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サポート妖精の保身術  作者: 鮭茶丸
第1章【チュートリアルは簡潔に】
13/14

第10話『フォレストウルフ戦①』


「ノエル!」


 各人への指示を終え、自身の持ち場へと戻ろうとしたその時、ノエルは洞窟奥から聞こえてきたその声に引き留められる。


「マスター、取り巻き連中は倒しましたが、外にまだ本命が残っています。危ないので奥にいてください」 


 ノエルは振り向くと、こちらまで歩いて来ようとしている主の姿を見て呆れたようにそう言った。それに対し彼は、通路を塞ぐように盾を構えているスケさんへと合図を送ったのち、彼女の警告を無視するようにそのまま近づいてくる。


「・・・マスター」


「わかってるよ。でも、被害の確認くらいはしておきたくてね。それにこの状況でフォレストウルフが逃げ出してない理由についても、少し話したいなって」


 彼の口から出たことはノエルにとっても、気になる所であった。既にウルフらの攻撃により、仕掛けを理解されているのはわかっている。それでもなお撤退が無いという事は策があるか、自棄かのどちらか。


「そうですね、情報共有くらいはしておいた方がいいかもしれません」


 思考の後、彼女はそう答えた。それはノエル自身に何かがあった時の為、彼らに指示を出せる彼が最良の選択をできるようにと言う考えがあったからだ。


(・・・?)


 ノエルはその思考に妙な違和感を覚えながらも、適当な棒を拾い上げ、先の戦闘での損害をまとめていく。


「今回の戦闘での主な被害は、壁4か所に穴が開いたのとガマ吉とガマAが軽傷を負った程度です。壁につきましては初めから壊れることが前提で作られているため、ある意味想定通りです」


「ガマA?」


「マスターが名前を決めないので適当にそう呼んでます。ちなみにスケさんの両隣の彼らはスケAとスケBです」


「すごい適当だ・・・」


「貴方が決めないからこうなってんですよ?」


「ご、ごめんね」


「ともかくとして、幸いどちらもダメージは軽微です。HPでいうと、ガマ吉は6/7。ガマAは5/7といった所、今直ぐフォレストウルフが攻めてきてもまぁ大丈夫でしょう」


「槍で貫く用の壁は修理しなくていいの?穴開いちゃったけど」


「元々他の壁よりも脆い上に、穴まで開いてるので、本当は修理はしたいのですが、流石に敵がいる状態でやるのは危険ですよ」


「そういえばスケさんは怪我してなかったの?正面から受けてたけど」


「なんとびっくり無傷でした」


「す、すごい」


「流石の耐久6。しっかり盾で受けていたというのもありますが、正直盾が無くともウルフ程度の攻撃ならいくらでも受けれる耐久とHPを持っていますからね」


「頼もしいね。それでなんだけど、ノエル的にはあのフォレストウルフ、どう動くと思う?」


 ノエルはちらりと通路の方を見る。アインの視界では、外の様子は見えない為、フォレストウルフの様子はつかめない。そのため、スケさんの様子からフォレストウルフの状態を読み取ろうとしたが、やはり動きは無いようだった。


 攻めるわけでも引くわけでもない、ただそこでじっとこちらを見つめている。不気味なその様子に渋い顔をしながらも、ノエルは主の方へと視線を戻す。


「・・・攻めてくる、はずです」


「根拠は?」


(ゲームではそうだったとは流石に言えねぇよな、どうするか)


 そう考えながら、ノエルは頭を捻る。彼女は極力彼に、ゲーム時代の事や自身が同じ転生者であることを知られたくはなかった。それは、ここがゲームの世界であることを話した場合、ただでさえこの世界に否定的な彼に、ここが現実ではないという考えを抱かせてしまう可能性を思ってのことであった。


 そうなった場合、ノエルたちは生きた人間ではなく、夢か妄想の産物のようなものとして扱われる。それこそ、ゲーム時代のユニットのようにどうでもいいものとして使い捨てられる、ノエルはその可能性を何よりも恐れていた。


 思考の後、ノエルは顔を上げつい数秒前に思いついた襲撃の根拠を口にした。


「・・・一番の理由は現状向こうの方が不利であり、これ以上有利になることが無いことが確定しているからです。この襲撃自体、召喚魔術を使用する際の魔力に反応してきています。彼らが召喚魔術のことを知っているかどうかはわかりません。しかし、もし知っていた場合、時間をかけることこそ一番の愚行であると理解しているはず。なら、配下を失ったにせよこちらの手の内の割れている今攻めるのが、彼にとって最も確率の高い勝ち筋なはずです」


