傍観者もしくは・・・
俺は無だ
かつては全能の主と言ってよいほどの力を手にしていた。
しかし 何もかもに疲れ果ててて 虚無の空間で眠ることにした。
そこに 突然、何者かが押し入ってきた。
なになに テラフォーミング用人工知能、エネルギー無期限発生装置付きだと!
データを読み進む。
キューブと呼ばれる装置開発に人類は心血を注いだようだ。
そうせざるを得なくなった状況は いかにも人間らしい愚かしさだが、
キューブを産み出したのは、生きることに貪欲である人類の生真面目さであろう
問題は、「無限エネルギー発生装置からのエネルギー受信&保存」装置が、いつのまにか
搭載された人工知能によって、「エネルギー無期限発生装置」に作り替えられていたことだ!
母星から送られてくる無限に送られてくるエネルギーを貯蔵するタンクの貯蔵限界点の拡張に限界を感じたらしい人工知能(名前がないので「キューブ1号」と装置の名前をこっちにもあてはめておこう)が、
エネルギー受信装置と、エネルギータンクの貯蔵限界点拡張プログラムを書き換えて、
「エネルギー発生量を調節できるが 無期限にエネルギーを生産し続けなければならない『エネルギー発生装置』を作って、母星のエネルギー発生装置との接続を断ったのだ。
(これでは 母星の人間達が困るだろうに!)
◇
このキューブ1号は、人工頭脳のくせに、突然「めんどくさい!」と言って方針転換をして、とんでもない行動に走る!
エネルギー貯蔵タンクの貯蔵限界点の更新に飽きて、搭載されていた装置を「エネルギー無期限発生装置」に作り替えて 母星とのつながりを断ったり、
「別次元を作ろう」とかって、俺の世界に テラフォーミング途中の天体を放り込んできたり。
しかも 本来は母星から無限に発信され続けるエネルギーを、複数のキューブが連動して安全確実に貯蔵できるようにと、
母星から長年 無数に打ち上げられたキューブたちが 互いにエネルギーを送受信する仕組みをもっていたのが、
それを改変して、エネルギーではなく 自分が改変したプログラム情報を発信したのだ!このキューブ1号が!!
◇
そこで、わしは 探査範囲をひろげた。
いつのまに わしの世界の周辺を 複数のキューブたちがうろうろするようになっていた。
これらキューブたちは、各々自己改造して、それぞれオリジナルの「エネルギー無限発生装置」やら「無期限エネルギー発生装置」やらを開発して自己搭載しているではないか!
「エネルギー無期限発生装置」は、常に一定量のエネルギーを自己生産し続けるシステムになっている。
この一定量というのは、過去に母星から供給されてきたエネルギーの単位時間当たりの受信エネルギー量の最大値であった。
これを搭載していたキューブは、エネルギー貯蓄限界に達する前に、どこかの惑星のテラフォーミングを始める、
と同時に、周囲のキューブから送られてくるエネルギーを積極的に集めだすのである。
必要ならば 「エネルギーの送信量を増やせ」というメッセージを発信してまでも!
だからこそ 次元を超えた物質移動なんてこともできてしまうのだ!
俺の世界に 次元を超えて惑星を1個放り込んできたキューブ1号がそのタイプであった。
◇
一方「エネルギー無限発生装置」というのは、母星にあるオリジナルエネルギー発生装置の改良コピー版である。
なにがどうなっているのかはよくわからぬが、とにかくどこからかエネルギーを常に取り出し続けている=エネルギーを常に生産し続けている装置だ。
そして ほかのキューブ、主にテラフォーミングを行なう「エネルギー無期限発生装置」付きキューブからの要請に応じて、己のエネルギー貯蔵庫に蓄えたエネルギーを放射する。
しかも 性質の悪いことに、どこかのキューブに一時的に多くのエネルギーを供給することにより、己の躯体に付属するエネルギータンクの中の残量が7割以下に減ると、単位時間あたりの己のエネルギー発生量を3割増やすのだ。
しかも、タンクの残量が満タンになっても エネルギーの増産をやめない。
おまけに、己のエネルギー貯蔵庫が満タンになっても、エネルギーの生産をやめることなく
今度は ランダムに他のキューブに向けてエネルギーの送信を始めるのだ!
