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外伝-切奈-

冬はタバコが美味い。


乾燥した外気と肌寒さが、吸ったほのかに暖かい煙が絶妙にマッチしている。

「まぁ、私はライターを使うけどね。」

誰も聞いていない冗談をポツンと呟いて街を歩く。


私の仕事は屑をあの世へ送る事だが、見回りもする。もちろん仕事にも必要な情報を仕入れる為だが、時には一般人の手助けも兼ねてしている。

「今日は...公園辺りにでも行こうか。」

正直言って、公園辺りはあまり豊かではない。古い一軒家やアパートが並ぶ住宅街だ。

ゴールを公園に設定して、再び歩き始めた。


20分ほどして目的地についたが、

「収穫無し...か。」

それはそれで良い。平和に越した事はない。

公園では子供達が錆びれた遊具で無邪気に遊んでいた。

タバコを数本吸ってゆっくりしていると、時刻は既に黄昏時になっており、夕方と夜を混ぜた空の色が広がっていた。気付けば子供達は帰っていた。

「私も帰るとするかな。」

掛けていたベンチから立ち上がり、コートを払うとブランコで一人寂しそうに座る少女だけが公園内に残っていた。

「どうしたんだい、お嬢ちゃん。」

ボロボロで汚れた服で涙目の少女が顔を上げた。

「おばちゃん、助けて。」

「おばちゃんじゃない。お姉さんだ。それより、何かあったかな?」

どうも喧嘩や迷子等では無く、自分の力では何も出来ない悩みがある様子だ。

「ごめんなさい。何て言ったら良いのか分かんない。」

「仕方ないさ、悩みを抱えて困った時はここに来ると良い。」

そう言いながら名刺を渡した。

「電話をして来ても構わないよ。またね、お嬢ちゃん。」

「ありがとう。お姉ちゃん!」

お姉ちゃんか。良いじゃないか。

うひひと変な声を上げながら公園を後にした。


少し歩くと、ライターを忘れている事に気付いた。

頭をわしわしと掻いて、もう一度公園の方へ向かった。

案の定、ベンチにライターが置かれていた。辺りを見回すと、少女の姿は無かった。

「帰ったのかな?」

ライターを手にして帰ろうとすると、携帯電話が鳴った。

「ほいほい、叢...切奈ちゃんだよ。」

電話に出ると、先程の少女が泣きそうな声がした。

「お姉ちゃん...怖い人が来た。」

声の聞こえる周りからは、怒声が鳴り響いていた。

「はよ開けんかい!!!居るのは分かってるんや!!!」

偶然にも電話と同じ声が公園の周辺でした。

「ちょっと待っててねお嬢ちゃん。すぐに向かうからさ。ドアはお姉ちゃんが良いって言うまで開けちゃダメだよ。」

「うん...」

これはこれは、とんだ大当たりだ。まさか話しかけた少女に仕事の依頼が来るとは。

声の聞こえる先へ足を運んだ。


やはり公園からそう離れていない場所に変な車が数台止まったアパートがあり、玄関口に男の姿が見えた。

「おやおや、君達。そんなに声を上げてどうしたんだい。」

「黙れボケ!こっちは仕事だ!!!」

借金取りか。丁度私が追っていた屑共が少女の家をターゲットにしていたらしい。

「中に居るのは、本井優子32歳と雪子ちゃん6歳。その母が30の時に借りていた150万を[完済]したにも関わらず未だに取り立てている、と。とんだカス集団じゃないか。」

