第12話 道造のアドバイス
池袋西探索者ビルを出て、バスで石神公園前まで戻ってくると、あたりは暗くなっていた。
俺はてくてく歩いてパチンコ屋を目指した。
エアコンが効いていて、テレビが見られるからだ。
時間をつぶすには持ってこいの場所なんだよねー。
ふと、道造さんの顔が頭に浮かんだ。
――今日も、パチンコ打ってるかな。
財布の中には二万円以上入っていた。
二万円なんかじゃ、とても盾は買えそうにないよね?
三階で盾の値段を確かめてこなかったことに、しくじりを感じたが、今度見てみればいいやと思いなおす。
パチンコ屋に入ると、独特の音と光に包まれる。
チンジャラチンジャラと玉のぶつかる音、画面から流れる派手な効果音。
空調の効いたひんやりした空気。
テレビが見やすくて、なおかつ空いている席を探して視線を巡らせると、すぐに見覚えのある背中――道造さんを見つけた。
「道造さん。こんばんわ」
俺は道造さんの後ろから声をかけた。
「うん? おお、天心か」
道造は、一瞬振り返って俺の顔を確認してから、すぐパチンコ台を向いた。
「どうですか? 今日は出てますか?」
「そろそろ出る頃じゃ。まあ、見ておれ」
テレビには野球中継が映っていた。
巨人阪神戦、5回2-0で巨人がリード。
勝負はこれからというところか。
道造の玉が見る見るうちに台に吸い込まれていく。
道造は札を差し込み、迷いなく玉を補充する。
――いったいどれだけ金を突っ込んでいるのだろう。
リーチがかかるたびに画面は派手ににぎわうが、なかなか三つの数字は揃わないようだ。
「今日も、家には帰れんのか?」
「はい。公園が、俺の寝床です」
「ワシのところに泊まりに来るか?」
「いいんですか?」
「ワシャかまわんぞい。むしろ嬉しいくらいじゃの」
淋しがりかな?
俺も助かるけど…………いいのかな。
「じゃあ、すみません。お願いします」
「お! きそうじゃぞ!」
道造の声が弾む。
画面の真ん中の数字が、7で止まりそうな動きをしていた。
2! 1! 0!
「来い!」
9! 8! 7!
「来い!」
6!
「来い!」
7!
「よし!」
「揃いましたね。道造さん!」
「フフフ。こんなもんよ!」
道造が自慢げに視線をよこす。
パチンコ台から、チンジャラチンジャラと玉があふれ出し、大箱がさっと運ばれてきた。
「しかし、天心が来た途端にフィーバーとは、おぬしは幸運の女神のような奴じゃ」
「俺、男ですけどね。あははは」
この人といると楽な気分になれるな。
大箱を四つカウンターへ運び、景品に交換し、さらに現金へ。
そのまま道造について、近くのコンビニへ向かう。この前と同じパターン。
「何かおごってやろう。好きなものを買いな」
道造が万札を差し出すのを押し返す。
「いえ。金持ってるんで大丈夫です」
財布から万札を取り出して見せた。
「そうか? 遠慮せんでもよいのじゃぞ」
「泊めてもらうのだけでもありがたいのに、その上おごってもらうなんてとんでもないですよ。逆に俺がおごるところだと思います」
「中学生がなに生意気なことを言っとるんじゃい」
「す、すみません」
慌てて頭を下げると、道造は小さく笑った。
俺は、頭を下げてスナック菓子を選びに行く。
道造さんは、弁当の棚を物色しだす。
コンビニを出て、道造のアパートへ向かう。
夜風が、昼間の熱をわずかに残したアスファルトの匂いを運んでくる。
「あー。着いた着いた」
道造の声に導かれるように、古いアパートの階段を上る。
部屋に入ると、道造は慣れた手つきでエアコンとテレビのスイッチを入れた。
低い駆動音とともに冷たい風が吹き出し、部屋のこもった空気がゆっくりとかき混ぜられる。
テレビの明かりが、畳と古い家具をぼんやりと照らした。
道造はテーブルに弁当を置き、割り箸を割って食べ始める。
俺も、コンビニで買ってきたスナック菓子の袋を開け、コーラの缶を開ける。
「そういえば、道造さん。俺、昨日から探索者始めたんですよ」
「ほーう! 無事探索者に成れたのかい?」
