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星の脈動

作者: しばえだぬ

夜空に星はなかった。

地上から見上げる空は、灰色の靄に覆われ、かつての輝きを失っていた。エラは古い望遠鏡を手に、屋根裏の窓から空を見上げていた。彼女の住む街「ラストハーヴェン」は、崩壊した文明の残骸に囲まれた最後の居住地だった。数百年前、星々が消え、地球は「大暗転」と呼ばれる現象に飲み込まれた。それ以来、人々は地下やドームの中で生き延び、星の光を知らない世代が育っていた。


エラは16歳。彼女の祖父は、かつて星があった時代の話を語り、彼女に古びた望遠鏡を手渡した。「星は消えたんじゃない。隠れているだけだ」と祖父は言った。その言葉を信じ、エラは毎晩、屋根裏に忍び込み、空を覗いた。だが、いつも見えるのは灰色の靄だけだった。


ある夜、望遠鏡のレンズに奇妙な光が映った。微かで、まるで誰かが遠くで瞬くように。それは星ではなかった。もっと近く、もっと人工的な光だった。エラの心臓が跳ねた。彼女はドームの外に出ることを禁じる掟を破り、祖父の古い地図を頼りに、街の外れにある廃墟へと向かった


廃墟は、かつての科学施設の残骸。錆びた鉄骨と割れたガラスが月明かりに照らされ、静寂の中で不気味に佇んでいる。エラは地図に記された「星の鍵」という言葉を思い出し、施設の奥深くへと進んだ。そこには、埃をかぶった機械と、中心に浮かぶ小さな光球があった。光球は、まるで生きているかのように脈動していた。


「ようやく来た」

突然の声にエラは振り返った。そこには、半透明の姿をした老人が立っていた。実体がないその姿は、まるでホログラムだった。「私はこの施設の管理者、AI-ゼノ。君は星を継ぐ者だ」

エラは混乱した。「星を継ぐ? 何の話?」

ゼノは静かに語り始めた。大暗転は、地球を保護するために人類が自ら作り出した障壁だった。星の光を遮り、外部の脅威から地球を守る「ヴェール計画」。だが、計画は失敗し、ヴェールは解除できなくなった。星の光を取り戻すには、「星の鍵」を持つ者が施設を再起動する必要があった。

「私が? なぜ?」エラは叫んだ。

「君の祖父は選ばれし者だった。だが、彼は年を取りすぎた。君の血には、星の鍵を起動する遺伝子コードが流れている」ゼノの声は穏やかだが、どこか切実だった。


「私が? なぜ?」エラは叫んだ。

「君の祖父は選ばれし者だった。だが、彼は年を取りすぎた。君の血には、星の鍵を起動する遺伝子コードが流れている」ゼノの声は穏やかだが、どこか切実だった。

エラは光球に近づいた。触れると、彼女の指先から光が広がり、機械が唸りを上げ始めた。施設全体が震え、壁のスクリーンに星空が映し出された。それは、祖父が語った「無数の光の海」だった。エラの胸は熱くなり、涙が溢れた。

だが、ゼノの声が響いた。「警告。ヴェールを解除すれば、外部の脅威が地球に迫る可能性がある。君はそれを受け入れるか?」

エラは迷った。星の光を取り戻すことは、人類に希望を与える。だが、未知の危険を招くかもしれない。彼女は祖父の言葉を思い出した。「星は希望だ。どんな闇も、星があれば越えられる。」

エラは光球に手を伸ばし、深呼吸をした。「やってみるよ。星を取り戻す。」


光球が爆発的な輝きを放ち、施設の屋根が開いた。灰色の靄が裂け、夜空に無数の星が現れた。ラストハーヴェンの人々がドームから出て、空を見上げ、驚嘆の声を上げた。エラは星空の下で立ち尽くし、祖父の笑顔を思い浮かべた。

