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橋立あまのが猫耳の追求を拒んでくる

「たとえあんたがその強引な方法とやらで失敗してガタラブの再現ができなくなったとしても、あたしはそれ以外の方法で人気者になる方法を地道に探ることにするだけだから別に何の問題もないって意味よ」

「たしかにそうかもしれないが……」


 俺が続きを言い淀んでいると、橋立はそれを俺が納得したものだと捉えたのか、


「よってあたしはこの件においてはあんたとは何の関係もない。以上。

 だからあんたがやりたければやればいいし、やりたくないならやらなければいい。お好きどうぞにって感じね」


 そう言い切って、半ば強引に会話を終わらせようとした。


 ━━なるほど、関係ないってのはそういう意味だったのか。


 橋立の言いたいことをようやく理解した俺は、もう前を向き俺と話す気がなさそうな橋立を見ながら


「でもな。一から他の方法を探るのは結構厳しいと思うぞ?」


 一方的な捨て台詞みたいになるのを覚悟してそう語りかけた。


 てっきり無視されるか、『余計なお世話よ』などと適当にあしらわれるものだとばかり思っていたが、意外にも橋立は俺の言葉に反応した。


「それ、どういう意味よ?」


 怪訝そうな表情を浮かべながらこちらを見てくる橋立に、今度は俺がわかりやすく説明してやる番だった。


「……お前だってちょっとの間とはいえ嫌われ者の俺と一緒にガタラブの再現をやっちまった以上、今後お前がクラスのヤツらと話すときにも少なからずそのときの負の印象がつきまとうはずだろ?

 その印象を、何の勝算もなく地道に拭い去ろうとすればかなり時間がかかると思うぞ?それこそいつまでかかるかわからない」

「……そこはなんとか頑張るわよ」


 自信なさげにそう答える橋立に、俺は追い打ちをかけるようにあえて厭味ったらしくこう続けた。


「でもお前がその猫耳を一生取り外すつもりがないんだったら、それこそガタラブヒロインのイメージを払拭するのはもう不可能に近いだろうなあ」


 俺がそう言い終えるや否や、橋立は真っ青な顔をして自分の猫耳に手をあて、


「そんな……だけど、こっこの猫耳は!あたしにとって大切なものだから絶対に外したくないの!」


 とびきり大きな声でそう叫んだ。


 授業中だったので、多くの生徒が一斉にこちらを振り向いたのは言うまでもない。


 定理という名のついたお経を唱えていた教師もまた板書をする手を止めて、黙って俺を見た。


 皆でお前、橋立を泣かしやがってみたいな視線を向けてくるのやめてくれない?

 誤解だから!そんな事実ないから!そんな冷たい視線ばっか浴びちゃ俺凍死しちゃうんですけど?


 ━━内心そんなふうに深く動揺しつつも、あくまで表面上は平然とした態度を取り続けるよう心がけた。


 動揺を見抜かれたら、ほんとに俺がコイツになんかしでかしたみたいに思われかねないからな。


 俺は表情を一切変えず、『何でもないです。お騒がせしました』という意思を会釈に入念に込め、教師に授業の続きをするよう促した。


「大切なもの?」


 授業が無事再開されてしばらく経ってから、俺はそう聞いた。

 橋立は強くうなずいた。


 あの猫耳は、橋立をそこまで言わしめるほどのものなのか━━。 


 ということは橋立は、テーマパークで雰囲気に流されてキャラクターの帽子を買うように、はたまた小学生が好きな戦隊の格好をして戦隊ごっこをするように、ただ単に猫耳でガタラブのヒロインの格好を真似ているのではないということだろうか。


「……誰かからの贈り物とかなのか、その帽子って?」


 不思議に思ってそう尋ねると、橋立は急に冷たい口調になってこう言った。


「は?なんでそれをあんたに言わなきゃなんないわけ?」

「なんでって……」

「それ話の本筋と関係ある?」

「いや、だけどちょっとくらい……」

「あたしたち、そんな個人情報を答えあうような間柄だったっけ?」

「別に個人情報ってほどのもんじゃないだろ?」


 そこまでもったいぶることかよ。


「あたしにとっては十分プライベートな領域なのよ?そんなことも理解せずに他人の領域にズカズカ入り込んでくるなんて、あんたってほんっと最低っ!」


 最低。無惨に吐き捨てたられた、そんなたった一言に、俺は不覚にも深く傷つけられてしまった。


 なぜだろう。橋立の悪口なんて、いや、悪口自体もう何年も人から言われ慣れているはずなのに。


 このあとにいつものように『そんなんだから人付き合いがうまくいかないんじゃないかしら?』なんていう皮肉の一つや二つでも付け加えてくれていたら、また違っていたかもしれないんだけどな。


「……ごめん、言い過ぎたわ」


 橋立は、自分が越えてはいけない一線を越えてしまったということを悟ったのか、自ら俺に謝ってきた。

 珍しいこともあるもんだ。今日は雪でも降るかもしれない。


「いや、俺もちょっとしつこく聞きすぎた。そりゃお前だって話したくないことの一つや二つあるはずだよな。それなのに俺はお前の気持ちもろくすっぽ考えずに自分勝手にお前のこと聞き出そうとして、ごめん」