「うるせぇ!!!お前も身体を売ってやろうか?!」

めちゃくちゃな暴論を吐いてくるな。外見を褒められた様な気がして悪い気はしないが。

「まぁ、待ちたまえ。大人しく貴様らが引けば何もしない。このまま続けるのであれば容赦はしない。」

「おいお前ら、やってしまえ!」

ドアの前に居た奴等も合わせてこちらに向かってくる。

ドスを持って私の懐に刺そうとして来た。

「君達、殺しはやって来なかったんだね。そんな動きじゃダメだ。」

少し後ろに引いて、間合いを取ってから容赦無く右肩から左脇腹へとコートに隠し持っていた刀を動かす。

一瞬の出来事で反応できなかった仲間達が青ざめて騒ぎ出す。

「うわあぁぁぁ!!!車出せ!早くっ!!!」

情けの無い男達だ。ドアに1人いた男を見捨てて急いで車に乗り出した。

「母と子供を脅かしたのに、自分達は怖くなったら逃げる、か。」

はぁ〜〜〜とため息をついて吸っていたタバコを捨てて、別のタバコに火をつける。

深く煙を吸い込むと白鞘から真っ白な日本刀へと姿を変える。抜刀すると真紅の刃が現れる。

「断裂スキル 『スティングレイ』」

エンジンを掛ける音と同時に走り出し、2台の車に乗った男達の首元を目掛けて刀を振るう。

「車如きで私の刀は避けられないさ。じゃあね屑共。」

窓と枠に一筋の線が入り、平行に切られた男達の首は車内全体に血を吹き撒いた。エンジンが焚かれたまま、血が落ち着くまで足場を濡らし続けた。

ふとドアの方に目を向けると、先程までドアに居た男の姿が見えない。

「おっと、急がなきゃね。」

また別のタバコを咥えて、少女とその母が待つ部屋へ走り出した。


急いで部屋に入ると、恐怖で震えた男が二人を人質にしてナイフを突き付けていた。

「近付くなぁ!!!コイツらがどうなっていいのか!!!!!」

少女と母だけでなくこの男も泣き出しそうだ。実に情けない。

既に変えていたタバコの煙を深く吸い込み、黒と金の刀を懐から取り出した。

流石にこの中で血飛沫を上げるのはまずい。それならこれしかない。

「一閃スキル 『峰』」

脊髄を目掛けて刃と逆の方で男の首を叩く。

「まさに、[峰打ち]ってね。」

冗談を吐くと、男はナイフを手放して倒れ込んだ。

静かに納刀をし、しゃがみ込んで少女と母に手を差し伸べた。

「お嬢ちゃんとお母さん、怪我は無かったかい?」

一つ問いかけると、少女は抱きついて来た。

「お姉ちゃんありがとう!!!とっても強い良い人なんだね!!!」

咽び泣く声を抑えながら、少女は必死に感謝の言葉を述べた。

良い人かと言われると何とも言えないが、少なくとも外の光景は彼女に見せるべきでは無いのは確かだ。

「呼んでくれてありがとね。それよりお母さん、家の中でタバコを吸ってて申し訳ない。コイツが無いと生きていけないだ。」

「いえいえ、ありがとうございます!それよりお礼をさせて下さい!」

少し怯えが治った少女の母が、机に置いていた財布に手を掛ける。

「なぁに、お代は結構さ。私はここでお暇させて頂くよ。」

すっと立ち上がって、男を引きずりながら玄関に向かう。

「お姉ちゃん、またね!」

「あぁ、またね。何かあったら何時でも呼んでね。」

タバコを変えて、少女の家を後にした。




「う...うぅ...。何処だ...ここ?」

目を開けると見慣れない廃屋に居た。首筋を痛めたのか、かなりの激痛がする。

ぼんやりとした意識の中、最後の記憶はアパートに押しかけた事だ。女子供から金を巻き上げようとして気付くとここにいた。

目線を下にやると、手と胴が固く縛られていた。

「おい、なんだよこれ。」

「やっと目を覚ましたのか。お寝坊さんだねぇ。」

声のする方に目を向けると、コートを着た謎の女が立っていた。

「起きて直ぐに悪いが...楠木海斗41歳で間違い無いかな?」

「あ、おう...。楠木だ。」

「そうかそうか、ではコイツらに見覚えは勿論あるよね?」

ひょいと女は何かを投げて来た。それは俺の仲間の首だった。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