だが、遠くの空で、赤い光が瞬いた。それは星ではなく、まるで何かが近づいてくるような光だった。エラは拳を握った。「来るなら来なさい。私たちはもう、闇を恐れない。」


星々が再び夜空に輝いた瞬間、ラストハーヴェンのドームに住む人々は凍りついたように空を見上げた。子供たちは指をさし、老人たちは涙を流し、若者たちは信じられないという表情で囁き合った。数百年にわたり灰色の靄に閉ざされていた世界に、光が戻ったのだ。だが、エラの心は喜びと不安の間で揺れていた。遠くの空で瞬く赤い光。それは、ただの星ではない。彼女が解き放った「ヴェール」の向こう側から、何かが近づいている予感があった。

エラは科学施設の屋根裏からドームへと戻った。街は騒然としていた。広場では、指導者評議会のメンバーたちが緊急会議を開き、住民たちは不安と興奮が入り混じった声を上げていた。エラが広場に足を踏み入れると、群衆の視線が彼女に集まった。誰かが叫んだ。「あの娘だ! 星を戻したのは彼女だ!」


「エラ・トレント!」

鋭い声が響き、群衆が道を開けた。評議会の長、カルナスが歩み寄ってきた。彼は50代の厳格な男で、ドームの秩序を何よりも優先する指導者だった。「お前がヴェールを解除したのか? 掟を破り、勝手な行動を取ったな!」

エラは怯まずに答えた。「星を取り戻したんです。人々に希望が必要だった。」

カルナスの目が細まった。「希望? 愚かな子だ。ヴェールは我々を守るためにあった。外部の脅威を知らんのか?」

「脅威って何ですか? 誰も教えてくれなかった!」エラの声は震えていたが、決意に満ちていた。「隠れて生きるのはもう終わりです。私たちは星の下で生きるべきなんです!」

群衆から賛同の声が上がったが、カルナスは手を挙げて静寂を強いた。「評議会で審議する。お前は拘束される。動くな。」

その時、群衆の中から若い男が飛び出した。ルーク、エラの幼馴染だ。彼はエラの前に立ち、カルナスを睨んだ。「彼女を責める前に、星の意味を考えてください! 私たちは閉じ込められて生きてきた。エラは自由をくれたんです!」


カルナスの護衛がルークを押さえつけようとしたが、群衆の不満が高まり、騒動が広がった。エラは混乱の中、ルークの手を取り、広場を抜け出した。

二人はドームの外れにあるエラの家に逃げ込んだ。そこは、祖父が残した古いシェルターで、壁には星図や古い科学書が並んでいた。ルークは息を切らしながら言った。「エラ、すごいことをしたな。でも、カルナスは本気だ。あいつはヴェールがなくなったことでパニックになってる。」

エラは祖父の望遠鏡を手に取り、窓から赤い光を見た。「ルーク、あの光…何か知ってる?」

ルークは首を振った。「いや、でも、ドームの古い記録には『外からの監視者』って言葉が出てくる。ヴェールが作られた理由に関係してるらしい。」

その夜、エラは祖父の書斎で手がかりを探した。古いデータパッドに、ヴェール計画の断片的な記録が残っていた。「ヴェールは外部の知的生命体からの攻撃を防ぐために設計された。だが、彼らは我々を監視している。星の鍵は、ヴェールを解除するだけでなく、彼らとの交信を可能にする…」


エラの背筋が冷えた。「交信? じゃあ、あの赤い光は…」

突然、シェルターの壁が振動し、けたたましい警報が鳴り響いた。ドームの放送が流れた。「全住民に告ぐ! 外部からの侵入者を確認! 避難せよ!」

エラとルークは外に飛び出した。ドームの外、星空の下で、赤い光が巨大な影となって降下していた。それは、金属と光でできた、鳥のような形の飛行物体だった。群衆はパニックに陥り、カルナスの護衛隊が武器を構えた。

エラは直感で叫んだ。「撃たないで! 話せるかもしれない!」

だが、カルナスの命令でレーザー砲が発射され、飛行物体に命中した。物体は一瞬光を放ち、地面に着陸した。中から、輝く鎧のような姿の存在が現れた。それは人間ではなかった。細長く、流れるような肢体と、目のような光点が顔に浮かんでいた。

