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36:ドラシア・ファイアハート

「ドラシアじゃ、ワシの名前は」


 マオたちを呼び止め、レイレイの学生証を渡したその女性は、自らをドラシア・ファイアハートと名乗った。

 ローブから覗かせる、赤みがかった髪が風になびく。

 そして、彼女は凛とした佇まいでマオたちを見据える。


「ドラシアさん……なんかカッコいい名前ですね!」


 マオは目を輝かせながら言う。

 その名前に、彼女なりのイメージを重ねているようだ。


「ドラゴンみたいな感じがするよね、マオちゃん」


 レイレイも同意する。

 彼女の瞳には、ドラシアへの好奇心が宿っている。


(ドラゴン? ハート? どこかで聞いたような……)


 エナの脳裏に、かすかな記憶が呼び起こされる。

 だが、それを言葉にすることはできない。

 ただ、目の前の女性を簡単に信用することはできないと、彼女の直感が告げていた。


「おぬしら、学生なんじゃな?」


 ドラシアが問いかける。

 その声には、何かを探るような響きが込められている。


「……ええ、そうですわ。それが何か?」


 エナは慎重に、しかし毅然とした口調で返す。

 ドラシアの目的が見えない以上、警戒を怠るわけにはいかない。


 ドラシアはエナの態度に気づいたのか、不敵に笑みを浮かべる。

 まるで、彼女の反応を面白がっているかのように。


「学生なら、少しは戦いの心得があるんじゃろ?」


「まあ……少しは」


 エナが曖昧に答える。

 確かに、彼女たちは学園で戦いの訓練を受けてきた。

 だが、本物の戦場を知るわけではない。


「だったら、ちょっとした頼み事を聞いてくれるかの」


 そう言って、ドラシアは一枚の紙を差し出す。

 マオがそれを受け取り、書かれた内容に目を通す。


「とある森でのう、小生意気なキツネ獣人がうろついておる。ちょっとばかし、懲らしめてやってほしいんじゃ」


「殺せ、というわけじゃないんですよね?」


 レイレイが確認するように尋ねる。

 彼女は、できれば戦いを避けたいと思っている。


「ああ、そうじゃ。ただのいたずら小僧だからの。じゃが、ワシが相手をしては、ついつい手が出てしまう。だから、おぬしらのような若い衆に任せたいんじゃ」


 ドラシアの説明に、マオたちは顔を見合わせる。

 どう返答すべきか、まだ結論は出ていない。


 その時、エナが口を開く。


「あいにくですが、即答はできませんわ。一度仲間と相談してから……」


「分かったよ、ドラシアさん! 明日、その森に行けばいいんだね!?」


 マオが勢いよく言う。

 彼女はすっかりドラシアを信用しているようだ。


「――ってマオさん!!」


 エナは驚いて声を上げる。

 マオの善意は時に危険を呼び寄せる。

 疑り深い自分とマオの行動を天秤にかけながらも、エナはツッコミを入れずにはいられなかった。


「判断が速すぎますわ! もっとよく考えるべきじゃありませんの!?」


「えー? だってドラシアさん、レイレイの学生証を拾ってくれたし、悪い人じゃなさそうだよ?」


「うん。私もそう思うな、エナちゃん」


 レイレイもマオに同意する。

 彼女もまた、ドラシアを信用しているようだ。


「う……ううぅ。でも、ヴァリアさんに相談してからでも遅くないと思いますわ」


 エナは必死に食い下がる。

 常識的に考えて、見ず知らずの人間の言葉を鵜呑みにするのは危険だ。


「……そうだね。ごめんなさい、ドラシアさん! 今夜みんなで相談して、明日の朝までに返事します。それでいいですか?」


 マオは一旦譲歩し、ドラシアに頭を下げる。

 彼女なりに、エナの意見を汲み取ったのだろう。


 ドラシアは笑みを浮かべ、快く了承する。


「かまわぬ。明日、その森に来てくれるなら嬉しいが、来なくてもよい。それはおぬしらの自由じゃ。じゃが――」


 そう言って、ドラシアはマオたちとすれ違う。

 その際、小さな声でつぶやくように告げた。


「聖樹村の場所……知りたいんじゃろ?」


「えっ?」


 レイレイが息を呑む。

 ドラシアに、聖樹村のことは話していない。

 それなのに、どうして彼女が……?


 振り返るマオたち。

 しかしドラシアの姿は、もうそこにはなかった。

 まるで、風に溶けるように消えてしまったかのように。


「ドラシアさん……いったい何者なの?」


 マオが眉をひそめる。

 ドラシアの知識に、彼女も疑問を抱いているようだ。

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