第1話『チュートリアルその① ステータスと召喚の下準備』
『AbyssGate』では一定周期で周辺の他部族や、モンスターの襲撃が発生する。そして、ゲームを始めて最初に経験する襲撃は、魔方陣を起動後、ゲーム時間の12時間後であった。
なぜ、ゲームスタートから12時間ではなく、魔方陣の起動から12時間後なのかは、ゲーム内の設定では、そこから漏れ出る魔力を感じ取った魔獣や、その他部族がその力を求めて集まってくるためだとされている。
「———という事です。」
ノエルは、この世界がゲームという説明を省いた、襲撃の説明を主に話し、洞窟の外へと目を向ける。
「・・・外の影の様子から、マスターが私を呼び出したのが、正午過ぎだとすると、深夜24時には何等かの襲撃が行われる可能性があります。
それまでに、魔方陣周りに防衛を強化しなければ、まぁ我々は死ぬでしょうね。」
「じゃ、じゃあ早く準備ししないと!」
焦ったようなその様子を、滑稽そうに見つめながら余裕に満ちた表情で、ノエルは彼へと向き直る。
「まぁ、そう慌てずに。言いましたよね?マスターの力があれば何でもできるって。今からその使い方をお教えしますから、力あるものとしてもう少しどっしりと、余裕をもって構えていてください」
「うっ、ごめん・・・」
その落ち着き払ったノエルの言葉に、彼は少々小恥ずかしい気持ちとなり頬が赤らんだ。
それを見、少し調子に乗り出したノエルはくすくすと楽し気な笑みをこぼし、彼の顔がさらに赤く染まる。
「わ、笑わないでくれよ、不安なんだ僕は!!」
「ふふ、いえ、すいません。あまりに面白、いえ、こんなことをやっている場合でないですね。マスターで遊ぶのはまた今度にしましょう。」
「ノエル‼」
怒ったように声を上げる彼にノエルは小さな愉悦を感じながら、それを押し殺すように、表情を整え向き直る。
「それでは、記念すべきチュートリアルのその①、始めていきましょうか」
「マスターは私を呼び出す時何をしたのか覚えていますか?」
「えっと、祭壇に手を置いて、何か来てくれって祈りを・・・」
「マスターが行ったのは、ダンジョンマスターの対象指定しない召喚方法です。これは、誰が呼び出されるかわからない代わりに、どんなものでも呼び出すことができるというもの。
もっと詳しく説明するなら・・・。
そうだ、マスター、もう一度ステータスを見せていただいても?」
「うんわかった。」
そういい、彼はノエルにも見えるように、彼女の後ろに立ちながらステータス画面を展開した。
種族:人族
LV:1
RANK:1
属性:▼人類 (中立)
〈進化不可:LV——〉〈英雄の卵:LV——〉
タイプ:ダンジョンマスター
HP:5/5
MP:4/5
筋力:2
耐久:2
器用:3
敏捷:2
魔力:2
精神:3
魅力:2
知力:4
【スキル】
〈召喚魔法『ダンジョンマスター』:LV1〉〈ダンジョンクリエイト:LV1〉〈〉
▼メンバー
・総数:2
・人間×1
・フェアリー種×1
・ノエル LV1 RANK1
「この際です、ステータスの説明も一緒にやってしまいましょうか。
種族:そのキャラクターの種族
LV:ユニットの強さ。最大は10で、11以上になるとLVは1に戻り、現在RANKが1つ上昇する。さらに種族が変わることもある。
RANK:ユニットの強さを表す。最大10
属性:ユニットの属性を表す。()外は小区分、()内は大区分。
HP:0になると死亡する。
MP:0になると気絶する。
筋力:白兵攻撃力、所持重量限界
耐久:ダメージの軽減、レジスト
器用:武器命中、アイテム作成
敏捷:回避、マップ移動速度
魔力:魔法攻撃力
精神:魔法防御力
魅力:交渉成功度
知力:研究速度、
と、まぁだいたいこんな感じですね。LVとRANKについては、結構ややこしいので、今はどちらも10に近い方が強い、って認識で大丈夫です。」
「僕らはどちらも、LV1・RANK1ってことだけど・・・」
「まぁクソ雑魚ってことですね」
「・・・あの前々から思ってたんだけどもしかして僕って結構弱い?」
(なんだ?HP3しかねぇ俺への当てつけかゴラ)