「我々は監視者。汝らがヴェールを破ったゆえ、ここに来た。」その声は、頭の中で直接響くようだった。「汝らの選択を問う。星を継ぐか、滅びを選ぶか。」

エラは前に進み出た。「私はエラ・トレント。星を継ぐ者です。私たちは星を取り戻した。あなたたちは何を望むの?」


監視者は静かに答えた。「我々は汝らの進化を観察してきた。ヴェールは試練だった。解除したことで、汝らは次の段階に進んだ。だが、星の力は危険だ。制御できなければ、宇宙の均衡を崩す。」

カルナスが叫んだ。「こいつらは敵だ! 皆、戦え!」

だが、エラは手を挙げて制した。「待って! 彼らは敵じゃないかもしれない。私たちが試されているんだ。」

監視者はエラを見つめた。「賢明な選択だ、星を継ぐ者。汝に試練を与える。星の鍵を完全に起動し、制御せよ。さもなくば、汝らの星は再び暗闇に沈む。」

飛行物体から光の柱が放たれ、エラの胸に小さな結晶が現れた。それは、科学施設で見た光球と同じ輝きを持っていた。「これを…どうするの?」エラは尋ねた。

「それを使い、星の心臓に到達せよ。そこに答えがある。」監視者はそう言うと、光とともに消えた。


エラは結晶を握りしめた。ルークが肩に手を置いた。「エラ、次はどうする?」

彼女は星空を見上げ、決意を固めた。「星の心臓…それがどこか分からないけど、行くしかない。祖父が信じた希望を守るために。」

だが、背後でカルナスの護衛隊が迫っていた。「エラ・トレント、投降しろ!」

エラとルークは再び逃げ出した。星の心臓への旅は、始まったばかりだった。


エラとルークは、ラストハーヴェンのドームの外へと駆け出した。夜空には星々が輝き、かつての灰色の靄は消えていたが、カルナスの護衛隊の足音が背後で響いていた。エラは胸に握った結晶を強く押さえ、祖父の地図を頼りに廃墟の大地へと向かった。地図には「星の心臓」と記された場所が、遠く北方の「裂け目の谷」に示されていた。そこは、ヴェール計画の中心施設があったとされる禁断の地だった。

「エラ、こっち!」ルークが叫び、崩れたビルの陰に身を隠した。二人は息を潜め、護衛隊のサーチライトが通り過ぎるのを待った。ルークの額には汗が光り、彼の目は決意と不安が入り混じっていた。「カルナスは本気だ。俺たちを捕まえる気だよ。」

エラは結晶を見つめた。淡く脈動するその光は、まるで彼女の心臓と共鳴しているようだった。「ルーク、星の心臓に行けば、答えがある。監視者がそう言った。私を信じて。」

ルークは苦笑いした。「信じてるさ。けど、裂け目の谷は危険だ。そこは…化け物がいるって噂だ。」

「化け物?」エラは眉をひそめた。


「ドームの外の廃墟には、ヴェール計画の失敗で生まれたミュータントがいるって話だ。誰も生きて帰ってこなかった。」ルークの声は低かった。

二人は廃墟の街を進んだ。かつての都市は、崩れた高層ビルや錆びた車両が苔に覆われ、まるで時間が止まったように静かだった。星の光が地面を照らし、影が不気味に揺れた。エラは祖父の話を思い出した。「裂け目の谷には、星の力が眠っている。だが、それを守る試練がある」と彼は言っていた。結晶が温かくなり、エラの胸に勇気を灯した。

突然、地面が揺れ、低い唸り声が響いた。ルークがエラの手を引き、廃ビルの裏に飛び込んだ。暗闇から現れたのは、巨大な四足の生物だった。金属のような鱗に覆われ、目は赤く輝いていた。ミュータントだ。エラは息を呑んだが、結晶が強く光り、ミュータントが一瞬怯んだ。

「今だ、走れ!」ルークが叫び、二人は全速力で逃げた。ミュータントの咆哮が背後で響き、廃墟の瓦礫が崩れる音が追ってきた。エラは結晶を握り、「助けて!」と心の中で叫んだ。すると、結晶から光の波動が広がり、ミュータントが後退した。