道造は弁当を口に運びながら、感心したように目を細めた。
「はい。本当に年齢制限、なかったです。割に、俺みたいな人もいるみたいで、変な目で見られたりしませんでした」
探索者に成る時は大丈夫だったけど、今日クロークのお姉さんには、引かれちゃったかな。
……まあ、嘘はついてないよな。
「それで、昨日も今日も、一万二千円くらい稼いできたんですよ。だから今、二万も持ってるんです」
これで、「おごってもらう必要はない」って伝わったかな。
あまり借りを作ると、気軽に話しかけづらくなるからな。
「ほー。探索者ってやつは、そんなに稼げるものなのかい?」
道造は箸を止め、素直に驚いた表情を浮かべた。
「俺、けっこう才能あるかもしれなくて……魔物からドロップ品を盗めるんですよ」
自慢しているわけじゃないよ。
「ドロップ品?」
「はい。ドロップ品っていうのは、魔物が時々落としていく物のことなんですけど……俺は、それを盗めるんです」
「ほー?」
道造は、興味深そうに眉を上げた。
多分どういうことだか分かっていないだろう。
「ドロップ品は、十回に一回とか、二十回に一回とか……魔物や落とす物によって、大体の落とす確率があるみたいなんです。でも俺は、ほぼ毎回それを手に入れることができるので、その分、金が稼げるってわけです」
あれ? 俺って割とすごいことをしているんじゃね。
「なるほどのう」
道造は、弁当の箸をいったん置き、ゆっくりとうなずいた。
だがその目は、まだどこか半信半疑で、話の重みを測りかねているようだった。
――やっぱり、まだピンと来てないよな。
そう思い、俺はもう少しだけ、具体的に説明することにした。
「今、第一階層でスライムという魔物を狩ってるんですけど、そいつはスライムゼリーというのを落とすんです。それが五百円で買い取ってもらえるんで、他の人と比べると、相当いい稼ぎになってると思うんです」
道造が、やっと俺の才能を理解したかのように、大きな目で俺を見つめていた。
「そりゃ凄いのお! 他のもんが五百円しか稼げないところを、天心は五千円とか一万円とか稼いでるっちゅうことかいの?」
「スライムゼリーは十回に一回落とすって言われてるんで、五百円のところを五千円ですかね」
自慢じゃないよ。いや、ちょっと自慢だな。
「それでも、凄いことじゃぞ。十倍じゃ、十倍」
道造は感心したようにうなずき、しばらく考え込むように顎を撫でた。
そして、ふっと空気が変わる。
道造は、さっきまでの柔らかい表情を引き締め、俺をまっすぐに見据えた。
「じゃが天心よ! ダンジョンの中では、人は簡単に死ぬそうじゃ。安全に、安全を重ねて……あまり無理はするんじゃないぞ。浮かれるなよ」
心配してくれている。
「うん。分かってます。俺、まだ何一つ装備を持ってないですしね。攻撃を受けたら一発で死んじゃうかもしれないし。でも、スライムはそんなに攻撃してこないから割と安心かな」
俺はうなずき、正直な気持ちを言葉にした。
自分で言っていて、改めて危うさを実感する。
スライムってホントに攻撃することがないのか?
たまに攻撃してくるスライムがいるかもしれないよな。
ぴょんぴょん飛んでるし、体当たりされたら俺は大丈夫なのか?
俺って運だけで生きてるんじゃね?
「そんならずーっとスライムを狩っとればよかろう。いい金になってるようじゃし、安全が一番たいせつじゃからの」
道造は、少し力を抜いた声で言った。
言われて少し焦りを感じる。
「うん。俺も、しばらくはそのつもりでいますよ。武器や防具は凄く高いんです。そんなの揃えてたら、金がいくらあっても足りないですからね」
早く盾だけでも買わなくちゃな。
そうすればスライムなら完璧安全だろう。
「それが良いぞ」
道造は、短くそう言って、再び弁当を口に運んだ。
俺は苦笑しながら、道造のアドバイスを噛みしめていた
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