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50:黒の混迷、青の雷撃

 マオとデサイス。二人の剣撃は止まない。

 デサイスの重い一撃に耐え、時に距離を取り、慎重に攻撃を繰り出すマオ。

 幾度の攻防の末、彼女はデサイスの剣に秘められた『想い』に気づいた。


(デサイスの悲しみが……伝わってくる?)


 剣は、その人の意思を映し出す。

 怒りに任せて振るえば、剣は破壊の神と化す。

 揺るぎない精神を持つ者が振るえば、剣は無敵の威力を誇る。

 デサイスの剣からは、当初冷静さが感じられた。

 だが、打ち合いを重ねるうち、マオは気づいたのだ。

 彼の剣に込められた、深い悲しみを。


「――デサイス!」


「何だ」


「この状況……! あなたは望んでないんじゃない!?」


「貴公に何が分かる」


「分かるよ! あなたの剣が、悲しみに震えてる! こんなはずじゃなかった……! そんな後悔が伝わってくるんだよ!」


「愚かな……たかだか数度の殺し合いで、余を理解できたと?」


「――ヴァリア先輩を殺したくなかった。そうでしょ?」


「…………」


「ベルカナンの言葉がなければ、先輩は後回しにしたはず! 違う!?」


「……ヴァリーは、余の唯一の理解者だった。だが、今の余には容赦はない」


「お兄さん……! 戻るには、もう遅いかもしれない。でも……!」


「――遅いのだ」


 剣を下ろすデサイス。

 マオは攻撃の好機を逃すが、あえて動かない。

 デサイスの中に残る『良心』を信じたかった。

 彼の心に触れたかった。


「余が生まれた時から、あの一族は腐敗していた。勇者の名を笠に着て、暴虐の限りを尽くした。変わらねばならぬ。邪魔されながらもギルドを立ち上げたが……現実は非情だった。無実の罪で堕ちた余には、もはや正攻法では立ち向かえない。だから……余はギルドを壊滅させ、肉親の命さえ奪った」


「デサイス……」


「余を救いたいと言うなら、この剣を止めてみせろ」


 デサイスが走る。

 彼が持つ本来の剣技を捨て、全てを賭けてマオに挑む。

『救い』を求める心の選択だった。


 ***


 一方、エナとティネスの戦いは佳境を迎えていた。

 傷を恐れぬ肉弾戦を仕掛けるティネス。

 それはエナの銃とは、相性最悪だった。


「ひゃははは! そんな骨董品の雑魚で私に敵うと思うなぁ!!」


「――くっ! 誰も彼もこの銃を咎めてぇ……いい加減にしてほしいですわっ!!」


 事実、銃を扱える人間はいない。

 エナが特別なのだが、彼女はそれを知らない。

 当たり前のように使える。学習したから使える。


「おらよぉ!! アロウファメル!!」


 唱えられた炎の呪文。

 小さな無数の矢が、エナの銃を破壊する。


「くっ!?」


 丸腰になったエナは、その場にしゃがみ込み、魔法陣を描き始める。

 武器は銃だけではない。

 だが、それを悟らせてはならない。

 口撃で相手を翻弄する。


「――あなた、生前はデサイスのことを憎んでたのではなくて!?」


「当たり前でしょ!? ご主人様は家族にとって邪魔でしかなかった! 腐敗したぁ? 勇者としてなっていないぃ? こんな世界ではなぁ! んなことどうでもいいんだよ!! 金さえあればなあ! 愚民なんかどーでもいいのよ!!」


「なら何故、どうしてデサイスに従いますの!?」


「そんな愚かな私を! ご主人様は救ってくれたのよ! 両親はご主人様を正当に評価せず、自分はそれを見過ごしてきた。私の罪を償うには、一生仕えるしかないのよ!!」


「――支離滅裂ですわ。まるでお人形さんみたいですわね」


「な、何ですって!?」


「相手の都合の良い様に操られて、記憶まで改ざんされて……哀れな存在ですこと」


「ご主人様に対する不敬は許さない! 死ねぇ!!」


「――あら? だったら遅かったですわね」


「――っ!?」


 魔法陣が完成する。

 魔法を放つために描く魔法陣。

 加えて、もう一つの効果も存在する。

 それは、複数の呪文を組み合わせることが可能となること。

 分からず屋への対抗策は、自分の記憶する呪文を組み合わせて強力な魔法とするしかない。


「骨董品を扱える私が、魔法を知らないはずがないでしょう?」


 エナは強力な雷撃を放つ『グリフンドルエフト』と集中的な電撃を放つ『ロヴァクステレス』を融合させる。

 一点集中の超強力な雷魔法が、今ここに誕生する。


「ヴェクスハンデルト――」


 魔法陣の周囲で、電光が踊る。

 バチバチと不規則な青白い光がエナ周辺に出現する。


「――グリプロスス!!」


 エナが手をかざす。

 手のひらから発射された雷撃がティネスへと襲いかかる。

 反応できない。死体の判断力は鈍い。

 そもそも、雷の速度に追いつける者などいない。余程の手練れ以外を除けば。


 蒼き雷光に包まれ、ティネスが絶叫する。

 デサイスに殺された時と同じ断末魔。

 体中を駆け巡る雷撃。痛みを訴える脳。

 そして、雷に飲まれ、彼女は消滅した。

 デサイスの呪縛から、ようやく解き放たれたのだ。


「……くっ!」


 強力な魔法の反動で、エナは身動きできない。

 全身に電撃が走り、痺れが残る。


(まほーの、はんどー……ですの? うまく、かんがえ、わかんない)


 次の行動が、見えてこない。

 いつもなら冴える頭脳が、機能していない。

 立つことも、指一本動かすことも、難しい。

 エナの脳が、混乱に陥っている。


(まお、まおってだあれ? ともだち。しんぱい、だいじょーぶ、かな?)


 ティネスは倒した。だが、マオの下へは行けない。

 果たして、マオという少女は無事なのか。

 エナはそのことを考えながら、再び脳が働くのを待つしか出来なかった。

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