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第1話『冴えない男の冴えない末路』

初投稿です。よろしくお願いいたします。

 ダンジョン経営シュミレーションRPG『AbyssGate』。


 プレイヤーは魔物を使役する召喚師となり、多くの下僕を引き連れ世界を我が物とするために戦う。


 拠点を広げ、下僕を配置し、敵を迎え撃つダンジョンを作成し、人を誘い込むも良し。あるいは、下僕を増やし、他の地域を占領するも良し。交易で成り上がっても良し。


 一応のゲームのクリア条件として『世界征服』というものはあるが、一定の期間内に完了する必要がある目標ではなく、エンディングを迎えることなくプレイヤーは自身の気の赴くままに箱庭を作り上げることも可能。


 インディーゲームであり、そのゲームジャンルも相まって大人気ゲームとなることは決して無かったが、コアな人気のあるゲームであり、多くの愛好家が世界中に存在する。


 そして彼もこのゲームの愛好家の一人であった。


「あっ、え、はぁ‼・・・いや、まだ、まだこっから、いやもうこれ詰んでんだろぉ‼」


 暗い部屋の中、液晶からあふれる青白い光を凝視しながら、無精ひげを蓄えた男は目を見開き激高していた。


 画面の中では、数多の異形が生み出されては、白銀の鎧を身に纏った騎士に倒されていく様子が映し出されている。それを食い止めるため、男は目を血走らせながら必死にパソコンのカーソルを動かし、〈召喚〉と書かれたコマンドを連打する。


 カチカチと暗い部屋に激しく響くマウスを叩く音と共に、画面内では粗いドット絵の怪物たちが魔方陣から湧き出し、魔方陣の横に立つ主を守るように、狭い通路を通りながら次々と騎士の元に押し寄せる。


 しかし、それにより生みだされる異形の数よりも敵により切り倒されていく異形の数の方がはるかに早く、騎士はあっけなく召喚を続けていたプレイヤーの分身である召喚師の元へたどり着いた。


「あーもうむりだ、ふざけんなよマジでぇ‼」


 男は叫びながら手元のキーボードに拳を振り下ろす。バンッという音共に激しく揺れたディプレイは、騎士が召喚師に近づいた瞬間、無抵抗となった召喚師から赤いダメージエフェクトが上がり、画面が暗転する。男はそれから目をそらすように、身体を背もたれ一杯に倒し、ため息をこぼした。


 画面に映しだされる赤い【GAME OVER】の文字。プレイヤーキャラクターが死亡するとセーブデータも削除される仕様も相まって、この文字を見ると、今までの苦労が全て消え去ったことを再認識させられ、喪失感と疲労が一気にこみあげてくる。


「あんだけ頑張ってこれかよぉ・・・、あーマジでクソゲー、二度とやらんわこんなもん」


 感じていた喪失感が収まれば今度は、怒りが沸き上がってくる。男はいつものように、誰に見せるでもないのにいかにも自分はつまらないのだと言いたげな顔で、頭をボリボリとかきむしりながら、画面を睨み愚痴をこぼす。だが、当然反応など返って来るはずもなく、唯々虚しさを増幅させるだけであった。


 そんな虚しさをごまかすために、少し前に買ってきていた缶チューハイを床に投げ出されたコンビニのビニール袋から取り出し開けた。置き方が雑だったのだろう、吹き出した液を慌ててすすり上げ、マウスをクリックしゲームをタイトル画面へと戻す。


「いやまぁ今回は立地が悪かったな。いやむしろここまでよくもったよ、うん」


 「負けたんじゃない、最初から無理だっただけ」「むしろよく頑張った」「これは自分へのご褒美」そう自身に言い聞かせるように脳内でつぶやきながら、微妙にぬるい酒を空っぽの胃に流し込もうとし、途中で思考が声に漏れ盛大にむせる。


「ゴッブバェ‼ゲッホ‼ゲホ、あ゛~、最近独り言増えたなぁ。口元緩んでんのかなぁ」


 そんなどうでもいいことを考えながら、「二度とやらない」といった先ほどの自分の言葉も忘れ、【NEW GAME】へとカーソルを持っていこうとし、パソコンの時計に目が留まった。


 【3:35】 


「ああ、切りもいいな。便所して寝るか」

 

 深夜も深夜。こんな時間になるまでゲームに没頭していたことに、謎の自己嫌悪を抱きながら、彼は【END】を選び、ゲームを終了し、立ち上がった。長時間座っていたせいか、一瞬くらりとめまいと若干の吐き気が襲う。だが立ち眩み程度、普段から不摂生の権化であると言わんばかりの生活を送ってきた彼にとっては慣れたものであった。一つ、普段の立ち眩みと違いがあるとすれば、その感覚が決して一瞬ではなかったことであった。