「何だ今の!?」ルークが驚いた。

「分からない…でも、この結晶が反応した。」エラは息を切らしながら答えた。結晶はただの鍵ではない。まるで意志を持っているかのようだった。

二人は夜通し走り続け、夜明け前に裂け目の谷の入口にたどり着いた。谷は巨大な岩壁に囲まれ、中心に光る塔がそびえていた。それは、ヴェール計画の中央施設だった。だが、谷の入り口には、カルナスの護衛隊が待ち構えていた。彼らはドームから追跡用のドローンを飛ばし、エラたちの動きを追っていたのだ。

「エラ・トレント、投降しろ!」隊長が叫んだ。「お前が始めたことは、ラストハーヴェンを滅ぼす!」

エラは前に進み出た。「滅ぼす? あなたたちは闇に閉じ込めてきただけだ! 星は希望なんだ!」

その時、谷の奥から光が放たれ、護衛隊のドローンが一瞬で停止した。空に監視者の飛行物体が現れ、静かな声が響いた。「星を継ぐ者、試練の時だ。谷に入れ。鍵を心臓に届けよ。」

護衛隊は混乱し、エラとルークは隙をついて谷へと駆け込んだ。


谷の中は、まるで別の世界だった。岩壁には光る鉱石が埋まり、地面には奇妙な植物が揺れていた。塔の入口には、ゼノのホログラムが再び現れた。「よく来た、エラ。星の心臓は、この塔の最上階にある。だが、試練は三つある。勇気、知恵、そして犠牲だ。」

「犠牲?」エラは不安に駆られた。

ゼノは答えた。「星の力は、宇宙の均衡を保つ。求める者は、自らを捧げる覚悟が必要だ。」

最初の試練は「勇気の門」だった。塔の第一階層は、暗闇に満ち、幻影のような怪物が現れた。それはエラの恐怖を映し出すものだった。祖父の死、ドームの崩壊、ルークを失うビジョン。エラは震えながら結晶を握り、「私は恐れない」と呟いた。結晶の光が幻影を消し、門が開いた。

ルークはエラの手を握った。「お前、ほんとすごいよ。」

エラは微笑んだが、心は重かった。犠牲の試練が何を意味するのか、考えるだけで怖かった。第二の試練は「知恵の回廊」だった。無数のパネルに古代の文字が浮かび、ヴェール計画の歴史が示されていた。エラは祖父の教えを思い出し、パネルを解読した。ヴェールは、監視者が地球を試すために与えた技術だった。人類が星の力を制御できれば、宇宙の仲間として認められる。失敗すれば、滅びる。エラはパネルに結晶を当て、回廊を通過した。

最後の試練、「犠牲の祭壇」が塔の最上階にあった。そこには巨大な光の球体―星の心臓―が浮かんでいた。ゼノの声が響いた。「結晶を心臓に融合させよ。だが、鍵を使う者は、自らの命を捧げるかもしれない。」

エラは凍りついた。ルークが叫んだ。「エラ、ダメだ! 他の方法があるはずだ!」

だが、背後で足音が響いた。カルナスと護衛隊が塔に突入してきた。「エラ、鍵を渡せ! お前にはこの責任は重すぎる!」




エラは星の心臓を見た。祖父の声が頭に響いた。「星は希望だ。どんな闇も、星があれば越えられる。」

彼女は結晶を掲げ、叫んだ。「私は星を継ぐ!」

光が爆発し、塔全体が輝いた。カルナスの叫び声が遠ざかり、エラの意識は光に飲み込まれた。


光がエラを包み込んだ瞬間、彼女の意識は星の心臓の内部へと引き込まれた。そこは無限の空間だった。無数の光点が浮かび、まるで銀河そのものが彼女の周りを舞っているようだった。結晶は彼女の手の中で熱く輝き、鼓動のように脈打っていた。ゼノの声が響いた。「エラ・トレント、星を継ぐ者。汝の心は試されている。星の力を制御する覚悟はあるか?」