 これでお互いに自分の過失を謝り合えたんだから多分仲直りできたってことでいいんだよな。


 俺の経験からいって、コイツと俺のように個人と個人の、それも友達が少ない者同士の人間関係は比較的簡単に修復しやすい。頼れる者が他にいないからだ。


 だがもっと大きな集団になると話は別だ。

 その証拠に、俺がこのあと皆の面前で先ほどの失言を謝罪したって、許してもらえるわけがない。


 そんなんでクラスで俺たちの立ち位置が回復するんだったら、俺たちはこんなに苦労していないのだ。


 ━━橋立は先ほど自らが突然取り乱したことについて、補足説明をした。


「あたしの猫耳のこと、そりゃ変だと思うだろうし色々と気になるかもしれないけど、今はあえて深くは追求しないでそっとしといてほしいの。この先、あたしたちがもっと仲良くなったらいずれ話す機会があると思うから」

「……わかった」

「ありがとう」

「お前が俺と仲良くしたいって思ってくれてるんだってよーくわかった」

「……大至急前言撤回するわ。あたしたちが仲良くなる日なんて永遠に来ないわ。地球最後の日にあんたと二人きりになったとしても、きっと遠く離れた場所で別々の晩餐を食べるに違いないわ!」

「そこまでかよ!?」


 地球最後の日に何して過ごすかって話でそこまで人を悲観させられんのマジぱないわ、橋立さん。


「━━でもなんでこの猫耳の話をすることになったのかしら。話が脱線して、よくわからなくなってしまったわ。あたしがこの猫耳を外さないなら……なんて言っていたかしら?」


 橋立の問いかけを受けてようやく俺も、先ほどまで自分の意識が完全に猫耳に持っていかれてたことに気づかされた。


「……ああ、お前が人気者になれないかもしれないって言ってたんだよ。

 さっきの話を簡潔にまとめると、俺たちが人気者になるためには、二人で協力してガタラブのイメージを作り出すのが簡単で一番手っ取り早いっていうこった。

 そしてお前が猫耳を取り外すつもりがないんだったら、これが最善の方法━━ってかむしろこれしか方法がないっていう結論に至る」

「ああ、たしかにそんな話してたわね。思い出したわ。別に思い出さなくてもよかったけれど」


 よかったんかい。

 そんなんだったら最初から気まぐれで俺に話しかけてくんのやめてくれない?


「……ていうか今あんた、二人で協力してって言ってたけど、そんな必要がどこにあるっていうのよ?」

「どういうことだ?」


 俺は自分が当たり前のように思っていたことを指摘され、その戸惑いを隠しきれずにそう尋ねた。


「別にあたしはあんたの協力なんてなくても問題ないってことよ。

 これはさっき思いついたことなんだけど、あたしがあんたに裏切られてガタラブの再現ができなくなってしまったあわれな被害者だってことにすればいいのよ!

 ほら、あたしはガタラブの再現に反対だなんて一言も言ってないんだし辻褄は合うでしょ?」

「まあたしかにそうだが……」

「そうやってあんたの被害者になりきれば、皆だって同情してあたしにいっぱい声をかけてきてくれるはずよ。そのきっかけを利用してあたしはめでたく人気街道まっしぐら……」


 相方が多目的トイレで不倫騒動起こした有名芸人みたいにか。そううまくいくかね。


「まあ本当にお前にそんな人を裏切るようなことできるんだったら仕方がない。そうすればいいよ……」


 橋立に迷惑をかけたのは間違いなく自分なんだし、彼女が俺を踏み台にして人気者になろうとも、それを止める資格は俺にはないだろう。


 だから俺は本当にダメ元のつもりでそう言ったのだが、


「もともと敵であるあんたを見捨てることなんてどうってことないんだからね!……って言いたいけどやっぱ無理だわ。あたしお人好しだからそんなのできそうにない」


 意外にも橋立は俺を踏み台にすることに抵抗を感じてくれているようだった。コイツにも人情と呼べるものがあったんだな。


「意外と良いヤツなんだな。お前って」


 普段の言動によらず、本当は人間としてよくできた女なのかもしれない。


「案外は余計よ!悪い要素なんてどこにも見当たらないじゃない。

 それにお人好しなんてのはまともな人間なら誰でもあてはまりそうなことなんだから、別に意外でもなんでもないわ!それよりもあたしにはもっと魅力的なチャームポイントが山ほどあるんだからね!」


 ……ただのバカな女だった。


「じゃあお前に協力してもらえるってことでいいんだよな?」

「ええ、そうよ」


 とにかく橋立がかなり乗り気になってくれているのはその表情から十分うかがえたので、俺は先ほどの方法を、勇気をもって橋立にも話してみようと思った。


「……実はさっき俺が言ってた強引な方法とやらでもさっそくお前に協力してもらえたらありがたいと思ってるんだが……」

「別に構わないけど。協力っていったって一体あたしは何をすればいいの?」

「この強引な方法は言ったらお前に反対されるかもしれないから、言わないで一人で進めようかとも思ったんだが、せっかく許しを得たんでまあ話そうと……」

「勿体ぶらずに早く説明しなさいよ!」

「ああ、そうだな」


 たしかにあまりじらすのもなんだしな。


 そう思い、俺は一瞬間をあけたあと、こう言った。

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