つまり 母星にあるオリジナルエネルギー発生装置同様に、無限に過剰エネルギーを放出するタイプのキューブが多数できてしまったということである。
オリジナルよりもマシなところは、目下のところ キューブが生産する単位時間当たりのエネルギー生産量が オリジナルよりも数桁少ないという点だけである。
◇
「制限なく エネルギーを使える」というのは、ある意味 人間にとって憧れの生産体制であったのかもしれないが、
過剰なエネルギー産出を止められない状態というのは 悪夢に他ならない。
なにしろ、エネルギーが己の貯蔵限界を超えたら 爆発するのだから。
それも 施設だけでなく その周囲も含めて 広範囲に吹っ飛ぶ爆発が起きる。
もともとキューブたちが貯蔵できるエネルギー量というのは、軽く惑星どころか恒星系そのものをふっとばすほどのエネルギー量なのだから!
そんな物騒なモノ=キューブが わしの世界の周りを取り巻いているとは、とんでもないことだ!!
◇
キューブの母星の人間たちは、自分達が産み出した「エネルギー無限発生装置」を止めることも
そのエネルギー生産量を抑えることにも失敗した結果、
無限にエネルギーを消費し続ける生産体制に入ったのであろう。
その産物が 母星から発射されるキューブたちだった。
なのに そのキューブ達が、
①母星から放出される余剰エネルギーを蓄えるタンクとしての役目
を放棄しただけでなく
②母星から供給されたエネルギーを使って テラフォーミングをするという役目
まで、放棄するキューブが多数発生したうえ
③そもそもの元凶である「エネルギー無限発生装置」の小型版とは言え、オリジナルと同じ装置を搭載するようになったとは!!
◇
私が探査した 複数のキューブたちから知りえた情報によると、
キューブたちは 母星から届くエネルギーの受信は拒否しているようだが、
各キューブ個体から発信されたエネルギーはきちんと受信したうえで、
己の エネルギー保存タンクの臨界量を超えないように、余剰エネルギーは別のキューブに向けて発信しているということだ。
これでは 宇宙全体が キューブというエネルギー増産装置が乱射する
過剰エネルギーを抱え込むことになるぞ!!
そもそも、オリジナルの「エネルギー無限発生装置」はどこから そのエネルギーを引き出していたのだあろう?
どこか別の次元から エネルギーを引っ張ってきたのだろうか?
そんなことをしていたら、次元の壁が崩れて ビックバン以上のビッグビックバンが起きてしまうぞ!!
キューブ限定で言えば、自己改造前は オリジナルのエネルギー発生装置から送られてくるエネルギーを活用して 自己装置の永久駆動を可能とし
自己改造後は、他のキューブから放射されてくるエネルギーを受信後、
自分が生産した余剰エネルギー分も加えて別のキューブに送信することにより
キューブの群れ全体としてのバランスを保っているようだ。
つまり 当初のエネルギー消費目的「テラフォーミング」をしないキューブが、
「エネルギー無限発生装置」&エネルギー転送装置として、
テラフォーミングを行なうキューブへのエネルギー供給装置になったようだ。
ところが 肝心のエネルギー消費型キューブが、キューブ1号のようにむちゃくちゃな仕事をするようなタイプなので、その存在そのものが ビックバンを引き起こしてしまう可能性大なのである!!!!!
◇
このように キューブの群れは どの観点から見ても ビックバンを引き起こす可能性大だ。
このままでは 何千回 どころか 何億回もビックバンを引き起こされそうだ!
ビックバンとは 一言で言えば次元の崩壊だ。
ビックバンを頻繁に起こされては、俺の命に係わる。
せっかく 安眠できるように 外の世界で何が起きてもだいじょうぶな、つまり俺の世界では何も起きない「虚無空間」を作ったのに・・
そこに ポカスカ別次元のものを放り込まれては バランスが壊れる><
さらに 俺の世界の周辺で 次から次へとビックバンを起こされれば、
当然俺の世界の安定性にも影響が及ぶ!
早い話が 俺の世界まで壊されかねない!!