不安げに尋ねる彼に少し苛立ちながらも、笑顔を崩さないように言葉を返す。
「マスターは召喚した者たちの情報も見れますので下のメンバー一覧から私の情報を見ていただければわかると思いますが、RANK1なんてこんなものです。それに召喚師をステータスだけで判断することなんてできませんから」
(そもそも、RANK10でも基礎能力値はせいぜい30~60が関の山だし、基本的に能力値周りの数値は低く設定されてんだよなこのゲーム)
「・・・ステータスについては大体わかったけど、この属性の下にあるものと、スキルっていうのは。」
ノエルが自分を慰める為にそういったのだとでも思ったのだろうか、彼は少し渋い顔をしながら、『属性』と書かれた欄に指を差した。
「属性は、種族よりも大きな括りだと思ってください。そして隣の括弧はさらに属性をその性質から大きく3つに分類したものです。属性の分類は『善』『悪』『中立』とあり、基本的には『善』の属性と『悪』の属性の種族は仲が悪いです。『中立』はどちらとも仲良くなれますが、どちらからも嫌われる要素もあるという感じですね。」
「そういえば、ノエルの属性は何なのかな?」
「私の属性は・・・、『邪悪(悪)』ですね。マスターとも仲良くはなれます」
自身の属性を伝えることに若干抵抗を感じ、しかし、このまま黙っているわけにもいかない為、最後に微笑みながら苦し紛れに媚を売るノエル。
「うん、仲良くしていこうね。でも、あんまりノエルからは悪って感じはしないけど」
「あ、あくまでも、その種を全体としてみた時に、そういったものが多いという話ですのであまり気にするものでもありません。」
「なるほどね」
にこやかに微笑むノエルに彼は納得した様子でそうつぶやく。その様子にホッとしながらも、早い所話を切り上げたかったノエルは、次の説明へと移る。
「次はスキルですね。スキルには「属性スキル」と「技術スキル」があります。属性スキルは、属性下にあるやつです。基本的には先天的なその属性の特性のようなもので、成長することも増えることもありません。
逆に技術スキルは、後天的に得たスキルです。取得できる数はRANKによって決まっており、RANK1では3つのスキルを取得できます。」
「3つ?2つしかないけど」
「スキル欄に空の欄がありますよね?そこから好きなものを選ぶことができるのです。
それと技術スキルは使い続ければ成長し、効果が上がるのも特徴ですね」
彼はなるほどと頷きながら、自身のステータス欄にある空のスキル欄を指で押した。すると、別の画面が現れ様々なスキルがずらりと表示される。
「へぇ、わっ、なんかいっぱい出てきた‼どれがいいんだろ・・・」
「ちょ、まだスキルは決めないでください‼」
楽し気に指を動かし、スキルを確認していく彼をノエルが焦った様子で制止する。
「スキルは一度決めると変更ができないんです!!新しいスキルが欲しくなってもRANKが上がるまで新しいスキル枠は追加されません!!!慎重に選びましょ!!!!ね!!!!」
「わ、わかったよ、軽率だったごめん」
「・・・襲撃の事で焦っていらっしゃるのはわかります。でも、冷静に、今は一つ一つ覚えていってほしいのです」
ふう、と息をつき、ノエルは、足を軽く揺らし、ちらちらと洞窟の外へと目を向ける様子の彼を見る。
(落ち着かないな、襲撃の事で怯えてんのか?はぁ、じゃさっさとそっちの対策の話してやりますかねぇ)
「では、肝心の召喚魔法についての説明しますね。」
「おねがい」
ノエルは身を乗り出し、ステータス画面の下にある【スキル】欄を指さす。
「ここ、スキル欄に〈召喚魔法『ダンジョンマスター』〉というのがありますよね。それの詳細って確認できますか?」
「えっと、わ、なんか文字が出てきた。」
一緒に見ていたノエルにはそれを確認することはできなかったが、何やら彼にはスキルの詳細が見えているようだった。
(・・・スキルの詳細は自分でしか見えねぇのか。だが、ステータス画面自体は見える、この違いはなんだ?いや、今はそんな場合じゃないな)
「そこに『通常召喚』と『任意召喚』ってありますよね。通常召喚というのが先ほどマスターが私を呼んだ召喚方法です。」
