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研修期間

「さぁ、羽々斬ちゃん。研修期間に入ろうじゃないか。」

数日経ったある日、突然切奈さんがふと口にした。相変わらず室内でもタバコを吸い続けていた。

「研修...?」

「要はDDPに入った君への初めての[仕事]さ。どうだい?まずはコレで。」

そう言いながら渡して来たのはいかにも不良そうな輩達が写った写真と文章が書かれた一枚の紙。

「暴力・強盗・殺人...。」

「中々の屑共だろ?君がコイツらを成敗してくれれば研修は終わりだ。」

悪を悪で制する。そんなやり方で治安を守る。そりゃ警察にも言えない秘密の組織だ。

「獲物も手に入れた所だし、折角なら切れ味を奴等で試してみようよ。」

コートを着て準備をしながら私に説得をする切奈さんは、手持ちのタバコを補充しながら白鞘を腰に挿す。

「もし私が捕まったら責任はお姉さんが取ってくださいね。」

「お、いいね。最初から死ぬ心配をしないなんて。ますます気に入った。」

2人で事務所を後にして、目的地へ向かった。


10分程歩いて着いた所は、使われなくなった学校。「元々は偏差値の高い良い小さな高校だったが、突然不良が増えて様々な問題を起こして閉校した。そんな可哀想な学校が不良の溜まり場になってしまった。泣ける話だね。」

