しっそう
ラプラスの瞳で数分後自分の心臓を黒い槍のようなもので貫かれる未来を視た守偵はすぐさまハンドルを握るマロンの方へ体を移動させた。
「きゃっ」
突然守偵に体を預けられ思わずマロンはハンドルを右に切った。
車が急に車線を外れ、あわや壁に衝突する寸前でマロンはハンドルを反対に切りなんとか壁との衝突事故を回避することに成功した。
「ちょっ、危ないじゃない守偵」
大惨事一歩手前にマロンが批難の声を上げる。しかし、すぐについ先ほど守偵のいた位置を貫通する黒い槍を見て言葉を失った。
「え、何、それってもしかして……槍」
黒い槍はマロンの愛車の鋼鉄のドアを貫通、守偵がつい先ほど座っていた助手席の頭を乗せるやつ(ヘッドレスト)を掠めていた。
「どうして槍が」
マロンの愛車を貫通した槍がゆっくりと引き抜かれる。
「しゃああ、しゃ、しゃ、しゃ」
愛車に開いた拳大の風穴から男の甲高い笑い声が入り込み、車内全体に反響した。
「誰」
誰かに問うたわけではなく、思わず口にした言葉だったが、応えるようにマロンの愛車に見たことないぐらいの超巨大バイクが並走した。
穴の開いたマロンの愛車に並び走行する超巨大バイク。よく見ると前に一つ、後ろに二つの大きな車輪がついており、バイクと言うよりはかなりハイテクな三輪車のようだ。
「やるじゃねえか、完全に不意をついたつもりだったがな。それが王さまの言ってたラプラスの瞳ってやつか」
(王さまっ)
守偵の頭に薄い笑みを浮かべる金髪の男の顔が浮かんだ。
その三輪車に跨っている、というよりは下半身すべてそのハイテク三輪車に飲み込まれているのは緑色の髪を鶏のとさかのようにした素肌に革ジャンを着る一見どこころか四方どこからどう見てもチンピラの男だった。
「おまえは」
「あなたは」
守偵たちの問いに下半身三輪車男はニッと笑った。
「俺様はオストリーグ。被検体一〇三、てめぇらが強化異人って呼んでるやつらと同じ改造手術を受けた異人だ」
「っ、強化異人、だと」
チンピラ男のかけるサングラスの奥が一瞬、怪しく光った。