「じゃあこの任意召喚は?」
彼は虚空を指差しながらそうノエルに聞いてくる。もちろん彼女には見えていないが、ノエルにそれを指摘することなく、質問に答えていく。
「それは既に召喚したことのある、種族のものを呼ぶ召喚法です。先ほど言っていた通り、ダンジョンマスターの召喚法は、ランダム要素が強く、安定感に欠けます。
その安定感を補うのがこの召喚法なわけです。」
少しドヤ顔になりながら、説明者という立ち位置に酔いしれるノエルの解説を聞き、彼はなるほどと頷き、ステータス画面をしまった。
「・・・マスター?」
突然の行動に、理解が追い付かないノエルは彼を見上げながら小首をかしげる。
「つまり、これを使えば、ノエルと同じレッサーイビルフェアリーを沢山呼べるってことか。じゃぁさっそく・・・」
「や、やめろぉぉぉ!!!!!」
今すぐにでも召喚を試そうと、祭壇へと歩き出した彼を、血相を変えたノエルが髪を思いっきり引っ張りながら制止する。
「いてててて‼な、なにを」
「馬鹿!!大馬鹿!!!!説明は最後まで聞けボケナス!!!!!!」
「ぼ、ぼけなす!?!?」
「良いですか‼私達はこれからここを拠点として活動するのです‼拠点とはすなわち家!!!家を作るのに必要なのは木を切ったり石を切り出したりする労働力!!!!自身と私の筋力を見てください、1と2ですよ!!!!最低値一歩手前とドベじゃないですか!!!!!それなのに私と同じものを呼んで、クソの役にも立たない奴らを増やしてどうするんですかこのおバカ!!!!」
「ご、ごめんなさい・・・」
「はぁ、はぁ、いえ、私も拠点作りに必要なことを言い忘れてましたし、ええ、わかってくれたのならいいですよ。はい。」
肺活量の多くない体で捲し立てたからか、想像以上の疲労で体を上下させているノエルは、息を整えながら、説明を再開する。
「ともかく、ともかくです‼これから、マスターはそういった作業をできるモノを召喚しなくてはなりません。最低でも筋力5以上のモノが欲しい所。」
「え、でも、さっき誰が召喚されるかはわからないって・・・」
「はい、1回の召喚にかかるMPは2。1時間にMPは最低1回復するので、現在のマスターのMPと合わせて襲撃までに行える召喚は7回。半分はできれば任意召喚で増やすのに使いたいので、4回までにその条件のものを引かなければなりません。」
「・・・もし呼べなかったら、どうなるの」
恐る恐るそう聞く主。その様子にノエルは内心では面白いものを見つけたとほくそ笑みながら、深刻な表情で話を続ける。
「・・・労働力もそうですが、高い筋力の相手が欲しいのは戦力としてもなのです。
筋力も耐久も低い私達では魔術は使えても近距離戦はできませんし、その魔術も今はスキルのレベルが低く、碌な攻撃魔法は覚えられません。
ですので最悪、全員で特攻することになりますね。召喚された者たちは皆死ぬかもしれませんが、運が良ければマスターは怪我をせずに済みます。」
「そんな・・・」
あっさりと、まるで当たり前の様に、自分たちの死を口にするノエルに対し、彼は引きつった顔を向ける。その呟きには、彼の不安であり、疑問の声でもあった。
なぜ、彼女はこうも軽々しく話せるのだろうか。死を恐れていないようには見えない。であれば、何か策が?いや、策なんてなくて実際はただの自棄か?そんな勘ぐりで、また、この世界に来てしまった事を嘆き始めた彼の思考は、彼女の一言で霧散した。
「大丈夫ですよ、あなたは私のマスターなんですから。」
(筋力が1や2しかねぇ俺らが少数派なだけで、5以上狙うってそこまで難しいことじゃねぇんだよ。大体7割ぐらいか?余裕余裕)
・・・策ではない。自棄でもない。そこにあったのは(確率への)信頼であった。
彼は、別段人の心が読めるわけではない。だが、ノエルの言動や態度に演技臭い部分があることには気が付いていた。
故に、その言葉か心から出たものであるのを見破るのに苦労はしなかった。それを知った彼は、無意識に拳を握りしめていた。
静かに目を閉じた後、彼は握りこんだ両手を開く。そして、その食い込んだ爪の後がくっきりと残っているその両手を、自身の頬を勢いよく叩きつけた。