軽く笑いながら切奈さんが言った。

校門にはスプレーで描かれた落書きとゴミがそこら中に転がっており、いかにも荒れた学校という感じだ。

「この中に[スキル]を持った奴は居ない。だが、平気で殺しをする様な奴等だ。死なない様にね。」

切奈さんは、校門の近くで深く腰を落としてゆっくりとタバコを吸い出した。

「お姉さんはその間何をするんですか?」

「そりゃ見ての通りさ。ここでくつろいでおくよ。中に居る奴は全員敵だ。終わったら連絡してくれ。」

全てをこちらに丸投げして来た切奈さんは、学校に入る私に向けて手を振って見送った。




玄関の割れたガラスから中に入ると上の階で騒いでいる声が聞こえた。外からでも少し漏れていたが、入った瞬間に大人数の声が明確に聞こえた。

足音を立てずに一階からゆっくり回る事にした。幸い私が校舎に入った事は悟られていない。

1-1,1-2,1-3と教室を見たが人の気配がなく、一階は難なく見終わった。

「何も無かった。」

安心して一つ呟くとどこからか水の流れる音がした。振り返ると1-3の奥にトイレがあり、メンバーと思われる男が1人出て来た。

咄嗟に壁に隠れると、刀がぶつかって音を立ててしまった。

「ん?サツか?」

物音に気付いた男は、こちらに近づいて来た。近づいて来る足音に身を潜めながら刀を握り締めた。

1-3を通り過ぎた男の後ろに立ち、気付かれる前に刃を向ける。

「ごめんなさい。」

今から命を奪う相手に挨拶をして首の後ろから、喉仏を目指して刀を突き刺した。

叫ぼうにも空気が抜ける音しか声が出ない男の心臓にもう一撃刀を刺し込む。廊下と教室の壁は鮮血で赤く染まり、学校とは思えない異様な光景となった。

念の為トイレを確認して、上の階へと足を運んだ。


2階へ上がると騒ぎ声が一段階大きく聞こえた。恐らくもう一つ上の階で団体がいるのだろう。

2-1,2-2,2-3,と見て回ったが、誰も居ない。そしてこの階には大きな部屋が一つある。

「職員室...。」

恐らくトイレの水が流れるから、電気も通っている。大人数で携帯の充電等をするのであればこの部屋が1番適しているだろう。

恐る恐るドアを開けようとすると中から声が聞こえた。

「一階の奴と連絡が取れない。ちょっと見に行ってくれ。」

「はい!」

会話が終わったとほぼ同時で開けようとしていたドアが勢いよく開いた。

咄嗟に刀を抜いて下から上へと振り上げた。ドアを開けた時の腕と前へ出ようとした顔が血を滲み出しながらゆっくりと落ちた。

「おい、どうした?」

不審に思った仲間が駆け寄って来た。すかさず切った男の影に立ち、壁にしながら男ごと刀を突き刺す。

「おい、やべ____」

大声を出される前に刺さっている刀を横に振り抜いてもう一人の男に切り掛かり、喉を切り裂く。

黒板に切り付けた男の血が勢いよく降り注いだ。

血生臭さで職員室がいっぱいになり、中にいた3人を殲滅した。中に誰も居ない事を確認して最後の階へと足を運んだ。


職員室を出た後で妙な違和感を覚えた。

「声がしない。」

先程まで騒いでいたあの声が全くしなくなっていた。こうなったら今まで以上に警戒をしながら戦わなければならない。

階段を上り三階に着くと、窓ガラスに反射した3人の男が武器を持って待ち構えている姿が見えた。

覚悟を決めて反応される前に懐に入った。

「来たぞ!!」

口にした男は銃を持っており、発砲させないように銃身を握り込んでから横にいるバットと木刀を持った男2人を先に一斉に切り捨てた。

「ぐわあぁぁぁ!!!」

服の上からでも切り裂いた腹の傷は深く、血以外も流れ出た。

「てめぇ、離せっ!」

銃しか使う脳が無いこの男には、蹴りを入れて仰け反った所に刀を振るう。

最初に声を出した男に集る様に教室から男達が姿を出した。正直まずい。

「サツ相手にどうした____うわっ!」

身を隠したのは良いが、死体は廊下に転がったままだ。駆け付けた男の足音に耳を立てて、人数をカウントする。3人だ。

ドタドタと走って来た男に気付かれる前に、一瞬だけ姿を出してまとめて3人とも切り裂く。

切られて声を上げる男3人の数十メートル後ろに居る仲間を目視してから直ぐに近くの部屋に入った。

残りは恐らく4人。残った男達の声が廊下に響く。

「おい!今の女を殺せ!!!」

焦って戦闘態勢に入る男達に来られる前に、部屋の中を物色する。小さな会議室だからか、武器になりそうな物が何も無い。

「出てこい!!!」

その言葉と同時に発砲音が鳴った。銃を持っているなら安易に近寄れない。

ベランダに続く窓から出て奥の部屋に向かった。


一つ教室の後ろに奴等が居た教室に着いた。奇跡的にその部屋の窓が開いており、静かに教室を覗く。

「誰?」

声がしたが、男の声では無い。女性の小さな声だった。ゆっくりと顔を上げると、椅子に頑丈に縛り付けられたセーラー服を着た少女が居た。

「静かに。アイツらに気付かれる。隠れてて。」

拘束を解き、手足が自由になった少女は教卓の陰に隠れた。

彼女の姿は、身体中痣や傷だらけで服もボロボロになっていた。怯えてる様子は無いようだが、何か諦めたような顔つきに見えた。

彼女の居る教室のドアを音を立てないように開けると男達は、私が元いた部屋に未だに警戒を向けていた。銃を持った男を前の男に悟られない様に静かに喉仏を切り付ける。

ちろちろと流れる血を手で払い、残りの3人に襲い掛かろうとすると、突然意識が朦朧として倒れてしまった。

倒れた衝撃音に気付いた男達はこちらに視線を向けた。まずい、死んでしまう。

「居たぞ!!!殺せ!!!」

凶器を手にした男達は、そのまま一列に、一直線に私を狙う。

絶対的なこの状況で、切奈さんの声が聞こえた。

「投擲スキル 『ラッキーストライク』」

私の上で何かが空を切る音と共に、目の前に居たはずの男の姿が消え、切奈さんが現れた。

「上出来じゃないか羽々斬ちゃん。研修は終わりさ。」

倒れた状態の背中の方で、衝撃音が聞こえた。




目を覚ますと切奈さんの背中の上に居た。

「お目覚めかな、羽々斬ちゃん。」

ヤニの臭いが染み付いたコートから降りて、辺りを見回す。

「これ、またお姉さんがしたの?」

壁に突き刺さった刺股と、それに貫かれて串刺しになった男達。廊下には血だらけの死体。どう足掻いても殺人現場だ。

「何言ってるのさ、君の手柄だよ。」

罪をなすりつけられた。切奈さんの後ろに、セーラー服を着た謎の少女が居た。

「五月雨ちゃん、いつも通り[掃除]をお願い。」

「はい。社長。」

そう言うと彼女は手から漆黒の炎を出して、死体を燃やし始める。

「切奈さん、スキルが...!」

「大丈夫、この子は味方だよ。」

3秒程燃やし尽くすと、血や死体が消滅して何も無かったかのように普通の廊下に戻る。

刺股と壁は直らないが、突き刺さっていた死体だけは綺麗に燃えて無くなっていた。

「改めて紹介しようじゃないか。この子は五月雨ちゃんだ。スキルは黒炎。死体になった人間を跡形も無く燃やしちゃうんだ。ただ...」

話している途中で切奈さんは、五月雨さんに向かって後ろから消しゴムを投げた。

「...?」

五月雨さんは、何も反応しなかった。というより、何をされたかも分かっていなかった。

「彼女には痛覚が無い。[代償]さ。それより、さっき咄嗟に「切奈さん」って言ったよね?」

切奈さんは、嬉しそうに頬を染める。

「まぁそれは置いとくとして...」

手で物を置く動作をすると、切奈さんはいつの間にか刀を抜いて、首のすぐ近くに持って来ていた。

「羽々斬ちゃん。今何故防がなかったんだい?」

急に動かれて防げる訳がない。むしろそんな余裕すら感じない。

「昨日の君なら、いや、さっきの君なら簡単に防いで私に切り掛かっていたはずだ。」

刀を納めながら続けて言った。

「羽々斬ちゃんはもしかしたら...スキルを持っているかもしれないねぇ。」

「何のスキルですか?」

「スキルはよく分からないけど、代償ならすぐ分かる。[記憶]さ。」

そう言われるとはっとした。ここに来る前の記憶が一切ない。切奈さんの事自体は覚えているので、学校に着いてからの記憶だけが完全に消えている。

「私の事を覚えているならそこまで消えていない。ただ...、殺した奴等の事は覚えていない。そして君と私が会った時。完全に以前の記憶が無いなら君の代償はレベルがある。と、まぁこんな感じかな。」