「・・・あ?」


 瞬間、足元が崩れるような感覚が男を襲った。全身の血が急激に降下していくような酷い脱力感と、濁った水の中にいるような歪んだ視界。徐々に乱れていく呼吸に焦燥感を掻き立てれていく。


「な、なんだこ、れ、あ、が、あ」


 咄嗟にバランスを取ろうと動かした脚は、空中を蹴り、支えを失った体は男の意志に反し頭から床に打ち付けられた。おおよそ立っていられる状況ではなかったのだ。


 心臓が痛い。いや心臓だけじゃない、頭も腕も足も、すべてが痛かった。


 痛みが思考を歪ませる、自分に何が起きているのか、何のせいでこんなことに。そんな考えが生まれては消えていく。


 そして、焦燥感と苦しみで、思考が途絶えた瞬間、男は意識を手放した。






(ここはどこだろう)


 目が覚めたそこは、真っ暗で自身の姿すら見えない謎の空間だった。


 どこまで続いているのかもわからない真っ白なそこで、朦朧とした意識のまま、周囲を見渡す。


「   、     ‼」


 ふと声が聞こえたような気がした。だが、周囲を見渡しても誰もいない。


(だれかがいるの、か)


 そう心の中でつぶやくとその声は、それに答えるように再度聞こえてきた。


「   」


(なに、いってるかわかんねぇよ)


 声は届いているはずなのにどのような発音をしているのか、何を言っているのかわからない。ただそれは、彼に何かを伝えようとしていた。それだけは理解できた。


「      」


(てをのばせ?)


「   ‼      ‼」


 どうしてそう言ったのだと思ったのかはわからない。ただ、きっとそれは正解だったのだろう、それは今までにない大きな反応を示していた。


 彼は有るか無いかもわからない手を、前へと突き出した。


 その瞬間突き出した手からまばゆい光があふれ出し、その光は周囲を白く染めていく。彼はその手に確かに何かをつかみ取り、その目を閉じた。


「  、        ・・・。」







「ん、はぁ‼ここは?というか今のは、一体・・・」


 光が収まったのを感じ彼は、先ほどよりも大分はっきりとしてきた頭を手で押さえ、光で眩んだ眼を開けた。


「は?」


 そこにあったのは巨大な石造りの祭壇と、地面に書かれた奇怪な魔方陣。洞窟の中なのだろうか、奥から見える光が、岩を削って作られた壁に沿って真っすぐに伸びており、外の森からの澄み切った風が吹いている。決して自分が先ほどまでいた自室の風景ではない。倒れた先で運び込まれるであろう病院の一室にも見えない。大自然を感じさせる空気と、不安を掻き立てる魔術の儀式めいた祭壇の魔方陣が彼の眼前には広がっていた。


(な、なんだ?俺は倒れて・・・。何なんだここは!?)


 あまりの出来事に、声すら出すことができずに、呆然と立ち尽くす。ここは一体どこなのか、自分はいったい何に巻き込まれてしまったのか。あまりに現実離れしたその状況に答えを見つけたいがため、何か知っているものは無いのかと、必死に辺りを見回し、自身の真下にあるその魔方陣が目に入った。


(このクソでけぇ魔方陣、見覚えがある・・・、まさか!?)


 しゃがみ込み、興奮気味に自身の下に書かれている魔方陣に手を当て、そこに抱えている奇怪な文字を指でなぞっていく。


 彼が見ることのできたのは外の光でかろうじて見える部分だけであったが、魔方陣に書かれたその文字と形状。それは紛れもなく彼の愛した『AbyssGate』の召喚魔方陣そのものだった。


 男は自身の口角が自然と上がっていくのが分かった。先ほどまで不安で一杯だった頭が、歓喜と興奮に染まっていく。早鐘を打つ心臓を押さえるように、その小さな手を胸へと当て、自身の想像が現実であることを確認するように、『AbyssGate』のコマンドであった『情報開示』を心の中でつぶやく。すると目の前に、見覚えのある半透明の板が出現した。


 興奮冷めやらぬまま、そこに映し出されていたものに目を向ける。それは彼の予想通り『AbyssGate』のユニット情報だった。



▼ユニット情報

 名前:未設定

 種族:レッサーイビルフェアリー

 属性:▼邪悪 (悪)

   〈迫害対象:LV——〉〈善属性特攻:LV——〉

 LV:1

 RANK:1


 HP:3/3

 MP:10/10


 筋力:1

 耐久:1

 器用:3

 敏捷:2(+1)