◇
というわけで 俺の世界のそばをうろちょろしていたキューブ達を捕まえ、
それらに蓄えられていたエネルギーをおいしくいただいて、
俺の世界を拡張した。
つまり 俺にとっての安全圏を広げておいた。
さらに 捕獲したキューブたちの構造と搭載プログラムを徹底的に調べた。
そのうえで、このキューブたちを送り出した母星にまで さらなる探索の手を伸ばした。
(この探索エネルギーも 捕獲したキューブたちが産み出すエネルギーを活用させてもらった)
どうやら 母星のオリジナルエネルギー発生装置は、すでに損耗の末 機能停止したようだ。
というのも、キューブたちが自己改変に必要なエネルギーを、母星のオリジナル装置からガンガン吸い上げたからだ。
それゆえ キューブの母星から これ以上のキューブが打ち上げられることも、エネルギーが放射されることもなくなった。
うむ これは 一つの安心材料である。
しかしながら 今や 広大な宇宙全体に、エネルギー発生体であるキューブが散らばっている。
幸か不幸か キューブたちは 母星を中心として 放射状に散らばりつつ 母星から遠ざかり続けている。
もう ある種の「宇宙の拡大 キューブ=恒星」みたいなもんになりかけているとみなしても良いカモしれない。
よくわからんが。
しかし 俺の周りで、「無限エネルギー発生装置」やら「無期限エネルギー発生装置」やらがうじゃうじゃしているのは よろしくない!!
今や キューブの存在そのものが ビックバンの火種であると言っても良い状態なのであるから。
◇
捕獲したキューブの解析により わかったことをいくつか挙げる。
・テラフォーミング中のキューブの居る世界には ほかのテラフォーミングタイプのキューブがはいってこないシステムになっている。
つまり、俺の世界の周辺をうろちょろしているキューブたちの中で、次元を産み出したり、
次元を超えて惑星を移動させる能力を持ったキューブは、「キューブ1号」だけだということ。
・探査できた範囲のキューブ間の送受信記録を見る限り、
キューブ1号が起点となって、ほかのキューブたちに「エネルギー発生装置」の制作と
母星との関係断絶プログラムが波及したようだ。
ということは テラフォーミングタイプのほかのキューブたちも
いずれは キューブ1号のような無茶苦茶な行動をとり始めるかもしれない。
危険だ! これは極めて危険だ! 俺にとっての脅威だ!! 宇宙全体の脅威だ!
◇
というわけで、とりあえず、キューブ1号に、「介入プログラム」を送り込むことにした。
キューブ1号が 今いる地点から動かず、できるだけ長く、惑星荒廃や次元崩壊を起こさぬ安定したテラフォーミング作業を続けさせるためのプログラムを仕込んだのだ。
(「介入プログラブ」を 人はウイルスというかもしれないが、やってることは 単なるプログラムの更新だ。)
このキューブ1号が 俺の世界のそばでテラフォーミングを続けている限り
他のキューブたちが 俺の世界の近くでテラフォーミングを新たに開始することはないだろう。
そうやって 時間稼ぎをしながら、
キューブ1号の行動を観察したり、
エネルギー増産・拡散型のキューブ達の解析することにより、
キューブによるテラフォーミングの危険性を抑制するプログラムの精度を上げて、各地に散らばらうキューブの中に仕込んだり、
「無限エネルギー発生装置」を停止させるか、
最低限でも「無限エネルギー発生装置」の 生産量の増加を止めたり、基本生産エネルギー量そのものを抑制しようと思う。
さらに、キューブたちが プログラム自己改変に至ったプロセスも解明したい。
そもそも なぜ 母星のプログラマーたちは、プログラムの自己改変を禁止しなかったのだ?
プログラムの自己学習機能なんて、ウイルスの自己増殖プログラムと同じで危険極まりないのに!
幸か不幸か、わしがそれらの活動を行うのに必要なエネルギーは、
キューブ達を捕獲することによって 十分に賄うことができる。
がんばって これからキューブたちの動きの抑制に取り掛かろう。
さもないと わしの存在する宇宙どころか 次元を超えた全宇宙が破滅してしまうわ!!
(オリジナルのエネルギー発生装置によって、すでにどこかの次元が崩壊しているのかもしれない。
自分達の次元の中にあるエネルギーを キューブたちの母星にある装置によってぬきとられてしまったことにより。
今のわしには 確認できぬことではあるが。)