三話 〜GOD勢揃い〜
途切れた意識から覚醒したのは一瞬のように感じた。閉じた目の中で広がる映像は自分の最後の瞬間であった。目前へと近づくトラック、倒れ込む自身の姿。
(あれ?俺、あのとき死んで……)
目を閉じたまま右手に意識をやると、なんと動くではないか。そのまま左手、右足、左足、と順番に動かそうとするがどの部位も問題なく動く。少しの間目を閉じたまま考えた。
(んーっと俺、確かあの時轢かれてそれで〜……あっ!病院か!!なんだ、俺助かったんじゃん!!)
現状に納得したのか少し緩んだ口角を元に戻し目を開けながら身体を起こすと広がった景色は到底病室とは思えない、かつ見覚えのない部屋だった。畳張りの和室の真ん中に卓袱台が置かれ数個の箪笥が隅に置かれているだけの簡素な部屋。部屋を見渡すと数人の人影が各々座っているのが見えた。
「あらぁ、目ぇ、覚ましたんですねぇ」
自分に向けられたであろう言葉の方に目をやると薄いドレスのようなものを着た、長い金色の髪をした女性がお茶を飲んでいた。
「あの〜、あなた達は誰でここはどこなんっすかね?」
そう言うとズズっとお茶を飲み終えふぅっと息をついたところで金髪の女性がこちらを向いて口を開いた。
「あのぉ、驚かないで聞いて欲しいんですけどぉ」
「私たちは神様でここは神様のお部屋なんですぅ…」
ふわふわとした雰囲気の女性から思っていた数万倍の返しに開いた口が塞がらないトウヤであったが何とか次の言葉を返そうと模索する。
「あっ!なるほど!!ジョークっすねぇ!ははははは!………笑えるっすわそのジョーク!」
「ジョークじゃねぇってそこ、開けてみ?」
奥にいた骸骨の被り物をした男?が顎(と言ってもドクロマスクの顎だが…)でクイックイッと自分のすぐ後ろにある扉を指した。
重い体を起こし立ち上がり、この部屋の玄関であろう扉のドアノブに手をやりガチャリと開けると、そこに拡がったのは何も無い一面真っ白な空間だった。
戸惑うトウヤは扉から一歩踏み出そうとした瞬間、踏み出した足に地面の感覚がないことに気づき慌てて後ろに後ずさりしながら扉を閉めた。すると後ろでひゃひゃひゃひゃひゃっ!と言う声がし案の定その声の主はさっきの骸骨から発せられたものだと分かった。
「見た?見た?超焦ってんじゃん!トウヤちゃぁん!」
腹を抱えながら笑っている骸骨を少し涙目になりながらキッと睨むとまた別の方から声が聞こえた。
「やめてあげなさい意地悪は」
赤い髪を高い位置で後ろに束ねた女性。更に下に目を移す。すると先程、神様、と言った事を信じるのであれば到底そうとは思えない格好をしていた。
(TシャツにGパン……)
皺のない白いシャツの前面にはでかでかと黒い文字で「神」と書かれていた。
落ち着きを取り戻したトウヤは金髪の女性へと近づいて行く。まだ一言も発していない者たちが数名いたがそんなことは気にもしなかった。
「えーっと、さっきの話……本気……なんすか??……」
「マジもマジ、大マジですよぉ」
片目を引き攣らせ苦笑いをしながら困惑した表情をしたトウヤを他所に神様と言われる者達は事の顛末を話し始めた。
要約すると
自分がトラックに轢かれそうになった瞬間にこの空間に瞬間移動させたということ。
あのまま放っておくと百パーセント自分が死んでいたということ。
ここにいる者達はみんな各々のセカイを束ねる神であるということ。
またこれ以外にも沢山の神達がいること。
これから別のセカイに転移してそこで好きに暮らしてもらうこと。
と言ったところだった。
「あの〜、まだ全て信じれてる訳じゃないんすけど……別のセカイっていうのは……?」
