第13話 球技大会
今日は球技大会の日だ。
制服は着ずに、朝から体操着姿で登校した。
登校風景が少しだけ違って見える。
たぶんサッカー一試合すれば終わりのはずなので、午前中には解散になると思う。
そしたらダンジョンに潜ろう。
女子の試合の応援から始まり、その後が男子の試合。
頭の中で流れを確認しながら、校舎へ足を運ぶ。
教室につくと、教壇の前で学級委員長の平田翔と、副委員長の中条明日香が、何やら全員に呼びかけていた。
「これから女子の試合と応援のため、体育館に移動します」
仲のいい子同士が自然に集まり、笑い声を交わしながら廊下へ向かっていく。
肩を組んだり、試合の話で盛り上がったり――その輪の中に、俺の居場所はない。
俺はボッチだから、一人で移動開始する。
慣れている……から全然気にならないぞ。
体育館に行くとバレーコートの周りを女子生徒たちが取り囲んで出番に備えて座っている。
男子は、二階の通路に陣取り見下ろすように応援の準備をしていた。
俺は二階に上ると、一番端の、少し離れたところから応援することにした。
対面の通路には、一組の男子が手すりに身を乗り出し、下のコートを覗き込んでいる。
……女子のバレーが終わったら、外に移動してサッカーの試合か。
キーパーなんてやりたくないけど、嫌な役を押し付けられるのはいつものことだ。
点を取られたら、またとやかく言われるのかな…………嫌だな。
女子の試合が始まった。
笛の音と同時に、体育館の空気が一段と熱を帯びる。
俺は上の空で試合を眺める。
試合が競っているのか、体育館は異様な熱気に包まれている。
ボールが床に落ちた瞬間、歓声が爆発する。
副委員長の中条明日香が、サービスエースを決めたようだ。
中学生のクラス対抗・女子九人制バレーボールは真ん中の子が上手い。
端にいる子ほど、ボールのコントロールが甘くなる。
賢い中条明日香は、そこを狙ったのだろう。
次のサーブも、次のサーブも、相手のサーブレシーブが乱れて、ボールがまともに返ってこない。
点数が動き、流れがはっきりすると、観客席の熱もさらに上がる。
最終的に、中条明日香の活躍が決定打となり、女子は二組が勝利した。
飛びはねて喜ぶ女子達。
それを見て、応援していた男子たちも「次は自分たちだ」と盛り上がる。
移動が始まり校庭へ。
二年男子の試合が終わったら、三年の番だ。
校庭に男子が集まるとサッカー経験者の横山が声を張り上げた。
「絶対勝つからな!」
やけに熱い声。
「それには、0点で抑えることが大切だ。1-0で勝つ! 俺達が1点入れるからバックは絶対守り切れよ!」
そして、真っ直ぐ俺を指さした。
「赤嶺! お前が守り切れば負けないんだからな!」
……気合、入りすぎだろ。
そんなこと言われったって困る。
期待されても、応えられる自信なんてない。
もちろん、全力は尽くすよ。
でもキーパーって、近距離からシュートされたら、正直どうしようもなくないか?
そんな弱音は口に出さず、黙ってうなずく。
「俺が、点を足られなければ負けないからね。できるだけ頑張るよ」
「もっと気合を入れろよ! 絶対点は取らせねーって言え!」
……無茶苦茶
「……ぜ、たい、取らせねー?」
「もっと気合を入れろ!」
「絶対取らせないー!」
「よし! じゃあ気合いれるぞー!」
「おー!」
周囲の声が一斉に重なり、校庭に響き渡った。
……横山って、こんなに熱いやつだったんだ。
悪いことじゃない――たぶん。
でも俺にとっては、正直、ちょっとだけ……いや、かなり迷惑だよね。
サッカーの試合が始まった。
笛の音と同時に、校庭のざわめきが一段階大きくなる。
土の匂いが鼻をつき、強い日差しがじりじりと首筋を焼いた。
1組にはサッカー経験者が二人いるらしい。
こっちは横山一人だけ。
人数も一人少ないし、はっきり言って向こうが強い。
案の定、序盤から押されっぱなしの展開になる。
ボールはほとんどこっちの陣地にあり、ゴール前でごちゃごちゃと人が密集する。
いつシュートを打たれてもおかしくない距離。
ボールから目が離せない。
横山と委員長の平田が奮戦してシュートを塞いでいるが、それでも時々強引に打たれる。
まあ、枠を外れたり、俺の取れる範囲だったから、ちゃんと防いだけどね。
それにしても、委員長って勉強もスポーツもできるんだよね。
副委員長もそうだけど、頭いいやつは運動もできるのかな?
天は二物を与えるってか?
俺は、勉強も運動も並以下だけど。
……てか勉強は最下位。
授業聞いてねーし。
うちの中学に赤点制度がなくてよかったわ。
出席日数が、足りてれば卒業だけはできるもんね。
ーーうわ!
突然、相手のサッカー経験者がコーナーぎりぎりに強烈なシュートを放っってきた。
ビュン!
空気を裂く音。
鋭く、速い。
やっべー!
誰もが点が「入った」と思ったはずだ。
俺は取れないんじゃないかと思いながらもボールに飛びつく。
――その瞬間。
ボールが、異様にゆっくり見えた。
歓声も、足音も、すべての音が遠のく。
世界が静止したみたいだ。
手を伸ばす。
指先が、届く――
……あれ?
つかめた。
間に合った?
信じられない感触が、手の中にある。
俺の両手には、確かにサッカーボールが収まっていた。
「ナイス! 赤嶺!」
横山の声が聞こえた。
……え?
今、褒められた?
横山に?
横山君、なかなか良いやつじゃないか。
他人に褒められたのなんか久しぶりだぜ。
……てか、初めてかな?
「バカやろー! カウンターだ。早くこっちによこせ!」
……あ、はい。
今のは気のせいでした。
心から褒められてたわけじゃなかったわ。
俺は横山に向かってボールを蹴り飛ばす。
ボールは横山を飛超えて、追いつきそうないい感じのところに落ちる。
――カウンター成功か?
横山がボールをキープし一直線にゴールを目指す。
相手の中盤が慌てて詰め寄り、平田が前線へ走り出した。
横山は、そのまま敵中盤を引き連れ走り通続け、バックに挟まれ二対一に。
「パスパス!」
平田の声。
気づけば、さっきまで俺を攻めていた相手も、慌てて自陣へ戻っている。
だが、平田に追いついている奴はいない。
横山が平田にパスをしてそのまま前に走り込んだ。
平田がパスをダイレクトで横山に戻す。――ワンツーだ。
横山は二人のマークを振り切り、平田のパスを受けとると、ゴール目指して走り込む――シュートチャンスだ。
……いけ! シュートだ!
横山が全力のシュートを放つ。
よしーー‼
ボールはゴールポストの左上隅に、
――当たって弾き返された。
跳ね返ったボールを、相手のバックが大きく蹴り飛ばした。
……ああ、残念。
思わず口を開けたまま、俺は天を仰いだ。
横山も平田も悔しそうに歯を食いしばっている。
惜しかったけど、「チャンスはまた来るさ」と切り替える。
俺もいつの間にか夢中になってるんだなと感じていた。




