表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/90

84:光の中へ

聖剣リボルカリバーの光が、マオの体を包み込んでいく。

その光は、破壊を目的としたものではなく、救済のための温かな輝き。

ヴァリアの想い、仲間たちの祈り、そしてドラシアとイクスの魂が一つとなった希望の光だった。


光は次第にマオの心の奥深くへと染み込んでいき、やがてヴァリアの意識も、その光と共に心象世界へと導かれていく。

意識が遠のき、現実世界が霞んでいく中で、彼女は確かな手応えを感じていた。


目を開けると、そこは懐かしい学園の教室。

夕陽が窓から差し込み、オレンジ色の光が机や椅子を優しく照らしている。

放課後の静けさの中、一人の少女が机に伏せて眠っていた。


黒い長髪が夕陽に照らされ、穏やかな寝息を立てる少女。

それは紛れもなく、マオの姿だった。

魔王としての禍々しい角も、漆黒の魔力のドレスもない。

ただの女子学生として、疲れて眠り込んでしまった、かつての親友の姿。


「おーい、起きて、起きてよ」


明るく朗らかな声が響く。

マオの机の前には、二人の少女が立っていた。


「もう、こんな所で寝ちゃダメですわ。風邪を引いてしまいますわよ」


優雅な物腰の少女が、優しく諭すように声をかける。


マオはゆっくりと目を開け、二人を見上げる。

瞳には混乱の色が浮かんでいたが、どこか懐かしさも感じているようだった。


「あなたたち、誰……?」


「えー? 私のこと忘れちゃったの? スレインだよ、スレイン!」


「まあ、私のことも分からないのですの?エナですわ」


二人の名前を聞いた瞬間、マオの瞳に光が戻る。

心の奥底で、何かが震えるように蘇っていく。


「レイ……レイ?エナっ……ち?」


記憶が、少しずつ紡ぎ直されていく。

演習場で共に戦った日々。

放課後のティータイム。

クッキーを分け合って笑い合った時間。

模擬戦で競い合い、励まし合った瞬間。


「そう、その通りですわ」


エナが優しく微笑む。

その笑顔には、これまでの全ての想い出が込められているかのようだった。


「私たち、いつも一緒だったじゃない?」


レイレイが元気よく言う。

その声には、マオへの変わらぬ友情が溢れていた。


教室に差し込む夕陽が、より鮮やかさを増していく。

まるで、マオの心が少しずつ温かさを取り戻しているかのように。

その中で、少しずつ記憶の欠片が浮かび上がってくる。


演習での成功を喜び合った時の、レイレイの弾けるような笑顔。

エナと競い合いながら、互いを高め合った真剣な眼差し。

そして、いつも温かく見守ってくれていたヴァリアの優しさ。


「みんな……私、ずっと……」


マオは言葉を詰まらせる。

あの日々は、ベルカナンに記憶を封印されたものだとばかり思っていた。でも、違う。

確かにきっかけは偽りだったかもしれない。

でも、その後に紡いできた絆は、決して偽りなんかじゃなかった。


「そうだ……私、みんなと……」


マオの目から、大粒の涙が零れ落ちる。

それは魔王としての力や、封印された記憶の重みではない。

ただ純粋な、仲間との絆を思い出した喜びの涙。


その時、教室の扉が開く音が響いた。


「随分と待たせたな」


声の主は、ヴァリアだった。

勇者の末裔としての威厳を纏いながらも、その表情には先輩としての優しさが溢れている。


「ヴァリア……先輩」


マオの声が震える。目の前の光景が、徐々に鮮明になっていく。


「さあ、帰ろう。みんなが待っている」


ヴァリアが差し出す手には、温かな光が宿っていた。

その光は、マオの心の闇を押し返すように、強く、そして優しく輝いている。


「で、でも私は……魔王の記憶を取り戻して……あんなことを……」


「構わない。お前は、私たちの大切な仲間だ」


ヴァリアの言葉が、マオの心に深く響く。


「そうだよ! マオちゃんは、マオちゃんのままでいいの!」


レイレイが力強く頷く。


「私たちは、あなたの味方ですわ」


エナの声には、揺るぎない信頼が込められていた。


三人の言葉が、マオの心を包み込んでいく。

魔王の力も、封印された記憶の重みも、全てを超えて響く温かな言葉。


(そうだ。私は、まだ……)


マオはゆっくりと立ち上がる。

夕陽に照らされた教室で、彼女の瞳が強い意志の光を取り戻していく。

過去も未来も、全てを受け入れる覚悟が、その瞳に宿っていた。


「私……帰りたい。みんなと一緒に、また笑い合いたい」


その言葉には、もう迷いはなかった。

たとえ辛い記憶を持っていても、たとえ魔王の力を宿していても、それでも前に進もうとする強い意志があった。


(みんなと一緒にいたい)


ヴァリアの差し出した手を、マオは強く握り返した。

その瞬間、眩い光が教室を包み込む。

それは希望の光。魔王の闇を押し返し、本来のマオを取り戻す救いの光だった。


現実世界。

魔王となったマオの体が、まぶしい光に包まれる。

その中から、一つの形が浮かび上がってくる。

漆黒の角も、魔力のドレスもない。

ただの少女の姿。本来の、みんなが知っているマオの姿。


ヴァリアは駆け寄り、倒れかけるマオを優しく受け止める。

その腕の中で、マオはゆっくりと目を開いた。


「ヴァリア……先輩」


「おかえり、マオ」


ヴァリアの腕の中で、マオは静かに涙を流した。

それは後悔の涙でも、悲しみの涙でもない。仲間の元に帰ってこられた、純粋な喜びの涙だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