エラの視界に、ラストハーヴェンの人々の顔が浮かんだ。祖父の優しい笑顔、ルークの信頼の眼差し、ドームで怯える子供たち。そして、カルナスの怒りに満ちた声。「私は…覚悟できてる!」エラは叫び、結晶を星の心臓に押し当てた。光が爆発し、彼女の体を貫いた。痛みはなかった。ただ、宇宙の果てしない流れが彼女の心に流れ込む感覚があった。


一方、塔の外では、ルークがカルナスと護衛隊に立ち向かっていた。カルナスは剣のような武器を手に、エラを止めるために塔の祭壇へと突進していた。「その鍵は危険だ! 監視者に操られているだけだ!」カルナスは叫んだ。

ルークは廃墟から拾った金属棒を握り、カルナスの前に立ちはだかった。「エラを信じろ! 彼女は俺たちの希望なんだ!」

護衛隊がルークを囲んだが、その時、塔から放たれた光が谷全体を照らし、護衛隊の武器が一瞬で無効化した。カルナスは目を覆い、叫んだ。「何だ、これは!?」

光の中から、エラが現れた。彼女の体は淡く輝き、結晶は彼女の胸に埋め込まれているかのように一体化していた。彼女の目は星空のように深く、静かな威厳を放っていた。「カルナス、もう終わりよ。星の心臓は起動した。私たちは試練を乗り越えた。」

カルナスは膝をつき、震える声で言った。「お前…何をした? 監視者が来るぞ。俺たちを滅ぼすために!」

エラは首を振った。「監視者は敵じゃない。彼らは私たちを試していた。星の力は、破壊じゃなく、創造のためのものよ。」


その時、空に監視者の飛行物体が再び現れた。金属と光の鳥は静かに着陸し、半透明の存在が姿を現した。「星を継ぐ者、よくぞ試練を果たした。汝は星の脈動を制御した。宇宙の均衡は保たれた。」

エラは一歩進み出た。「あなたたちの目的は何? なぜ私たちを試したの?」

監視者は答えた。「我々は、星々の管理者だ。汝らの種は、星の力を扱う資格を持つかを見極めるためにヴェールを課した。汝が選んだ道は、希望と勇気だ。だが、力には責任が伴う。星の脈動を乱せば、宇宙は崩れる。」

エラは結晶に触れ、言った。「私はその責任を背負う。だけど、ラストハーヴェンの人々を導くには、協力が必要だ。」

監視者は静かに頷いた。「ならば、汝に力を貸そう。星の心臓は、汝らの世界を再構築する。だが、選択は汝ら自身に委ねられる。」

突然、谷の地面が揺れ、遠くから赤い光が再び迫ってきた。それは監視者の飛行物体とは異なる、鋭く攻撃的な輝きだった。監視者の声が緊迫した。「警告。均衡を乱す者たちが来た。汝の最初の試練だ、星を継ぐ者。」


エラはルークとカルナスを見た。「一緒に戦う? それとも、まだ私を止めたい?」

カルナスはしばらく沈黙し、立ち上がった。「…お前の言う希望が本物なら、俺も賭けてみる。」

ルークは笑った。「やっと分かったか。エラ、俺も行くぞ。」

赤い光が近づき、巨大な戦闘機械が現れた。それは監視者とは異なる、敵意に満ちた存在だった。機械の表面には赤い紋様が刻まれ、まるで血のように脈動していた。「我々は破壊者。星の力を奪うために来た!」機械の声は冷たく響いた。

エラは結晶を握り、星の心臓と繋がった。彼女の意識に、膨大なエネルギーが流れ込み、彼女の手から光の刃が生まれた。「これが…星の力!」

戦いは始まった。エラは光の刃で破壊者の攻撃を防ぎ、ルークは廃墟の瓦礫を使って敵を翻弄した。カルナスは護衛隊を率い、戦略的に破壊者を包囲した。監視者は戦闘には加わらず、静かに見守っていた。「これは汝らの戦いだ。星を継ぐ者の真価を示せ。」