 魔力:4

 精神:2

 魅力:4

 知力:4

 【スキル】

 〈飛翔:LV1〉〈妖精魔法:LV1〉〈〉



(しゃぁおらぁ‼どうやら『AbyssGate』の世界に転移、転生か?したのは間違いないっぽいなぁ‼フェアリーなのはちと減点だが、くそったれな現実より何倍もマシだ‼)


 自然と出たガッツポーズと、それに連動するように背中についた羽がひらひらと揺れる。推測が確信に変わり、興奮が最高点に達したことに呼応するようにふわりと体が持ち上がる。無意識に動いた羽が、身体を持ち上げた。


「ふふ、あはは‼」


 現実から解放されたことへの喜びと、空を飛んでいるという興奮から、鈴を鳴らすかのような高く、愛くるしい声がこぼれる。それに違和感を覚えながらも、一先ずは考えないようにし、飛び回りながら周囲に目を向け、先ほど大きく見えていた祭壇が、自身が小さいことでそう見えていたのを知り、そういえばと、自分自身の体を確認していなかった事に気が付いた。


 黒いドレス、銀色に輝く腰まで伸びた髪、身長は30cm程だろう。見たところでは、彼の記憶にあるゲーム時代のレッサーイビルフェアリーのグラフィックと同じようであった。


(しっかし、見た目が妖精になったとはいえドレスを着続けるのは流石に嫌だな。ゲームでは、人間種以外性別で見た目の変化が無かったからこんな姿にされてんだろうけど。あと、なるべく考えないようにしてたけど、フェアリーってことはまさかな・・・。)


 ゲームではフェアリーは女性の割合が多い種族であった。そのことを思い出し、彼は急いでひらひらとした黒いスカートの上から、股座に手を伸ばし、モノを確認し、肩を落とす。


(うん、知ってた。いや、何となく察しはついてたが。モン娘ハーレムの夢は途絶えた、か。しかし、TS転生かぁ。どんな容姿してんだろうな俺は。髪色が白っぽくてそこそこ長いのはわかるが、鏡でもあれば、いや今はそんなこと考えている場合じゃねぇな早く準備しねぇと)


 自身の容姿について気になる部分も大きい。ただ、自身のみに起きた事など考えている暇はないと言えるほど、『AbyssGate』というゲームの序盤の恐ろしさを彼女は知っていた。そして何より、


(いやぁ、しっかし楽しみだな‼召喚術使うの‼)


 これから召喚術師として自身の下僕を召喚するという事に興奮を隠しきれなかった。それはゲームや漫画などでしか見たことのない魔法を使うというのもさることながら、主人の命令に絶対服従である自分だけの都合のいい奴隷を生み出せるという、ゲーム内での召喚師の力を振るうという事への優越感でもあった。


 召喚師を守るために生み出され、どんな命令にも従い、使い物にならなくなったら簡単に切り捨てられる、使い捨ての下僕共。そんなものに囲まれながらこれから生きていくのだと。下卑た妄想の中でしかありえなかったそんな未来を夢想し彼女は胸を躍らせる。


 そして高揚し続けるそんな気分を抑えながら、自身のステータスを再度確認し始めた。


(よぉっし、まずは拠点作成からだな。フェアリーでは運搬も採掘も伐採もできないから、とりあえず肉体労働のできる下僕を召喚して、って、え?)


 そう考え、召喚の為に〈召喚術〉スキルを使用しようとして、彼女はようやく気が付いた。


(〈召喚術〉が無い?なんで?)


 困惑する彼女の後ろからカツカツと誰かの足音が聞こえてくる。


(ま、まさか)


 その時、彼改め彼女は自分がとんでもない勘違いをしていた事に気が付いた。

 自分の知っているゲームの世界に転生したことで、まるでこの自分がこの物語の主人公であると、そう思ってしまっていた。もっと早く気が付いていれば、いや、気が付いていたところで何も変わらない、そのことを知っていたから、それに気が付いた瞬間、動けなくなってしまたのだ。


「えっと、召喚成功でいいんだよね?」


 光の届かない暗がりから自信なさげな男の声がした。何か自身とつながりのようなものを感じるさせる声。優しい声だった。だが、今はそんな声に恐怖しか抱けない。


「あ、ああ、ああ・・・」


 声が、体が、震える。自分が何なのかを理解したから。その扱いを理解したからだ。

 足音が近づくたびに鼓動が早まり、脂汗が噴出してくる。

 やがて、暗がりからかろうじて見える距離まで迫ったその青年は、小さな小さな彼女の前にしゃがみ込み屈託のない笑みを浮かべこう言い放った。


「初めまして。僕は・・・えっと、君の召喚主だよ」


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