「ま、マスター!?」
バシン!!と重い音が鳴り響く。
突然の行動に驚きの声を上げるノエルに彼はどこかスッキリとした顔で名前を呼んだ。
「ノエル」
「はい?」
「僕は君の信頼に答えられるように頑張るよ」
「え、あ、はい」
(え、どうした急に。てか頑張るも何も運だからなこれ)
「僕も覚悟を決めた。例え駄目だったとしても、いやもうそんなことは言わない、一緒に未来を掴もう!!」
(いや、本当になんなんだこいつ。自分の中で自己完結してよくわからないことになってないか?まぁ無駄に責任感とか感じて、縮こまるよりいいけど・・・)
キリリとした顔つきで、腕を前に突き出しそう宣言する彼に、ノエルは若干引きながらも表情を整え、祭壇を指差す。
「そうですね、では、始めましょうか。召喚。」
「ああ‼」
多少その謎の気迫に動揺しながらも、ノエルは彼と共に祭壇へと向かう。
黒い石製の祭壇には、金で書かれた幾何学的な文様が刻まれていた。彼は、その文様に水平になるように魔方陣のある方へと手を伸ばし、聞いたことのない呪文のようなものを唱え始める。
すると、周囲の空気が揺れ、つむじ風のようなものが微光を帯び始めた魔方陣を中心に吹き始める。
ノエルは祭壇の横に座り、緊張した面持ちで手を前に掲げる彼へと目を向ける。
(もし俺が召喚師だったら、こいつの立場だったら、この召喚ももっと楽しめたんだろうな)
一瞬そんなことを思いながらも、静かに首を振る。そして徐々に大きくなる魔方陣の光へと視線を移した。
次回‼次回ようやく召喚です‼
仲間が増えるよ‼やったねノエルちゃん‼
あ、それと、作中それぞれの登場人物が持つスキルのすべてを詳細に解説できるかわからないので、後書きでのキャラクターのステータス情報にて、軽いスキル解説を書いておきます。
(作中のキャラクターは自身のスキルの詳細を確認することができますが、ノエルは基本自分のスキルの事は全て知っているので、彼女視点だと確認なんてしてくれないんですよね)
てなわけで、今回はスキルの確認も含めて、ノエルとマスター情報を公開しておきます。ステータス自体は変わってないので興味が無ければ飛ばしていただいても大丈夫です。
名前:ノエル
種族:レッサーイビルフェアリー
属性:▼邪悪 (悪)
〈迫害対象:LV——〉〈善属性特攻:LV——〉
LV:1
RANK:1
HP:3
MP:10
筋力:1
耐久:1
器用:3
敏捷:2(+1)
魔力:4
精神:2
魅力:4
知力:4
【スキル】
〈飛翔:LV1〉〈妖精魔法:LV1〉
〈〉
スキル解説
〈飛翔〉…飛行状態となり高さ1以下の障害物の影響を受けない。敏捷の値をスキルLV×10%上昇させる。(下限1)
〈妖精魔法〉…LVに応じて呪文を覚える。
LV1:【迷い道】対象に混乱付与。対象は精神で抵抗を行う。
【微睡の誘い】対象に睡眠付与。対象は精神で抵抗を行う。
〈迫害対象〉…自身と属性の異なる相手との交渉難易度の上昇。
〈●●属性特攻〉…その属性を持つ対象に与えるあらゆるダメージに+(RANK)
種族:人族
LV:1
RANK:1
属性:▼人類 (中立)
〈進化不可:LV——〉〈英雄の卵:LV——〉
タイプ:ダンジョンマスター
HP:5
MP:5
筋力:2
耐久:2
器用:3
敏捷:2
魔力:2
精神:3
魅力:2
知力:4
【スキル】
〈召喚魔法『ダンジョンマスター』:LV1〉〈ダンジョンクリエイト:LV1〉〈〉
スキル解説
〈進化不可〉…RANKが上がる際、進化が発生しない。
〈英雄の卵〉…特定条件化で能力値が上昇する。
〈召喚魔法『ダンジョンマスター』〉…下僕を召喚することができる。このスキルは”召喚魔術”の研究でのみレベルが上昇する。
・通常召喚:召喚する対象はRANK1の物からランダムに決定する。
・任意召喚:既に召喚した事のある対象を任意で召喚する。
〈ダンジョンクリエイト〉…ダンジョンを作成する際に必要な魔法を使うことができる。このスキルは”ダンジョン研究”の研究でのみレベルが上昇する。
・魔力変換
・物質生成