#1 いつもの朝
古びた集合住宅の一室。
来客を知らせるドアベルは今日は目覚ましとして作動した。
「周―!置いてくぞー?また徹夜でゲームしてるのかー?」
聞き慣れた幼馴染の声が聞こえる。
現クラスメイトにして幼稚園からの親友である、安井奏のものだ。容姿端麗頭脳明晰、スポーツなんてさせた日には周りの視線を総取り。欠点を探す方が難しいような奴だ。
「ごめん今起きた!ちょっと待っててくれ!」
(くそ、朝一番から叫ばせないでくれよ。まぁ自業自得以外の何物でもないのだが。)
謝りながら枕元の置き時計へ目をやると、寝坊の理由はすぐに判明した。目覚ましのアラームをセットし忘れていたようだった。
昨晩の自分への苛立ちを募らせつつ急ピッチで身支度を済ませ、家を出る。
「おっそ!あんたいっつもこんなに待ってんの?」
「ま、まぁまぁ落ち着いて」
目に飛び込んだのは、両手を腰に当て頬を膨らませた不満を一向に隠そうとしない一人の少女。と、それを抑える困った顔の奏だった。
「え、悠希じゃん。おはよう。」
ふんっと後ろを向いてしまった彼女は悠希紫乃。奏の幼馴染にして男子からも女子からも圧倒的人気を誇る、われらのクラスメイトである。ファンクラブがあるという噂も納得の顔立ちとスタイル。校則の域を出ないスカート丈と膝上まで伸びるハイソックスの隙間から除く太ももに男子は釘付けだそうだ。
「ところでなんで今日は悠希も一緒なんだ?」
学校に向かう道中、ふと疑問を前方を歩く二人に投げかけた。
「え?いや、なんか急に紫乃が…
「ちょ、別に私が誰と登校したっていいでしょ!ていうか奏も余計なこと言わないの!」
話題提供したつもりが話が続くどころか結果は悠希を怒らせただけ
だった。
奏に迷惑かけてばかりの俺に対し悠希はいつも手厳しい反応を見せる。
昔はもっと普通に会話できていたんだけどな。
軽く過去に思いを馳せ、再度前方に視線を戻す。
しかし先ほどまでの二人の姿は無く、代わりにそこにはぐったりと地面に倒れ込む二人が目に飛び込んだ。
「な、何が起…き……
ぐにゃりと視界が歪み、地面が急速に眼前に近づく。
俺の意識はそこで途絶えた。