表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/90

56:エナの優先順位

 マオが待望していた日常。

 彼女の周りで変わったことと言えば、エナと話す機会が減ったくらいだった。

 朝、教室で見かけて、エナはマオやレイレイに挨拶する。

 しかし、前のように二人と絡むことは少なくなってしまった。


 原因は一つ。彼女の妹であるアイミーが、事あるごとにエナと一緒にいようとするためだ。

 アイミーは人見知りではない。他人とも積極的に関わる少女だ。

 しかし、エナが絡んでいる事に関しては、二人でいたいという強い意志を示していた。


 だが、これで黙っているマオではない。

 彼女なりに作戦を考え、エナに声をかけようとする。

 アイミーが席を離れた途端、マオはそそくさとエナの席へと移動した。


「エナっち!今日の演習さ、レイレイと一緒に受けようよ!」


「マオさん?まあ、そうですわね……」


 エナにも微かな違和感があった。

 彼女自身も、マオやレイレイと共に過ごしたい気持ちがある。

 それでも、アイミーの言葉を聞いてしまうと、彼女を優先してしまうのだ。


 それが何故かは分からない。だが、アイミーと自分にまつわる過去の記憶が、彼女の意思を歪めさせる。

 だが、たまにはマオたちと過ごしても悪くないだろう。

 彼女はマオに微笑んだ。


「じゃあ、今日はマオさんやレイレイさんと一緒に受けましょうか」


「うんうん!そうしようよ!あっ、アイミーちゃんも誘っても、私は全然大丈夫だよ!」


 アイミーが居ない時に、話が進む。

 そうして、アイミーが教室に戻ってくる。

 アイミーはすぐさまエナの元に駆け寄り、そして日常会話を始めようとする。


「エナお姉ちゃん。今日は――」


「アイミー、その前に一つ聞いて欲しいことがありますの」


「なあに?」


「今日の演習、マオさんやレイレイさんと一緒に受けませんこと?」


「マオちゃんやレイレイちゃんも?」


「ええ。チームワークを磨くためにも必要でしてよ?」


「――嫌だ。他の人はいらない。私はエナお姉ちゃんとずっと一緒がいい」


「アイミー……」


「私のお願い……聞けないのかな?」


 ジッと見つめるアイミー。

 彼女の瞳を見ると、エナは逆らうことができない。

 エナの中にある、アイミーとの悲しみの記憶が、彼女の意思を弱めてしまう。


「……そう、ですわね」


「分かってくれた?お姉ちゃん」


「――ええ。分かりましたわ。私は、アイミーとずっと一緒。そのためには仕方ありませんわね」


 席を立つエナ。彼女はマオとレイレイの元に行く。


「マオさん」


「エナっち……」


 エナとアイミーのやり取りを見ていたマオ。

 エナと一緒に授業は受けられない。それはやり取りの中ではっきりしていた。


「申し訳ございませんけど、今日もマオさんと一緒に演習受けられませんわ」


「ねぇ、エナっち。明日……とかは?」


「明日も、明後日も。多分、ずっと。私はアイミーと一緒に居なければなりませんの。彼女のため、私は存在していますのよ」


「……そ、そっかぁ!それならしょうがないよね!」


 そう言いつつも、マオの笑顔は張り付いている。

 姉妹を優先するのは仕方ない。肉親は大事。

 ヴァリアの家族が直近で悲惨なことになってしまったこともあり、マオはそれ以上ワガママを言うことができない。


「あっ! 一つ忘れないで欲しいのが――」


 そんなマオを感じ取ったのか、エナは一つ付け加えた。


「――私とマオさん、レイレイさんの絆は消えてませんわ。それだけは伝えたくて……」


 離れても、あの時の想いは同じ。

 それが分かっただけでも、マオの心は晴れていく。

 妹が大切だから、今は離れているだけ。きっとまたみんなで色んなことが出来る。


「そう、だよね。分かった!」


 マオの表情が和らいだ。

 エナは安心し、アイミーと話すために席に戻っていく。


「残念だったね、レイレイ。エナっち、今日もダメだったよー……」


「……うん」


「レイレイ?どったの?」


 エナとアイミーのやり取りを訝しげに見つめていたレイレイ。

 彼女はマオの耳元でささやく。他の人に聞こえないように。


「マオちゃん、おかしいと思わない?」


 レイレイの言葉に、マオは眉をひそめる。

 そして、彼女と同じ様に声を潜めて喋り始める。


「おかしいって、何が?」


「エナちゃん、絶対に妹なんていなかったよ」


「でも、何か事情があって隠し事してたかもしれないよ?」


「妹がいる、いないなんて隠しても意味はない……と思う。聞かなかったら言わないかもしれないけど、私はエナちゃんの兄妹について聞いたことがあるもん」


「んー……」


 レイレイの疑いすぎでは?

 マオはそう思いながら、エナとアイミーの会話を眺める。

 本当の姉妹というのは、あんなに楽しそうに日常会話を続けることができるのか。

 アイミーの他愛もない話を、エナは笑って聞いている。


「あんなに仲良しだし、悪いことにはならないと思うけどな」


「エナちゃんとアイミーちゃんが教室で初めて会った日のこと、覚えてる?」


「うん……まあ……」


「あの時のエナちゃん。アイミーちゃんを始めて見るって感じだった」


「でも、証拠も無いし、私はあんまり信じられないなぁ」


「……そう、かな?」


「でも、レイレイの視点も大事だよ。確かに、アイミーちゃん来てから、エナっちが変わったのは事実だからね」


「うん。もうちょっと、調べたいね。アイミーちゃんのこと」


 お互いに頷き、アイミーを見る。

 疑われていることを知ってか知らずか、アイミーはより一層甘えるため、エナの体に抱きついていた。


 その仕草は、まるで本物の姉妹のように自然で、愛情に満ちている。

 しかし、レイレイの目には、何かが違和感を覚えさせる光景に映っていた。


(何かが、おかしい……)


 レイレイは心の中で呟く。

 彼女の直感が、アイミーという少女の存在に警鐘を鳴らしている。

 一方、マオもアイミーを見つめながら考え込んでいた。


(エナっちが幸せそうなら、それでいいのかな……?)


 だが、レイレイの言葉が脳裏に残る。

 確かに、エナは変わってしまった。

 それは、良い変化なのだろうか。

 二人の少女は、それぞれの想いを胸に、アイミーという謎の少女の真相に迫ろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