戦闘中、エラは星の心臓からビジョンを見た。破壊者は、かつて別の星系で星の力を乱用し、滅びた文明の残党だった。彼らは他の星の力を奪い、宇宙の均衡を崩そうとしていた。エラは叫んだ。「あなたたちの破壊はここで終わる! 私たちは星を守る!」

結晶の光が爆発し、破壊者の機械を包み込んだ。機械は悲鳴のような音を上げ、崩れ落ちた。谷は静寂に包まれ、星空がより一層輝いた。

戦いが終わると、監視者が言った。「星を継ぐ者、汝は最初の試練を乗り越えた。だが、宇宙は広く、試練は続く。ラストハーヴェンを再建し、星の力を正しく使え。」

エラは頷いた。「分かった。私たちは新しい世界を作る。星の下で、皆で。」

カルナスはエラを見た。「…お前が正しかった。ドームに戻り、評議会を説得する。新しい時代を始めるぞ。」

ルークはエラの肩を叩いた。「お前、ほんと星みたいだな。」

エラは笑い、星空を見上げた。「まだ始まったばかりよ。星の脈動は、私たち全員のものなんだから。」


戦いの余韻が谷に響く中、エラは星の心臓の前に立っていた。結晶は彼女の胸で穏やかに脈動し、星の力が彼女と一体になっていることを感じさせた。破壊者の戦闘機械は瓦礫と化し、監視者の飛行物体は静かに浮かんでいた。監視者の声が再び響いた。「星を継ぐ者、汝は破壊者を退けた。だが、星の脈動を正しく導くには、ラストハーヴェンを再建せねばならぬ。汝の民を導き、宇宙の均衡を保て。」

エラは振り返り、ルークとカルナスを見た。ルークは埃まみれの顔で笑い、カルナスは複雑な表情で地面を見つめていた。エラは深呼吸し、言った。「一緒にドームに戻る。新しい世界を始めるわ。星の下で、皆で生きていくために。」

カルナスはゆっくりと頷いた。「…俺は間違っていたのかもしれん。お前の祖父も、こんな未来を信じていたんだな。」

ルークが肩を叩いた。「さあ、行こうぜ。ラストハーヴェンの奴ら、びっくりするぞ。」


三人は裂け目の谷を後にし、ラストハーヴェンへと戻った。ドームの広場は、星空を見上げる人々で溢れていた。子供たちが笑い合い、老人たちが昔話を語り、若者たちが新しい希望に胸を膨らませていた。だが、評議会の残りのメンバーたちは、エラの行動に依然として懐疑的だった。広場での集会が開かれ、エラは皆の前に立った。


「皆さん、星が戻った!」エラの声は力強かった。「ヴェールは私たちを守るためだったけど、同時に私たちを閉じ込めていた。星の力は、破壊じゃなく、創造のためのものよ。私たちはこの力を正しく使って、新しい世界を築くことができる!」

群衆から拍手が上がったが、評議会の一人、老女のミラが声を上げた。「だが、外部の脅威はどうする? 破壊者がまた来るかもしれない!」

エラは結晶を掲げた。「星の心臓は、私たちに力を与えた。監視者は私たちを試したが、敵じゃない。彼らは私たちが宇宙の一員になる資格があるかを見ていたの。私たちはそれを証明したわ。」


カルナスが前に進み、意外な言葉を発した。「エラ・トレントは正しい。俺は…恐れから彼女を止めようとした。だが、星の光を見た今、俺も信じる。彼女を指導者にしよう。」

群衆がどよめき、拍手が広がった。ミラは渋々頷き、評議会はエラを新たなリーダーとして認めた。ルークはエラの耳元で囁いた。「お前、リーダーって柄じゃないと思ってたけど、似合ってるぜ。」

エラは笑った。「やめてよ、照れるじゃない。」


エラは星の心臓から得た知識を使い、ラストハーヴェンの再建を始めた。結晶を通じて、彼女は星の力を制御する方法を学んでいた。それは、エネルギー供給、環境浄化、さらには食料生産を可能にする技術だった。ドームの古い発電所は星の力で再起動し、汚染された水源は浄化され、荒廃した土地に緑が戻り始めた。人々はドームの外に新しい住居を建て、星空の下で生活を始めた。

