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異人――人間でありながら人間ならざる者――が多く暮らす街、有魔市有魔町

三回目

「ばっかやろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 部屋が軋むほどの野太い叫び声に探偵、探護守偵(たんごさねさだ)は反射的に耳を抑えた。そこへ守偵(さねさだ)の頭上に鈍い痛みが走る。


 守偵(さねさだ)の頭に勢いよく拳が叩きつけられた。


 ホテルで起こった密室殺人事件を異例すぎるスピードで解決した守偵(さねさだ)は事件解決後、颯爽と現場を離れ……られるわけなく事件現場への不法侵入に聴取中の乱入による公務執行妨害、ついでに事件の調書作りのために近くの警察署である有魔署へ連行された。


 不法侵入と公務執行妨害については迷宮入りもかくやと思われた事件解決の功が認められ今回は厳重注意、殺人事件の調書もすでに犯人が自白していたためそこまで時間がかからなかった。


 身柄が拘束されて一時間。あと少しで解放、取調室で最後の手続きが済むのを待っていた守偵(さねさだ)の元へ白髪交じりのガタイの良い屈強な男が開口一番怒鳴り声をあげやってきた。


「なんだよ藪から棒に、サービス残業のしすぎで気でも狂ったかおやじ」


 加減も容赦も一切ない渾身のげんこつに思わず守偵(さねさだ)は涙目になっていた。


「おやじって言うな。今は仕事中だ。署長と呼べ、署長と」


 そう言って対面にある椅子に腰を下ろした大男はこの有魔市で街の良心と言われる正義の体現者、探護重信(たんごしげのぶ)。この有魔署の署長にして守偵(さねさだ)の父親である。


「お前、また事件に首突っ込んだらしいな。しかも今回は警察が捜査している現場に勝手に入り込んで」


「いいじゃねえかよ別に。探偵が事件に首突っ込むのは当然だろ」


「どこの世界に依頼されてもねえ事件に首突っ込む探偵がいるんだよ。しかも異人関係の事件ばっかり……異人がどんな存在かわかってないわけじゃないだろ」


 重信の言葉に守偵(さねさだ)は顔をそむけた。


「いいじゃねえかよ、別に……」


 異人――人間でありながら人間ならざる者。見た目も内臓する臓器も人と変わらない。体には赤い血が流れ、髪の毛が寄生虫のように動くこともない。ほぼ人間。なのに人間とは決して相容れられないのには理由がある。それは、


「いいわけないだろ、異人はこの世でもっとも危険なんだぞ」


 彼ら異人と呼ばれるもの達は皆人知を超えた能力を有していることである。

異人とはいわば能力者、中には大都市をアッという間に壊滅させるほどの強力な力を持つ者もいる。


「……んなの実際に会ってみねえとわかんねえだろ」


 重信の顔から守偵(さねさだ)は視線をそらした。危険な事件に首を突っ込み続ける、無鉄砲な我が子を心配する父親の顔から……


「にしてもよりによって異人による密室殺人か……ようやく過去の傷がいえてきたってのに」


 そう零す重信の口は鉛のように重い。いつも真っすぐ、どんなに悲しい事件であっても目をそらさず自分の正義に従い真摯に向き合ってきた偉丈夫の目が今は亡き在りし情景に揺れていた。


「まあ、そのウルトラスーパー難事件も大事になる前にこの超一流探偵、探護守偵(たんごさねさだ)が華麗に解決したんだ。時がたてばみんなみんな忘れるだろう」


 今回の異人による密室殺人事件を社会的影響も踏まえて重く受け止めている重信とは対照的に守偵(さねさだ)は今回の異人による事件も他の例にもれず、ワイドショーを二日程度騒がせるだけですぐに忘却の彼方へ流されてしまうだろうと思っていた。


「だといいがな」


 歴史は知っていても、実際にその時を生きていたわけではない守偵(さねさだ)はそれを知識とでしか知らない。


 異人という存在がなぜ多くの人間から畏怖され、生きているだけで疎まれ一方的な迫害を受けているのかを。


「それにしてもお前よく犯人がわかったな。お前の目だって、過去までは見えないだろう」


「ああそれは」


 取調室で久しぶりの親子水入らずをしているところへ書類を持った警察官がおずおずと入ってきた。


「あのう、無事調書は完成しましたのでもう息子さんにはお帰りいただいても……」


「お、やっとか」


 それを聞き守偵(さねさだ)は勢いよく椅子から立ち上った。


「あっあー、ずっと椅子に座ってたから疲れたぜ。じゃあな親父。サービス残業もいいけどたまには家に帰って家族サービスしろよ。如珠が心配するからな」


「ちょ、おま、話はまだ終わって」


 父親の静止が届く前に守偵(さねさだ)は署長を前におどおどする警察官の横をさっと通り過ぎ部屋から退出した。


「……あいつ」


 守偵(さねさだ)が去り、静けさが漂う取調室で重信は額をおさえた。

毎日残業、休日も三割近くを返上し家に帰らず署に泊まり込むことが多い仕事人間重信の頭の中にあるのは街の平和、そして……今は亡き妻が残してくれた命よりも大事な愛しい二人の子供たちの事だった。


「このまま上手くやっていければいいが」


 重信の妻が残してくれた二人の子供(きぼう)はただの子供ではなかった。

探護守偵(たんごさねさだ)は未来視の能力を持つ異人である。



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