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サポート妖精の保身術  作者: 鮭茶丸
第1章【チュートリアルは簡潔に】
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第8話『開戦準備』

 狼の一団は崖を下り、森を走る。決して迷うことは無い、周期的に召喚によって発される魔力の揺らぎが、ノエル達がいる洞窟への道しるべとなっていた。

 

 群れの中一際大きい狼が感じていたのは不安であった。


 彼はRANK1のウルフしかいない小さな群れで生まれ、誰よりも早く狩りを覚え、若くして群れのボスになった。もし、彼がこれ程早く群れのボスにならなければ、その群れが彼が行った狩りの失敗で小鬼に襲われ壊滅した際、他の者に囮を指示し彼だけが運よく逃げ延びるということは無かっただろう。


 彼はこれを幸運だと感じていた。絶望的な状況で、部下を犠牲にするだけで生き残ることができ、なおかつLVも上げることができた。それは紛れもなく運命であると。


 その後地道な狩りを続けたことでフォレストウルフへと進化を果たした。戦うことを避け、手負いの相手を限界まで追い回して殺す。そんな狩りを続けていたある時、彼は手負いのウルフの群れを見つけた。


 彼は自分は神に愛されている、そう感じていた。


 彼はその群れのボスを殺し、群れを乗っ取ったのだ。それが今彼の後ろを走るウルフらである。彼の生涯は順風満帆というには荒れた航海であったが、それでも自らにもたらされる幸運こそが彼の自信であった。故に自分というものが見えていなかったのだ。この大森林において、いやこの世界において自分がどれほどちっぽけな存在であるかを。


 森林の奥地、より高濃度の魔力が渦巻く楽園を進化を果たし群れを得た彼は目指した。それは彼が自分で選んだ選択であった。自分ならできると確信しながらも、信じているのは自身ではなく、己を取り巻く幸運、それに縋った選択であった。


 そしてその自信は過酷な森林深部に蔓延る巨人や森人の群れにより打ち砕かれ、森に居場所を見いだせず、外へと進出した先で出会った、武装した人族の集団によってさらに粉々にされた。今彼らが生きているのはただの幸運だ。あまりに出来過ぎた幸運の連続により彼らは生かされた。その時彼は思ったのだ、自身の未来は運命によって決められていると。


 彼の生涯において挑戦による成功など何一つない。最初の群れも彼が小鬼を狩ろうと手を出さなければ壊滅することは無かった。深部への探索も、外への逃亡も、彼がそう選択しなければこれ程惨めな思いをせずには済んだ。自身の意志で行動することに意味は無い。むしろ大きな代償を払うことになりかねない。それが彼が、森林の浅い所を縄張りとし、深部探索から生き残った最低限の群れを率いながら静かに暮らしていた理由であった。


 彼は強い不安を感じていた。この行動は彼が力を求めて自らの意志で起こした行動だ。頭によぎるのは、小鬼との闘いか、あるいは巨人の拳か、森人の弓か、人族の剣か、決定的な場面で敗北し続けてきた彼が今後の戦いで勝利を想像できないのは仕方のないことである。


「グルルォ・・・」


 だが、それでも彼の足は止まらない。もし、勝つことができれば絶対的な力が手に入る。その力さえあれば、運命に対抗することができるのかもしれない。


 これは運命への反逆だ。自分を縛り付ける何かに対する宣戦布告だ。


「ワオォォぉォぉォぉォン‼」


 不安をかき消すようにその狼は大きく口を開き、徐々に下に降りていく太陽を背に、遠吠えを響かせた。


 彼らは走る。洞窟にいる召喚師への最初の襲撃者として。




 —————————————————————————————————————




 日が沈み、完全な闇に閉ざされた森の一角。切り株と、積み上げられた丸太が散見される洞窟の前を手に持ったたいまつで照らしながら、彼らは立っていた。


「何とか、間に合いましたね」

 

「うん、そうだね」


 ノエルらの目の前には、木の板を組み合わせて作られた壁により狭められた洞窟の入り口から、一直線に木製の壁に囲まれた通路が見えている。また、壁は天井までは伸びておらず、その上部は50cm程の隙間が作られており、そこから内部のたいまつの灯りが覗いている。