真面目な表情で話す神様たちに気圧され、半ば強引にそう信じ込むことにしたトウヤであったがまだ疑問は山のように残っているのであった。
「それを今からくじ引きで決めまーっす!」
ドクロマスクの神が相変わらず陽気な様子で突拍子もなく話に入ってきた。その神の手には「くじ引き」と書かれた四角い箱が持たれており、よいしょと立ち上がり卓袱台へとその箱をドンッと置き座ると、箱の中身を無作為に探り始めた。
「トウヤくんの行き先は〜、ここだ!ん〜、笑って〇らえてっ!」
似てもないテレビタレントのモノマネをしながら箱から手を出すドクロ神にイラッとしたトウヤであったが、ふと目を手に移すとそこには一枚の紙切れが握られており鼻歌混じりでその紙切れを開いている。
「えとえとー、トウヤくんが向かう先は〜……はい!!魔法のセカイ『アレル』に決定〜!拍手!」
パチパチパチと少ない拍手に自分が置いてきぼりにされている感覚が少なくはあったがトウヤはそれに一々突っ込んでいく元気は最早なかった。
「アレルは確かー……ルカちゃんのセカイだったよね?!」
すると部屋の隅でずっと本を読んでいた神様がこちらへ、とことこと向かってきた。長くもなく短くもない銀色の髪をした幼い見た目の少女、これまた神様とは到底思えない風貌であった。
「なんか神様にも色々いるんすね…俺が想像するのってもっとこう、白ひげ蓄えて杖持ってるような…」
「ブフッッッッッ」
トウヤが純粋に思った疑問を言葉にし終えたところで、またあのドクロ神がマスクの口の部分を抑えて笑いを堪えていた。
「トウヤちゃんそれ、アナログアナログゥ〜!」
(こいつの作ったセカイじゃなくてよかった…)
トウヤは両手で自分の方へと指をさしながら突っ込んできたドクロ神に目をやることも無く、目の前にちょこんと座った先程の小さい神様に尋ねた。
「ルカさん?…でしたっけ?展開が早すぎて着いていけないんですけど取り敢えず俺どうすればいいんすかね?」
「トウヤ……今から行くセカイ……私が作った……魔法沢山ある……頑張ってくるといい……」
「それさっき聞いた話とほとんど一緒なんすけど!?」
短い文章を途切れ途切れ長い時間をかけて言っていったルカであったがトウヤの突っ込みにドキマギした様子で下を俯いていた。おそらく無口なのであろうルカに鋭い突っ込みをしてしまったことに罪悪感が湧いたトウヤであったが、すぐにフォローへとまわった。
「あ、あー、す、すいません。えーっとできれば俺がこれからどうすればいいか詳しく教えてもらえればなぁ〜っと思うんですけど…俺、魔法って言われてもそんなん使えないし…」
するとさっきまで俯いていたルカがパァっとした表情に変わり説明を続けた。
「トウヤ……魔法使えない……だから……次のセカイに行くとき……神様の力……分けてあげる決まり……有難く使うといい……あとは…好きに生きればいい……」
と、ここで時間のかかる説明に見兼ねた金髪の神がそれに続けた。
「トウヤさんが行くセカイは魔法が沢山あるんですぅ、例えば豪炎を撒き散らし辺りを火の海にする魔法だったりぃ、水を操って一面を海にする魔法だったりぃ……さすがにそういうセカイには手ぶらで行ってもらう訳にはいかないのでぇ、担当する神様が自分の力を分けてあげる決まりになってるんですぅ…」
「すっごいおどろおどろしいセカイに思えるんですけど………ちなみにその貰える力っていうのは??」
そう尋ねたところで神様一同、一瞬考えた様子であったがみんな同じタイミングで、あっ、と思い出した顔をした瞬間気まずそうにトウヤから目を逸らした。
「私の……力……不死……」
トウヤの目の前には絶対に死なない、いたいけな少女が座っていた。






