太刀博人
「太刀っ」
如珠の逃げ場をなくし閉じ込めたゼリー状の塊、フロッグの濃縮酸痰。金属以外のあらゆる物を跡形もなく溶かしてしまう酸のスライムの中を太刀は突破した。
「無事か」
潜在解放を全力(100%)で発動する如珠と能力強化(改造)手術を受けた強化異人のフロッグ、全力で追走劇を繰り広げる二人の後を太刀はかなり遅れる形で追走し、ようやく追いつくことができた。
「もぉお何なんだお、僕痛いの嫌いなんだお」
太刀に殴り飛ばされ壁に全身強打したフロッグが頭をさすりながらゆったりと立ちあがった。痛みこそあれ水膨れした体がクッションになって傷一つ負うことなかったフロッグは出っ張った瞳をぎょろぎょろと動かし太刀の全身、体内の鉄分を自在に操る能力、血鉄により体すべてを薄い鉄で覆ったプレートアーマーを見た。
「すごいお、西洋の騎士みたいだお、かっこいいお」
西洋の甲冑のようなフルプレートアーマーに身を包む太刀にフロッグは目を輝かせた。
「それはどうも、貴様に言われても何もうれしくないがな」
対する太刀はフロッグを感情のない冷めた目で見下ろした。
「如珠、いけ」
そう言うと太刀は如珠の背後にある巨大スライム、ついさっき中を通ってきたフロッグの吐き出した酸の塊を斜めに手の甲からはやした小太刀で一刀両断した。
見事な太刀筋で切断されたスライムはゼリー状の破片を飛び散らせることなく、そのまま崩れ落ちた。
太刀は如珠をこの場から脱出させるルートを切り開いた。
「お前にはやるべきことがあるんだろ、こいつは俺が相手する」
数秒の間、無言で見つめ合っていた二人だが如珠は太刀が切り開いた道の先を太刀は如珠の背後で薄笑いを浮かべるフロッグを見据えた。
「……死ぬんじゃないわよ」
「御意」
そう言って如珠はこの場を離れた。
「ひゅうぅ、かっこいいだお。本物のナイトみたいだお」
標的であるはず如珠がこの場から去るのをフロッグはずっと余裕たっぷりの顔で静観していた。それが太刀をさらにイラつかせた。
「余裕だな、そんなにその、仮初の力に自信があるのか」
「でゅふふ、直にわかるお」
標的を逃がしてもなお、笑みを浮かべるフロッグの姿に一抹の不安を覚える太刀だったがその不安を太刀は即座に切り捨てた。
(余計なことは考えるな。俺はただあいつを、セイムの新しいリーダーを信じ支えればいい。それ以外は何も考えなくていい)
太刀は自身の、セイムの参謀、組織のナンバーツーとしての役目を全うするため、目の前で対峙する怪物フロッグを足止めすることに全神経を注いだ。




