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サポート妖精の保身術  作者: 鮭茶丸
第1章【チュートリアルは簡潔に】
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第11話『フォレストウルフ戦②』


 司令塔がいる。


 フォレストウルフがそのことに気が付いたのは、数分前、ウルフらが全滅した際の事であった。


 通路の先に立つ盾持ちスケルトン、そのサイドの2体、両サイドから強襲を仕掛けたフロッグ2体、逃げようとしたものを【麻痺】で足止めした姿の見えぬ1体。


 彼がここに来るまでに感じていた、召喚魔術使用時の魔力の波動は7回であり、洞窟内には最低8体は敵が存在しているはずである。にもかかわらず、ウルフらに対処していたのは6体。


 最初こそ、壁からの追撃を行ったものが残りの2体では無いかとも考えていた彼であったが、明らかに術師である召喚師が槍による攻撃を仕掛けたとは考えられない。となれば、確実に召喚師以外にもう一体、見えていないものがいるのは確実であった。


 そして、連携の取れた彼らの行動から、その存在は洞窟の奥にいるのではなく、確実に状況を把握できる位置にいることも理解した。実際は〈視界共有〉で把握している為近くにいる必要はなく、ノエルが通路の裏で待機していた本当の理由は〈妖精魔法〉を使用するためであったが、彼からすれば〈咆哮〉の範囲内に、司令塔がいるかどうかというものが最も重要なことであった。 


 ノエルはフォレストウルフが洞窟内の事情をどれほどまで把握しているかを知らない。最初の襲撃が、召喚時の魔力によって引き起こされるものであるというゲーム上の設定は知っていたが、それが召喚の度に起こり、それによりこちらの正確な人数まで把握されていたことを知らなかった。


 もし知っていたのなら、スケルトン部隊による壁からの強襲という手は取らなかっただろう。それは所見殺しの一発ネタであると同時に、左右のスケルトンが移動する所を隠すことで、正面で槍を構えていたもの達と、壁から槍を出したもの達が別であると錯覚させるためのものであったが、内情を知られている現状では唯の脆い壁以外の何物でもない。


 ノエルがその事実を知ることは決して無いが、もし彼女が初めからそのことに気が付いていれば、例え〈咆哮〉を喰らったとしても頑丈な左右の壁が邪魔をし、ノエルが狙われることは無く、代わりに妨害の厄介さからアインが狙われていただろう。


 フォレストウルフはウルフらの特攻により、ノエルらの戦力をほぼ完璧に把握していた。故に最も重要なことが、指揮をしている頭と妨害を行っている者を素早く処理できれば、あとは力技でどうとでもなると理解していたのだ。


 考えがまとまった彼は、洞窟の通路へと駆け出した。


 槍を構えられていることは知っていたが、何よりも素早く彼らを守るように動かれる方が厄介と判断し、ステータスの上がる森の中から勢いをつけ、ノエルが反応出来ない程の速度で槍衾へと突っ込み、最高戦力を一時離脱させた。


 そして、追撃が来ると同時に、通路一帯全てを巻き込む位置まで下がり、〈咆哮〉。アイン、ガマ吉、ガマAが落ちたことを確認し、槍を刺した後の脆い壁を割り、その小さな指揮官へと辿り着いたのだ。




———



「グルル‼」


 嬉しそうに鳴き声を上げるフォレストウルフの姿を、ノエルは地面に這いつくばりながら眼球だけを動かし見上げている。


(・・・スケルトン部隊以外はおそらく全員レジスト失敗して【麻痺】で動けない上、スキルも使用不可。【麻痺】が解けるのに数十秒、敏捷1のスケルトンがこちらのカバーに入るのに十秒程・・・いやそういや直前に通路を塞げって指示出してたな、こりゃ間に合わない。ああ、詰んだか)


 危機的状況であるにも関わらず、嫌に冷静に状況が頭に入ってくる。それは彼女がこの世界を未だにゲーム感覚で楽しんでいたためか、それとも生来の諦めやすい性格の為か。


 死を受けれたと言わんばかりに目を閉じ俯くノエルに対し、フォレストウルフは前脚を振り上げその鋭い爪をノエルへと向ける。


 静かに眼を閉じ今世の終わり受け入れようとした、瞬間何かがノエルの目の前を横切った。


「・・・え?」


 驚きに顔を上げた彼女の目に飛び込んできたのは、フォレストウルフの巨大な胴と脚の隙間から、大きく、痰の絡んだようなくぐもった雄叫びを上げ、ぬめり化のあるその茶色いまだら模様の皮膚を震わせながら、まるでノエルを守るかのように飛び出してきたガマ吉の姿だった。


「ゲゴォォォォォォォ‼」


「グル!?」


 ノエルらの間に割って入ってきたガマ吉は、空中で身をひるがえし、手に持っていた石斧をフォレストウルフの顔面へと投擲する。無茶な体制から放たれた石斧はフォレストウルフに当たることは無く、その奥の壁に当たり軽い音を立て地面へ落ちる。しかし、ガマ吉の急襲に驚き、身をのけ反らせたフォレストウルフの前脚は、ガマ吉の目論見通り、ノエルには当たらず、その手前を飛んでいた、ガマ吉への腹部へと突き刺さった。肉に食い込んだ爪はそのつるりとした肌を、まるで水の入った袋を破くかのように引き裂き、真っ赤な鮮血をまき散らす。


 どさりと音を立てて、地面にたたき落とされたガマ吉は腹から夥しい程の血を流しながら、弱弱しくも、決意に満ちた瞳でノエルに笑いかける。ガマ吉の容体は息はあるものの深すぎる傷に凄まじい出血が対処が遅れれば命に係わるものであることは明白であった。ノエルは痺れた体で必死にガマ吉の方へ手を伸ばそうと、その痙攣しろくに動かない腕に力を入れる。


