守って、守って、守り続ける。
女子が勝ったのに、男子だけ負けていたら今後のクラス内ヒエラルキーに、確実に影響するだろう。
いや、……まあ、すでに女子上位なのは間違いないんだけど。
イヤーな時間が延々と続いた。
「もう来ないで」と祈り続ける。
――うわ、抜かれた!
またしても決定的チャンス。
相手のね。
目の前で横山君が抜かれたのだ。
相手のサッカー経験者がまた目の前でシュート態勢に入った。
くそったれー!
また止めてやるぞ!
ボールに集中した瞬間、シュートが放たれ…………なかった。
――まさかのパス。
俺がボールを目で追うと、ゴールの左横にもう一人のサッカー経験者がシュート態勢に入っている。
こいつにパスしたんかーい!
完全にフリーじゃん。
フリーからフリーにパス。
フリー・トー・フリー。
そんなの対応できっかよー!
時間が止まったように感じる中で、もう一人のサッカー経験者がシュートを放った。
ボールは俺の左、ゴールポストのすぐ横だ。
無理だ。
間に合わない。
……それでも。
俺は飛んだ。
間に合うはずがないと思ったが、夢中で飛んだ。
無理だ。
間に合わない。
拳を伸ばす。
パンチでボールを弾くんだ。
バシッ!
左拳に鈍い痛み。
当たってる。
ボールが拳に当たった感触?
ボールはどこに飛んでった?
シュートは防げたのか?
「うおおおー!!」
大歓声が起こっていた。
視線を動かすと、ボールはゴール前を外れて、コートの中を転がっている。
そのボールを同級生が蹴り飛ばす。
クリアー!
……助かった。
とりあえず、ぎりぎりで危機はしのいだ。
「ナイスだ。赤嶺!」
「スゲーぞ。おまえ!」
次々とかかる声。
……え?
ほんとだよな。
ボッチの俺を、今、みんなが「仲間」みたいに呼んでる。
マジか? ほんとか? ……今だけ、だよな?
それでも嬉しいのに違いなかった。
いかんいかん。
明日になればまたボッチだ。
喜ぶな、喜ぶな。
その後も俺たちは、一組の猛攻を耐えきり0-0で試合が終わった。
前半だけの45分マッチなんだよね――中学生だし。
――てことで、勝負の行方はPK戦に持ち込まれた。
5回ずつ交互に蹴り合う、あれね。
つまり……俺がキーパーで責任重大ってやつ?
……マジかよ。
でも、今更キーパーは代われない……よな。
誰も代わりたくないだろうし。
そしてキッカー5人が決められてPK戦開始。
こっちのキッカーは、横山、倉田、花山、佐藤、最後が委員長の平田に決まった。
最初と最後は重要だから、信頼できる人ってことね。
一組のやつらは知らん。
でも最初と最後はサッカー経験者らしい。
名は知らんが顔みりゃ分かる。
ジャンケンで先に蹴るのは一組に決まった。
いきなりゴールを守る俺。
ゴール前に立つと、さっきまでよりゴールが広く見える。
一組の一番手は経験者。
四人抜きを決めた、あの経験者だ。
こいつのシュート、マジで強力なんだよねー。
俺はゴールの中央に立ち、一度大きく両腕を広げてから胸の前で構える。
人知れず、「お願い……外して」と祈りをささげる。
助走をつけて蹴り足が振り抜かれた。
強烈なシュートが、ゴール左隅へ――
誰が見ても、決まったと思う軌道。
……だが。
体が、先に動いた。
考えてない。
反射だ。
俺は左へ飛び、拳を突き出す。
バシッ!
確かな手応え。
拳に、鈍く重たい衝撃。
……当たった。
ボールは弾かれ、ゴールの外へ転がっていく。
危ねー! シュートは枠をとらえてたぜ。
次の瞬間、校庭がどよめいた。
……止めた。
俺、止めたよな?
一人目、相手は失敗だ。
攻守交替。
横山君がボールの前に立つ。
――ん?
相手のキーパーを見る。
ちょっと待て!
相手のキーパー今蹴ったサッカー経験者じゃん。
交代したのか?
交代ありか?
そんならこっちもキーパーを交代してくれりゃいいのになあ。
いや、それだけ一組も本気で勝ちにきているってことかな?
経験者が二人いて、人数も11対10なのに、それで負けたらサッカー経験者の面子にかかわるってところだろうか?
横山の表情がはっきりと緊張で歪む。
そりゃ、プレッシャーかかるよね。
二組唯一のサッカー経験者。
最初のキッカー。
絶対外せないと思ってる。
そこに持ってきて、相手のキーパーが経験者に代わったんだ。
プレッシャー、十倍ってところだな。
横山がボールをセットする。
助走をつけて蹴る態勢。
二組全員の視線が、そこに集まる。
決めてくれ!
ここで先行できれば、相手は相当きついはず。
横山が2歩、3歩、助走をつける。
そして――
蹴った。
……あ。
嫌な予感が、胸をよぎる。
ボールは勢いよく――
ゴールポストの、真上を通過していった。
……ふかした。
横山は、頭を抱えて天を仰いだ。
……ドンマイ。
心の中で声をかけた。
声には出せない。
だって俺、ボッチだもん。




