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しばらくして、お姫様は子どもを授かった。
お腹の子どもは無事にすくすくと成長し、やがて立派な男の子が生まれた。
お姫様と生まれたばかりの赤ん坊を見て、王子様は嬉しそうに笑った。
それはお姫様が以前想像したとおりの、この上なく幸せな光景だった。
――ああ、やっぱり幸せだ。
お姫様は決意した。
「殿下。あなたが仰ったとおり、子を持つというのはとても幸せなことでしたわ。だから……」
幸せな日々の中ですっかり忘れていたが、王子様はとあるティータイムの告白を思い出してギョッとした。
「私は今度こそ死のうと思います」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。子どもの成長は素晴らしいと聞く。歩いたり、話せるようになったり……。それを見るのはきっと何にも代え難い喜びだよ」
「…………」
「それに、父上はもうすぐ私に王位を譲るおつもりだ。この国の民は皆働き者で心優しく、そんな素晴らしい国を君と二人で治めていくことを、私は楽しみにしているのだよ」
お姫様は、想像してみた。
我が子が歩いたり、喋るようになったり……、家族三人で、お庭を散歩したりするのも素敵だ。
それから、玉座に座った王子様。王子様ではなく王様となるのか。この国を心から愛する王子様は、誠心誠意国のために尽くし、とても良い王様になるだろう。
穏やかな家族の時間、一方で国を担う真剣な眼差しの王様の姿、それを隣で支える幸せを想像すると、それはとても言葉では言い尽くせないものに思えた。
「……確かに、そうですわね」
お姫様は、もう少し生きてみることにした。
王子様は王様となり、お姫様は王妃様になり、二人の間には最初の男の子のほか、女の子が二人生まれた。
王妃様は、幸せを感じる度に王様に「終わり」を申し出たが、王様はその度に、この先の幸せを王妃様に言って聞かせるのだった。