「とはいえ、本当は罠や柵なんかも欲しかったのですが・・・」


「仕方ないよ。最初の目測よりも進行が速かったんだから」


 名残惜しそうにつぶやいたノエルに彼は苦笑しながら、アインからの報告を思い出していた。空から彼らを監視していたアインは、彼らが最初にアインとノエルが想定していた迂回ルートを外れ、別のルートを通り、こちらに詰めてきていることに気が付き、ノエル経由で情報を拠点へと伝えていた。


「やっぱり、アインを偵察に出しておいて正解でした。もし、偵察に出さずにこちらの作業を手伝ってもらっていたら、いくつかの罠程度は作れたでしょうが、襲撃のタイミングが分からなかったかもしれません。」


「もしそうなったら、皆配置につくのが遅れて、この通路も突破されて、作戦も何もなくってたかもね」


「本当にお手柄ですよマスター。貴方の意見が無ければ私はアインにも陣地作りに参加させてましたから」


「ありがと。っと、噂をすればって奴かな」


 そう言い、彼がたいまつを頭の上に掲げると、何かの羽音が近づいてくるのが分かる。丸っこい胴体に大きな目玉をしたそれは、月光により瞳を輝かせながら彼らの元へと降りてきた。


[パタパタ‼]


「おかえりアイン」


「アインも帰ってきたことですし、もう中に戻りましょう。皆を配置につかせないと」


「そうだね、もうすぐ始まるんだ。僕らの戦いが」


 彼はそういうと、ノエルとアインを連れ洞窟の中へと戻ってく。通路を抜けた先、訓練用に作られたボロボロの案山子とそれに対し必死に手に持った槍の練習に励む、3体のレッサースケルトンは主の帰りを察し、手を止め、彼の元へと走って来る。


「カラン」


「もうそろそろ、敵が到着するようだからスケさん達も配置について」


「カラン‼」


「「・・・‼」」


 それを聞きスケさんが敬礼のポーズを取り大きな木の盾と槍を手に、通路の前まで歩いていく。すると、後ろにいたスケルトンも同様に敬礼のポーズを取り、彼に続いた。


「・・・そういえばマスターはなんで、彼らに名前を付けないので?スケさんは自分で拒否したからなのはわかりますけどほかの面々は違いますよね?」


「えっと、なんていうか。彼らには必要ないって思ったんだよね」


「確かに少し機械的と言いますか、意志というものは感じませんが・・・」


 口元に手をやり不思議そうに眉をひそめるノエルに対し、「深い理由はないから」と彼は愛想笑いを向ける。


(通常の召喚と、対象を指定した召喚。スケさんとあいつらの違いはそれだけ。後でちゃんと確認してみるか。どうせ任意召喚なんて今後死ぬほど見ることになるんだから)


 そう考えると、ノエルは思考を切り上げアインの方を向く。


「あ、そうだアイン。〈視界共有〉のレベルが上がってましたね」


[パタパタ‼]


「〈視界共有〉はレベルが上がっても効果の対象を一人増やせるだけなのであまり変化はないと思いますが、何か違和感があったら教えてください」


[パタパタ]


 アインは、わかったと言うように、羽を羽ばたかせ、身体を上下にゆすった。それを見ていた彼は少し考えた素振りを見せたのちアインの方を向く。


「・・・アイン、僕にも〈視界共有〉をかけていてくれないか?」


[パタパタ?]


「マスター?」


「今回の戦いにおいて最も戦況を確認しやすいのがアインだ。僕は、一応ここのリーダーだから、現状の把握ぐらいはできてないと」


「でも、マスター〈視界共有〉で酔ってましたよね?大丈夫ですか」


「少しなら我慢できるよ」


「・・・あまり気負わないでください。マスターの仕事は召喚、戦闘は私達従僕の仕事です」


「でも後ろでふんぞり返ってるだけなのも嫌だから」


(〈視界共有〉したところで後ろでふんぞり返ってるだけなのは変わんねぇだろが・・・。まぁいざって時の為にも、状況把握できるやつは多い方がいいってのは確かだがな)