(レジスト確率は俺ら耐久1組でも三割はあった。なら、レジストしたやつが一人は出てもおかしくは無いとは思ってたが、こいつ〈咆哮〉をくらったふりをして機会をうかがっていたのか・・・)


「お、まえって、やつッは・・・‼」


「グ、ゲゲ・・・」


 顔を伏しそうつぶやいたノエルにガマ吉は息も絶え絶えながら、脂汗だらけの笑みを浮かべる。


 ガマ吉は済んだ瞳でノエルを見つめる。彼はノエルが嫌いだった訳ではない、だがその態度を崩すことが怖かった。片や邪悪な妖精、気を許せば何をしでかすかわからない。片や初対面で自身を丸吞みにした化物、気を許せるはずもない。最悪のファーストコンタクト、種族の違い、さらにはノエルの特性もあり、言い争いの絶えなかった二人。だが、この瞬間、最後の最後でわかり合えたのだと、ガマ吉はそう思ったのだ。


「う、ひひひ・・・」


「・・・ゲゴ?」


 そんなことを考えていたガマ吉の耳に怪しい笑い声のようなものが聞こえた。何事かとノエルの方を見ると、伏せた顔の奥で口角を吊り上げ、赤い双眸を爛々と輝かせ笑う、ノエルの姿であった。


「ゲゴ?ゲゲゴ!?」


 何を考えているか、困惑と絶妙に裏切られたような感覚を覚え声を上げたガマ吉を無視するように、ガバリッと震える腕で体を起こしたノエルはその小さな口を大きく広げ、狂ったように笑い出した。


「あ、はは、は、ぁはッあ‼ゲホッ、ゴッ、ふふひひひひひ」


「ゲ、ゲゴォ!?!?」


「よぐ、やっだぞ・・・、クゾガエル!!!!テメェはぎょうがら、肉壁、グそガエルに格上げじてやる!!!!!イヒヒヒヒ!!!!!」


 悪魔のような形相からでたクソのような言葉の羅列に、流石のガマ吉もコレとわかり合えたと思ったことがそもそもの間違えであったことに気が付き、力なく目を覆う。


「ゲゴおぉぉぉおぉぉ」


「なんて、声、上げてんだ。嘆く、暇があんなら、ちょっとでも助かるようにッ、祈っとけ‼」

 

 情けなく声を上げる何かに嘆くガマ吉に対し、不敵な笑みを浮かべながらノエルは、ガマ吉の後ろから迫る巨体を見やる。


「グルルルゥ・・・!!!!」


 フォレストウルフは顔を激しく振り、ガマ吉を怒りに満ちた瞳で睨みつける。彼は自身の考え決断した行動でノエルの作った策を粉砕し、彼女の前に立ち、その命を奪う瞬間まで行ったのだ。


 防衛陣地を指揮する指揮官に力だけではなく頭脳で勝ったのだと。その自負こそ、この戦いにおいて最も自信が誇れる戦果であると、彼は考えていた。だと言うのに、その最後の一撃をこのちっぽけなフロッグに水を差されてしまった。そのことが心の底から許せなかった。


 ギシギシと歯を軋らせながら目の前に横たわるフロッグを見つめる。今すぐにでもこの死にぞこないにとどめを刺してしまいたい欲求にかられる。だがそんな、事よりもと、あの一瞬から不気味な笑い声を響かせ始めたフェアリーの事が気掛かりであった。


 恐怖に狂ったのか?そんな考えを抱きながらも、そのフェアリーを睨みつけようとし、目が合った。


 だらだらと血を流し倒れる味方を前に、ケタケタと気味の悪い笑みを浮かべ、こちらを見つめるその姿。同情と愉悦の浮かぶその視線はとても、恐怖におかしくなったようには見えなかった。むしろ、哀れな獣をあざ笑うかのようであった。


 ゾクりとフォレストウルフは背筋が凍えるような感覚を覚えた。


「ッ、グルアァ‼」


 早く殺さなくては‼


 瞬間的に見をかがませ後ろ足に力を籠めノエルへと飛び掛かる。


 ノエルのその姿に、フォレストウルフは不気味がるより早く、このものが何かしたのだと気が付いたのだ。あの一瞬、フロッグが倒れたその一瞬で何を仕込んだのかはわからない。ただ、漠然とこのままでは危険だと、悟ったフォレストウルフは、即座に未だ回復しないノエルを、その鋭利な爪でもって細切れにせんと飛び掛る。


 そんな中でもゾクりゾクりと嫌な感覚が消えることは無い。今まで何度も味わってきた感覚。敗北の予兆のようなものを感じながら、そんなものは出鱈目であると、自身を奮い立たせるため、いや、足が竦む前に行動を起こしたのだ。

 

 勝っているはずだ、負けていないはずだ、たった数十センチ先、あと数十センチ先にある奴を引き裂ければこの感覚だって・・・。まだだ、まだ、まだ・・・‼


 地面を削るように蹴り、その速度と巨体で持って振り下ろされる凶爪を前に、ノエルは静かに笑う。


「もう、おせぇよ、何もかも」


 フォレストウルフの放った一撃は、彼の正面からその脳天めがけて迫ってきた一本の槍により阻まれた。



投稿再開します。待たせてしまった方々、申し訳ございませんでした。

これからも不定期にはなると思いますが、少しずつ書いていこうと思いますので、ノエルと愉快な仲間達の物語をどうかよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] よくあるゲームの世界の転生のお話だけど、主人公ではなくサポート妖精に転生してそばから補助していく。これはテンプレから外れて面白いです。 続き楽しみです。
[一言] がんば
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