ついそう
逃げた如珠たちを追ってフロッグは額から大粒の汗を滴らせながら二階へ続く階段を下りていた。
「はあ、はあ、どこ、行ったん、だお」
本来なら全力の潜在解放の如珠と遜色ない身のこなしとスピードを出せるフロッグなのだが、逃亡を図る如珠を追いフロッグが部屋を出た時、すでに如珠は黒い点でしか認識できないほど距離を離されていた。それに加え、建物内の少々入り組んだ構造がフロッグお得意の壁を足場にジャンプしていくのに相性が悪く、自慢の機動力が削がれたフロッグは途中で如珠を見失ってしまった。
「如珠ンの能力をフルパワーで使ってもこのビルから出るのは不可能だお。脱出前に絶対使用限界を迎えちゃうお」
フロッグは今、壁を足場にすることなく自分の足で一歩一歩歩きながらフロアにある空き部屋すべてを一つ一つ確認していっている。
(絶対如珠ンはどこか途中でガス欠を起こして部屋に身を隠してるはずお)
フロッグの予想は正しい。確かに能力の使用限界を迎える前にこのビルから如珠が抜け出すのは不可能に等しい。
だが、フロッグは一つ大事なことを見落としている。
「ガス欠を起こしてどこかの部屋に身を隠してる如珠ンを僕が見つけしてしまえば僕の勝ち………………だお」
そのことにここでようやくフロッグは気づいた。
「なんで僕自らが汗水たらして部屋を一つ一つ確認してるんだお。こんな雑用、四階にいる失敗作共にやらせればいいんだお」
オストリーグもそうだが強化異人たちはなんでもかんでも全て自分で解決してしまおうとするきらいがある。責任感が強いとかそういう理由ではない。圧倒的に強化された能力故に。他人など歯牙にもかからないのだ。
そのため今の今まで忘れていたが、部屋に隠れている如珠は強化異人モドキたちに探させればよい。自分は可能性としては限りなく低いがビルの入り口に陣取って万が一如珠たちが強化異人モドキたちを振り切って来た場合に門番として迎え撃てばよい。
わざわざ自分で汗水たらしながら一部屋一部屋確認する必要などないのだ。
「すごいお、僕天才だお」
早速ポケットから有魔市議会で井坂がバイソンを操るために使ったものと同じ強化異人を操作することができるリモコンを取り出した。今は四階の見回りを休みなく延々行っている強化異人モドキたちだがこのリモコンを使えば新たな命令を強化異人モドキたちに下すことができる。
空き部屋に隠れているはずの如珠たちを探し出すため、リモコンを操作し強化異人モドキたちに新たな命令を送信しようとしたその時――
ガシャン
「だおっ」
前方から勢いよく飛来してきた鉄の破片が強化異人モドキたちに命令を下すよりも早くリモコンを打ち砕いた。
「あらあら、だめじゃない。大切なものはしっかり掴んでおかないと、あっという間に粉々に砕け散っちゃうわよ」
「お、お前は」
フロッグの目の前には長い赤色の髪をなびかせる少女の姿が……
「また会ったわね、キモ蛙さん。心底会いたくなかったけど」
「どうしてここに」
「そんなの決まってるじゃない」
そう言って少女はこぶしを握り構えた。
「あんたをぶちのめすためにここに来たのよ」
二階中央、このフロアで一番広い空間で如珠とフロッグは相対した。