 そんなことを考え、やれやれといった顔をしながら、ノエルは彼の方を向いた。


「マスターがそういうのであれば、私は構いませんよ。有事の際、私以外にも指示を出してくれる方がいるというのは助かりますし」


「あはは、まぁ本当は僕が指示出さなきゃいけないのはわかってるけど」


「それはこれから学んでいってください。誰も今のマスターにそこまで求めていませんよ」


「・・・精進します」


(とはいえ、俺の知識もゲームでのもの。実際の殺し合いであるこの状況でどれだけ通用するかはわからん)


 ゲームと違い、危なくなったら時間を止めて考えることも、三人称視点で平面的に状況を確認することができない以上、何が起きているのかを素早く察知し即座に指令を飛ばさなければならない、自身の立場に不安を感じる。しかし、それ以上に一人称視点で立体的に行われる『AbyssGate』の防衛戦というものにノエルは心を躍らせていた。


「ふふふ・・・」 


「ゲゴ・・・」


 怪しげな笑みをこぼしていたノエルに対し、いつの間にかやってきていたガマ吉が声をかけた。


「・・・今は気分が良いので貴方の暴言ぐらい水に流してやりますよ。それよりさっさと持ち場にいったらどうですかクソガエル」


「ゲゴォ」


「”お前を迎えに来た”ってああハイハイ、そういや配置場所同じでしたねクソが。全く、なんでもう一匹の方じゃなくてガマ吉と一緒なんですかねぇマスター」


 そう言うとノエルはジト目で自身とガマ吉の配置位置を召喚主権限で被らせた張本人を見る。


「いや、一緒の戦場に居れば仲良くなれるかなぁ・・・なんて」


「ゲゴォ・・・」


「・・・ガマ吉、初めて貴方と意見が一致したきがします」


「あはは・・・」


「はぁ、もう配置につきますから。マスターは祭壇のところまで下がっていてくださいね」


「いざって時に援軍を呼べるようにだね。わかった」


「そういう事です、じゃガマ吉、アイン行きますよ」


「ゲゴ」


[パタパタ]


 ノエルはそう言うと、彼らを連れて、通路と洞窟の壁の間にできた空間に入った。そしてアインだけは上部に開いた隙間から、通路の壁を越え、飛び回り始める。


「アインは遊んでないで通路の終端部分にいてください。そこが一番良く見えるはずですから。それとガマ吉達も、タイミングはこちらから指示します。頼みますよ」


「ゲゴぉ・・・」


 ノエルの言葉を聞き明らかに嫌そうに声を上げるガマ吉に対し、ノエルはため息をつきながらも理解はできるといった面持ちで彼を見る。 


「はぁ、嫌なのはわかりますが、スケさんに比べりゃ安全な仕事なんですから我慢してください」


「ゲゴォ‼」


「”それはそうだが、テメェが一番安全な立ち位置なのが気に入らない”って当たり前でしょう。私とアインは、ウルフ連中の攻撃掠っただけで死ぬんですよ?前に出れるわけないじゃないですか頭足りてます?」


「ゲガァァ‼」


 怒りに身を任せ、全力でノエルにとびかかったガマ吉だったが、それなりに高く飛んでいた彼女には当たることは無く、そのまま地面に着地する。


「ハッ、地上で跳ねてるだけじゃ私には届きませんよ~だ‼」


 煽られたガマ吉が、もう一度渾身の力で彼女にとびかかろうとしたその時、そう遠くない距離から狼の遠吠えが響いてくるのが聞こえた。瞬間、彼らは動きを止め、真剣な瞳で洞窟の入り口の方を向く。


「・・・ッチ」


「貴方舌打ちとかできたんですね。まぁ遊んでる場合じゃなくなったのは確かにそうですね」


「ゲゴ・・・」


「ええ、来ますよ。皆さん‼敵はすぐそこまで来ています‼気を抜かず迎撃準備を‼」


 ノエルは、大きな声でそう叫ぶと、震える拳を握りしめながら、不安と興奮がない交ぜとなったような表情で静かにつぶやいた。


「始まる、俺の『AbyssGate』が・・・」

 どうにか今日中に投稿できました・・・。

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