投げられた首と同時に記憶を取り戻した。人質に取った女と子供を助けるように来た女。メンバー全員を斬り殺した女の事を。

「そんなに怖がらないでくれよ。あの子達の方が怖い思いをしてたんだから、このぐらい平気だろう?」

人間離れした所業、そして剣技。間違いない。コイツは巷で有名な「スキル持ち」とやらだ。

「やめろ!死にたくない!!!」

「大丈夫。まだ殺しはしないさ。」

そう言うと、女は刀で脅しながらこう言った。

「君のメンバーはこれで全員かな?」

刀でメンバーの頭が並んだ方を指す。あまりの恐怖に失禁をしてしまった。

「汚いじゃないか。」

そう言うと、女は持っていた刀で伸びた左脚の膝下を狙って刀を振ってきた。足は地面に着いたまま切れたズボンから大量の血が噴き出た。

「いってええええぇぇぇえ!!!」

首の痛みなどを忘れて、足に集中して痛みが降り注いだ。

「さっさと言いなよ。メンバーはこれで全員かな?」

もう同じ痛みを味わいたくない。全身が震えながら、無意識に首を縦に振った。

「そうか、ならもう大丈夫だよ。」

女は笑顔でこちらに微笑みかけてきた。

「じゃあね、屑共。」

人生の最後に目にしたものは、その女の刀を振りかぶる姿だった。




あれから暫くして、街の見回りにまた出た。

あの日がたまたま当たりの日なだけであって、今日は何も起きなかった。挨拶回りとして色んなところに出向き、名刺を配っていた。

表向きはお悩み相談所なので、怪しい職場を紹介している訳ではない。きっとそうだと思ってる。

「おや、名刺が無くなっちゃった。」

50部ほど刷った名刺はいつの間にか配り終わっていた。散歩をしていたおじいちゃんや、下校中の小学生、色んな人に配っていたので当然ではある。

「さてと、帰ろうかね。」

消えかけていたタバコと新しいタバコの先を合わせて、火を付けて吸った。


少し歩くと、剣道部の学生の様な少女が向かいから来ていた。背中には刀袋を付けて、セーラー服の姿で歩いていた。普通の学生のようだが、妙な違和感を覚えた。

「真剣の音だね...。」

竹刀や木刀の木製の音ではなく、金属音が微かに聞こえて来た。

何かのヒントになりそうだ。ここは名刺を...って持ってなかった。ポケットにあったペンと破れたレシート紙で電話番号を書いた。

「やぁ、お嬢ちゃん。ちょいと良いかな?」

「はい、何ですか?」

そう言った彼女の眼はまるで獣。何か覚悟を決めた様な、今にも襲いかかりそうな鋭い目つきだった。

少し警戒しつつ質問を続けた。

「もう夜も更けた頃だが、学校帰りかな?」

「...」

少女は口を閉じた。一般人には学校帰りに見えても私からしたら制服を着た怪物にしか見えない。

「もし、君が悪いヤツじゃないなら...私の仲間ところに来てくれないかな?」

そう言いながら手に持っていた紙を渡す。

風道かざみ 切奈せつなだ。切奈ちゃんって電話を掛けてくれると嬉しいな。」

その言葉に引いたのか、少し少女の顔が曇る。慌ててフォローに入る。

「悩んだりしたら電話かけても良いからさ、気軽に呼んでくれたまえ。」

私に警戒される様な人間だ。もしDDPに来てくれるなら即戦力になる。そんな機会を逃すまいと必死に説得する。

「...考えときます。」

よくやった私。心の中でガッツポーズを決めた。


近くの喫煙所でタバコを吸って休憩した。

入る時も出る時も吸ってるから別に変わりはしないが、体裁だけマナー良くした。

1時間程タバコを吸いながら一息ついていると電話が鳴り出した。

手に取ると見知らぬ携帯電話の番号が表示されていた。

「ほいほい、切奈ちゃんだよ。」

電話を取ったが電波が悪いのか、繋がらずに切れていた。

喫煙所を出て、外で電話を掛けようとすると、すぐ近くで男の怒声が聞こえて来た。

「また怒鳴り声か...。仕方ないねぇ。」

声のする方に向かうと、男の集団数人が1人の少女を囲んでいた。夕方に話しかけたセーラー服の少女だ。夕方と違うのは、少女の目が普通の女の子の目だった事だ。どうやら刀も持っていない。

そのまま声を掛けようとしたが、明らかに武器を持っている。それなら気付かれないように、近付くしかない。

近くの低い建物の屋上にすぐに移動した。獲物が動けば即座に動ける高さだ。

一人の男が鉈を彼女に目掛けて振り落とそうとする。やるなら今が絶好のチャンスだ。

煙を深く吸い込み、抜刀をする。そして少女に目掛けてこう言った。


「ご指名ありがとね。」


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