乱戦
黒い布で顔を隠した男達の突然の襲撃。守偵たちは間一髪コンテナの陰に隠れることに成功。いきなり蜂の巣になるというあっけない結末を回避できた。
「なんだ、あいつら」
一番手前、一番襲撃者たちに近い守偵が様子をうかがう。当然身を乗り出せば襲撃者たちにも姿を視認されるので、ジェシィの持っていた化粧用の手鏡を使いぎりぎりの位置で相手の出方を伺っている。
(機関銃にさっきのでかい音は爆弾か。明らかにまともな連中じゃねえ。どっかの軍隊か。それにしては統率がお粗末な気が)
「誰もいねえな、もう逃げたか」
襲撃者の一人が隊長格らしい一際ガタイの良い男に話しかけた。
「いや、入り口は他の奴らが固めてる。まだ中にいる」
(日本語。日本人か)
「かわいい子がいたらいいな。そしたらたっぷりかわいがってやんのに」
「てめえ、それでどんだけ商品ダメにしたと思ってるんだよ」
「いいじゃん。こっちも命がけなんだから」
「よくねえよ」
軽口を言い合う二人を隊長らしき男が叱責した。
「静かにしろ。どこに敵が潜んでるかわからねえぞ」
緩みかけた雰囲気が再び引き締まる。
「この人たちって……だよね」
「だろうな、話を聞く限り」
「敵は人の皮をかぶったただの怪物だ。油断するとすぐおっちぬぞ」
隊長格の男の言葉に、襲撃者たちは銃を構え直し戦闘態勢をとった。
(こいつらが今回の俺たちの標的、異人のみを狙って人身売買しているっていう人身売買集団)
「どうやら奴らの狙いも俺たちみたいだな」
「私たちの標的が私たちを標的にしていたなんて、因果応報だね」
人身売買集団たちはお互い背中合わせになりながら徐々に守偵たちが隠れるコンテナに近づいていった。
「……どうやら俺たちは誰かにハメられたみたいだな」
「これどうする」
「どうするって」
男たちが近づいてくる中、守偵太刀の方を見た。新入り、ですらない立場で自分には選択権も発言権もない。それ以前に守偵の頭には余裕がない。目の前の想定外な事態にパンク寸前である。本能的にこの事態に一番慣れていそうな太刀に視線を寄越したのだ。
「ふっ、そんなもの決まっているだろう」
逃亡。現場からの即離脱。自分が太刀と同じ立場ならそう決断する。しかし、太刀が浮かべたのは獲物を前に身を隠す、猛獣の笑みだった。
「予定通り、全員皆殺しだ」
この時、守偵は悟った。いや、言われずともわかっていた、知っていたことだったのだが守偵はこの時ようやくその言葉の示す本当の意味、真意を理解したのだ。
守偵と太刀たちは同じ生き物でない。
違う生き物なのだと。
人も異人も変わらない。この世に同じい生き物など存在しない。故に、互いを理解し分かり合うことなどできないのである。