 ノエルの話を静かに聞いていた彼は、顎に手を当て何かを考えるように頭をひねり、ノエルを見つめた。


「あの、マスター?なにか」


 そのあまりに不審な行動にノエルも不安を感じ、彼に話しかける。それに対し、彼は何かを決心したように真っすぐとノエルを見つめると口を開いた。


「・・・ノエル1つ聞きたいことが」


「カラン‼」


 彼が何かを言おうとした瞬間、バンバンとスケさんが自分の持っている盾を叩き音を鳴らした。それは、彼らの間で決めていた襲撃の合図であった。


「ノエル‼」


「わかってます‼」


 そういうとノエルは話を中断し、急いで自身の持ち場へと飛んでいく。彼女の持ち場である、右通路裏では既に持ち場についていたガマ吉が、不機嫌そうに飛んでくるノエルの方を見ていた。


「ゲゴ・・・」


「・・・こっちは貴方のような暇人と違って色々あるんですよ」


 軽口をたたき合いながらもお互い真剣な表情で、フォレストウルフの襲撃に備える。いつでも跳べるように姿勢を低くするガマ吉を見ながら、警戒の為通路の壁よりも高く飛び上がったノエルは、


「奴が何やってるのかはここからじゃわかりませんね、アイン配置をか、え?」 


 一瞬であった。洞窟内に暴風が吹きこみ、彼女の視界に薄茶色の何かが映ったと思った瞬間、バゴンッという音と共に、フォレストウルフの凶爪を受けたスケさんの体は宙に投げ出された。


 持っていた盾は引き裂かれ、肋骨が何本か共にバラバラと地面へと散らばり、彼自身も長い滞空の後、ガシャンと大きな音を立てて地面にたたきつけられた。


「グルギアァァァァ‼」


 両肩と鎖骨の下辺りを深く突き刺され血を流すフォレストウルフ、その悲鳴のような声にノエルはハッと真っ白になった思考から抜け出し、急いで周囲を確認する。


「す、スケA・B、早く通路を塞げ‼死んでも通すな‼アインは〈魔眼〉‼ガマ部隊〈跳躍〉‼」


「げ、ゲゴ‼」


 スケA・Bが上手く、自分たちの体で通路を塞いだことを確認したノエルは急いでフォレストウルフとスケさんに〈識別〉を使用する。


スケさん

HP:9/12


フォレストウルフ

HP:16/20


(とりあえずスケさんは生きていてる。それどころか、あの2人と一緒にしっかり槍まで当てていたみたいだ。だが、AとBが盾を持っていない以上、あまり長く持たない。早く状態異常を決めないと・・・)


 そう考えノエルは、〈妖精魔法〉を放とうとフォレストウルフの方を向き、目が合った。フォレストウルフはお目当ての相手を見つけたというように、ニィと笑うと大きく息を吸い込んだ。


「アオォォォォォン‼」


 圧倒的な威圧感を孕んだ遠吠えが洞窟内に響き渡った瞬間、ノエルは自分の体から力が抜けていくの感じた。そしてそのまま、通路の裏へと落ちていく。視界を共有しているアインも、どうやら様子は同じようであり地面に叩きつけられ、痙攣していた。


「グは‼ア、がァ・・・‼」


(これは、〈咆哮〉による麻痺か‼やられた‼ガマ吉達も空中で喰らったせいで、態勢を整えらず落ちてる‼まずい、本当にまずい‼)


 地面に這いつくばり、呼吸する度に土埃を吸い込みながらも、ノエルはアインの視界を駆使しフォレストウルフの姿を追っていた。


(〈麻痺〉は不死属性には効かない。故に今スケA・Bがいる前線を突破されるのにはまだ時間がかかる。それで十分俺らの〈麻痺〉は解除されるはずだ。解除された瞬間〈妖精魔法〉と〈魔眼〉をぶち込んで動けなくなったところを全員でタコ殴りにしてやる‼)


 だが、フォレストウルフはノエルの思考とは裏腹に、目の前のスケルトンを排除し通路を奥へ進もうとはしなかった。フォレストウルフはそのまま素早く後ろへ下がると、槍を突き刺した壁の穴にその鋭い爪を突っ込みそのまま、勢いよくその腕を振った。


(・・・おい嘘だろ)


 ノエルはその様子を、アインの視界ではなく自らの目で見上げていた。目の前でバキバキと音を立てながら引き裂かれる壁、その奥で笑う巨大な狼は今しがた作り上げた穴をその巨大な体で広げながら、ノエルの元へと辿り着いた。

 投稿間隔が開いてしまい申し訳ございません。

 次回は一応月曜に投稿できればとは考えていますが、もしかするとまた少し開いてしまうかもしれません。本当に申し訳ない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さんの想定を超え、麻痺した後にもノエルとアインは視界共有が続いていて、実はスキルは封じられていなかった。 やはりフォレストウルフさんに勝ち目は無かった(・∀・) ↓麻痺した後にノエル…
[良い点] フォレストウルフさん意外と健闘中 ∑(ºωº`*) でも麻痺していてもノエルの視界からアインの魔眼は受けるだろうし、 壁に突っ込んだら後ろからスケさん達に尻と後ろ足をぶっ刺されるわけで。 …
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