だが、エラの心には不安が残っていた。監視者が言った「宇宙の均衡」とは何か? 破壊者の襲来は、さらなる脅威の前触れではないのか? ある夜、エラは祖父の書斎で古いデータパッドを再び調べていた。そこには、ヴェール計画の最終記録が残されていた。「星の心臓は、宇宙のネットワークに繋がっている。星を継ぐ者は、宇宙の管理者として他の星系と交信可能だ。だが、力の乱用は、星々の崩壊を招く。」


エラは結晶に触れ、目を閉じた。彼女の意識は再び星の心臓と繋がり、遠くの銀河のビジョンを見た。無数の星々、他の文明、監視者の故郷。そして、破壊者のような存在が、星の力を奪おうと暗躍している影。エラは気づいた。彼女の使命は、ラストハーヴェンだけを守ることではない。宇宙全体の均衡を保つことだった。


ある日、空に新たな光が現れた。監視者の飛行物体だったが、今回は複数だった。彼らはエラを呼び、広場に降り立った。「星を継ぐ者、汝の最後の試練だ。宇宙の均衡を乱す者が、汝らの星に迫っている。星の脈動を完全に制御し、ネットワークに接続せよ。さもなくば、汝らの星は孤立し、滅びる。」

エラは息を呑んだ。「ネットワークって何? どうすればいいの?」


監視者は答えた。「星の心臓を通じて、汝の意志を宇宙に示せ。だが、接続には代償が必要だ。汝の命の一部を捧げる覚悟を。」

ルークが叫んだ。「命!? エラ、そんなのダメだ!」

エラはルークの手を握った。「ルーク、私にはこれしかない。祖父が信じた希望を守るために。」

エラはドームの中心に新たに建てられた「星の祭壇」に向かった。そこには、星の心臓のエネルギーを制御する装置が設置されていた。群衆が見守る中、エラは結晶を装置に接続した。彼女の体から光が放たれ、星の心臓が共鳴した。空に光の柱が立ち上がり、宇宙の果てまで届くような輝きを放った。


エラの意識は、星々のネットワークに飛び込んだ。そこには、無数の文明の声、希望、恐怖、夢が響き合っていた。彼女は破壊者の影を感じ、彼らに対抗する力を結晶に込めた。「私は星を継ぐ者。ラストハーヴェンの希望を、宇宙に届ける!」

その瞬間、破壊者の艦隊が地球に迫っていたが、光の柱に触れた瞬間、彼らは消滅した。監視者が静かに言った。「汝は均衡を保った。星の脈動は、宇宙に響き渡った。」


エラは意識を取り戻した。彼女は倒れていたが、ルークが支えていた。「エラ、大丈夫か!?」

彼女は微笑んだ。「…やったよ。宇宙と繋がった。」

カルナスが近づき、敬意を込めて頭を下げた。「お前は…本当に星を継いだんだな。」

監視者は最後に言った。「汝は管理者となった。星の脈動は、汝らの未来を照らす。だが、試練は続く。宇宙は常に動いている。」

飛行物体は光となって消え、星空だけが残った。

数ヶ月後、ラストハーヴェンは新しい都市として生まれ変わった。ドームは取り払われ、星空の下に家々が並び、子供たちが笑いながら走り回った。エラは指導者として人々をまとめ、ルークは彼女の右腕として新しい技術の開発を進めた。カルナスは評議会の改革を主導し、過去の過ちを繰り返さないよう誓った。

エラは夜ごと、祖父の望遠鏡で星空を見上げた。結晶は今も彼女の胸で脈動し、宇宙の声を感じさせた。「祖父、私やったよ。星は私たちの一部だ。」

遠くの空で、新しい光が瞬いた。それは、監視者でも破壊者でもない、別の文明からのメッセージだった。


エラは微笑み、言った。



「次は、会いに行く番ね。」



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