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87:最後の一撃

 薄明かりの中、ヴァリアの手の中でリボルカリバーの予備弾が煌めいていた。

 魔王と化したマオから分離した漆黒の存在との決戦。

 その結末を決する一撃の時が、今まさに訪れようとしていた。


 夜明けの光が、荒れ果てた大地を照らし始める。

 無数のクレーターが刻まれた地面には、これまでの激戦の痕跡が生々しく残されていた。

 魔王の放った魔力弾の跡は、まるで隕石が落ちたかのような傷跡を残している。


「まだ立ち上がるか」


 魔王は高みから、冷ややかな視線を投げかけた。

 その姿は禍々しさを増すどころか、より純粋な破壊の意思へと昇華されているかのようだった。

 人の心を失い、ただ破壊のみを目的とする存在。

 それは、まさに世界の終焉を象徴するような佇まいだった。


「ヴァリアさん……!」


 エナの声が、憂いを帯びて響く。

 彼女は予備弾を届けた直後、反動で動きが鈍っていた。

 しかし、その瞳は強い意志に満ちていた。


「ありがとう、エナ」


 ヴァリアはゆっくりと、しかし確かな足取りで立ち上がる。

 全身の傷が痛むが、それ以上に心の芯は強く燃えていた。

 手の中の予備弾が、彼女の決意に呼応するように輝きを増す。


「私に……私にも何かできることが……!」


 マオが叫ぶ。

 その声には、魔王から解放された今だからこその、純粋な想いが込められていた。


「いいえ、マオさん。もう十分ですわ」


 エナが静かに首を横に振る。

 その仕草には、いつもの優雅さが残されていた。


「あなたは、もう戦わなくていい。私たちが……ヴァリアさんが、きっと」


 その言葉に込められた信頼が、ヴァリアの心を強く打つ。

 彼女は予備弾を掲げ、その光が夜明けの空に煌めく。


「戯言を。我の前で、そのような……!」


 魔王の怒声が響き渡る。

 漆黒の魔力が渦を巻き、天を覆うように広がっていく。

 その威圧感は、これまでの比ではなかった。


「人の心など持たぬ今の我には、もはや躊躇いなど存在せぬ。ただ純粋なる破壊の意思のみが、この身を支配する!」


 魔王の放つ魔力が、まるで暗雲のように立ち込める。

 それは世界を覆い尽くさんとする闇。終焉をもたらす漆黒の力。


「確かに、お前の力は本物だ」


 ヴァリアは静かに告げる。

 その声には、不思議な温かみが宿っていた。


「だが、それはお前の全てじゃない」


「何を……?」


「人の心を失い、ただ破壊だけを求める存在。それが本当のお前なのか?」


 ヴァリアの言葉が、魔王の心を僅かに揺らす。

 しかし、すぐにその動揺は怒りへと変わる。


「黙れ! 我に説教など不要!」


 魔力の波が、轟音と共に放たれる。

 しかし、ヴァリアはそれを見据えたまま、リボルカリバーに予備弾の魔力を注ぎ込む。

 聖剣が、新たな力を得て輝きを増していく。


「エナ、マオ。お前たちの想いを、この一撃に」


 聖剣の中で、二つの魂が共鳴する。

 ドラシアとイクス。彼らの魂が、ヴァリアの決意に応えるように光を放つ。


「全ての想いを、この一撃に込めて……!」


 ヴァリアの体から、青白い光が立ち昇る。

 それは単なる魔力ではない。仲間たちの想い、絆、そして希望。

 全てが一つとなった光。


「馬鹿な……この我の魔力を前にして、そのような……!」


 魔王の声が僅かに震える。

 その瞳に、初めて恐れの色が宿る。


 リボルカリバーの刃に、予備弾の魔力が完全に溶け込んでいく。

 その輝きは、まるで夜明けの光を纏ったかのように眩しく放たれていた。


「魔王よ。お前の苦しみも、全て受け止めよう」


 ヴァリアは剣を構え、魔王へと向かって突進する。

 聖剣の軌跡が、夜明けの空に光の帯を描く。


「させるものか!」


 魔王の放つ漆黒の波が、大地を引き裂く。

 しかし、ヴァリアの聖剣は、その闇をも切り裂いていく。


「これで終わりだ!」


 渾身の一撃。

 聖剣が放つ光の軌跡は、まるで夜明けそのもののように輝いていた。


 魔王の放つ漆黒の波と、聖剣の光が激突する。

 轟音が響き渡り、光と闇が交錯する。

 しかし、確かな光は、着実に闇を押し返していく。


「ぐっ……この、このような……!」


 魔王の声が途切れる。

 聖剣の一撃が、魔王の体を貫いていた。

 しかし、それは破壊の一撃ではない。

 救済の、解放の光だった。


「お前も、もう十分だ」


 ヴァリアの声が、優しく響く。

 魔王の体が、光の粒子となって消えていく。

 その瞬間、漆黒の瞳に、かすかな安堵の色が浮かんだような気がした。

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