懐に刀を直すと、素早い動きで私にお姫様抱っこをする。

「そして弱ってる君をこんな感じで抱っこする事も出来るのだ。」

今はあまり動けない。もういい、このまま帰ろう。

されるがままに校門へと向かった。


「申し訳ございやせん。社長。」

事務所に着いた所で、五月雨さんが突然土下座をした。

「気にする事は無いさ。怪我は...してるね。」

身体中に傷や痣が広がっており、服もボロボロだ。生きている事自体が奇跡だ。

「切奈さん、この方は?」

「そういえば言って無かったね。この子はDDPの1人の五月雨ちゃん。お掃除担当さ。」

お掃除担当より隠蔽担当な気がする。

「それより服が羽々斬ちゃんと被っちゃうね。セーラー服は好きだから問題は無いんだけど...。」

私が今着ている服は、五月雨さんの物らしい。この前「掃除の時」に着ていたと言う事は、五月雨さんが居ない間、切奈さんは仕事の時に着ていたと言う事になる。

「何か言いたげな目だね。詳しく聞かない事にするよ。」

どうやら学習したらしい。


押入れをゴソゴソと漁っている切奈さんが突然声をあげた。

「あったぞ五月雨ちゃん!」

手に出した物はスーツ。

「ありがとうございやす社長。」

五月雨さんはスーツを受け取って着替えにいった。

彼女が着替えている間、一つ疑問に思った事を質問した。

「五月雨さんはどうして捕まっていたんですか?」

「この前社長と仕事に行った時に気付いたら学校に居やした。恐らくふいを突かれて首を絞められたでありんす。」

ありんす。切奈さんと言い中々キャラが濃い。

痛覚と感覚が無い分、切り付けられた事や殴られた事も分からないのか。ある意味この仕事上では良い事ばかりでは無く、悪影響もあるらしい。

着替え終わった彼女はネクタイを締めて、少しドヤ顔でポーズを取った。

「社長、如何でしょう。」

「良いじゃないか五月雨ちゃん。とっても可愛いぞ。」

笑顔でタバコを持つ手で拍手をしながら副流煙をこちらに送って来た。

「「ヤニ臭くなるので辞めて下さい。」」

2人同時に一言一句同じ言葉をはいた。

「そんなぁ!2人で言わなくても良いじゃないか!」

どうやら彼女とは気が合いそうだ。

「それより折角レギュラーメンバーが揃ったんだ。ご飯を食べに行こう。」

切奈さんは食事の提案をした。時間的には悪くない。寧ろ疲労が来てお腹が空いた。

「良いですね。食べに行きましょう。」

「あぁ、もちろん...」

「喫煙可能のお店、ですよね。」

「大正解だ。」

切奈さんは指を鳴らして、タバコの火をこちらに向けた。「分かってるじゃないか。」と言わんばかりの目だ。

「あ、そうそう五月雨ちゃん。この子は羽々斬ちゃん。記憶があやふやらしいからうちに住むようになったんだ。」

そういえば程度に私の紹介をした。説明する順序がめちゃくちゃだ。

ともかく、ご飯屋さんへ行く準備をして、3人で出かける事にした。


「いらっしゃいま...えぇ...。」

店に入ると、明らかに店員の顔が曇った。いくら喫煙可能だからと言って入店時からタバコを吸う客なんて滅多に居ない。

来たのは近くの居酒屋兼食事屋。個人店で評判の良い店だ。

「店長、このお客さん...。」

受付をしていた人から店長を呼ばれた。これは出禁だと思った。

「おぉ風道ちゃん!いらっしゃい!」

「どうも店長さん。」

出て来た店長はどうやら知り合いらしく、受付の方に来ると、咥えタバコでその顔を見せた。

だったら客の咥えタバコで引かないでくれとツッコミを入れたかったが、我慢した。

「そちらのお嬢さんは?」

「私の仕事仲間だ。これからよろしく頼むよ。」

たまたま私が選んだ所が切奈さんの行きつけの店だった。というより、タバコOKな飲食店はここしか無かった。

「あいよ!お嬢さん達楽しみにしときな!」

店長さんは笑顔で厨房に戻ろうとすると、一旦引き返して言った。

「そうそう、いつものこれね。」

灰皿を貰ってテーブル席に着いた。

「私の奢りだ。好きな物を食べたまえ。」

「では、手羽先と枝豆で。羽々斬殿は何にしやしょう?」

「じゃあ...オムライス。」

「好みがバラバラじゃないか。」

そう言ってケラケラと笑いながら切奈さんは笑顔でタバコを吸う。

「切奈さんは何にしますか?」

「私かい?ご飯は醤油ラーメンで...。お酒は弱いからオレンジジュースにするよ。」

「じゃあ私も。」「あっしも。」

「飲み物の好みは一緒なのかい!」

ギャハハとさらに大きく笑った。釣られて私達も笑ってしまう。


楽しい食事の始まりだ。


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