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帝国達の闘争  作者: invincible
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勇気か蛮勇か

誤字があったらすみません



ドゼー中将は、ルイ少将に出来るだけ時間を稼ぐように命じた。そして、港湾の艦隊には、被害状況の報告を求めた。敵騎の攻撃が苛烈を極めていたため、被害状況もはっきりしていなかった。彼が目視しただけでも相当の損害が出ていたので、正しい損害を聞きたくはなかったが、現実から目を背けるわけにもいかなかった。


出航準備が整うよりも早く、損害が報告された。戦列艦1隻が爆沈、4隻が火災、フリゲート及びスループ各一隻が軽微な損害を負ったことが報告された。この報告自体はドゼー中将を項垂らせるだけであったが、第16部隊司令官シボニー少将が戦死したという報告は、彼を愕然とさせた。まさか、熟達したシボニー少将が、奇襲であったとは言え緒戦で討たれるとは、にわかに信じがたい物があった。ただ、ローレン、アントワーヌ両少将は無事で、旗艦を撃沈されたヴィッテ少将も軽度の火傷で済んだということは、未曾有の大損害に絶望していた彼の唯一の拠り所となった。だが、被害報告から考えて、使える戦列艦は7隻。これで敵艦11隻を相手取らねばならないという事実が、また彼を絶望へと連れ去ることになった。しかし、このまま港湾に留まる訳にもいかないので、彼は急ぎ艦隊を纏めた。


艦隊をまとめたところで彼は「まだ戦いは残っている。各員奮戦せよ」と訓示をした。意気消沈していた司令部や水兵も活気を――――といっても半分ヤケではあったが――――を取り戻した。鯨波が艦隊を揺らす。各艦は帆を一杯に張って、先頭艦から次々に港湾を出て行く。艦隊旗艦「リース」も中将旗を堂々と掲げ、波を蹴立てて港湾を出て行った。


ルイ少将の哨戒部隊は、港湾より70浬で出会った敵スループ艦を一方的に撃沈すると、その後、50浬の地点で3つの艦影を発見していた。この時点で、ルイ少将は敵大艦隊の存在を確信した。しかし、その大艦隊がどこにいるか、手がかりが全く掴めない。そこで彼はこの3つの艦影の後をつけていくことを考えた。彼はこの艦隊が敵の大艦隊から分離しており、艦隊に戻ろうとしているのだと判断したのだ。もちろん、部下には、

「哨戒部隊として、大艦隊から分離行動を取り続けている可能性もある」


と反対したものもあったが、敵のスループを撃沈したことで、敵はこちらの存在を認識している。だから、各個撃破されるように部隊を分離する可能性は少ないと考えた少将は、これを原隊に戻りつつある敵部隊と確信し、敵の後をつけると決断した。そして、敵に発見されないように、少し距離をとって、ゴミの投棄も禁止した。


果たして、彼の判断は的中した。2時間ほど航行したところで、これら三隻の奥にうっすらと7、8隻の艦影が見えたではないか。彼は望遠鏡を投げ捨てて、


「敵さん、ご丁寧に三隻も護衛をつけて艦隊までエスコートしてくれたぞ。たっぷりとお礼をしてやらなきゃな」


と遥か先の敵艦隊に嘲笑を浴びせた。彼の麾下8隻は慎重に回頭していった。敵の頭を抑えるつもりなのだ。しかし、ここで異常が発生した。今まで午睡を貪る羊のように大人しかった三隻の敵艦が猛進して来たのだ。ルイ少将の部隊に混乱が生じる。砲撃で追い払おうとする艦、敵の衝角攻撃を恐れ回避行動をとる艦。当然、ルイ少将にはこれらを纏める必要がある。彼は声を荒げて、


「全艦に命じる。弱小艦隊に構うな。全力で避けろ!」


少将は焦っていた。8隻もの敵艦を一挙に屠れる機会を得たからである。しかし、それでも麾下の艦艇を一時的に再度纏めあげたことは、彼の指揮能力が決して低くはないことを示していた。だが、敵は彼の指揮力を上回るほど勇猛果敢で、またしても艦列に突っ込んでくる。少将は艦隊を再び転針させる。戦闘開始から30分もの間、このようないたちごっこが続いた。


しかし、敵が6回目の突撃を敢行した時、膠着に終焉が訪れた。ついに、突撃に耐えられなくなった艦隊は、5番艦と6番艦の間に敵艦隊の侵入を許してしまった。敵艦の砲撃が6番艦「 ド・ファン」の甲板を朱に染め、マストを引き倒し、7番艦と8番艦はバラバラに遁走する。僅か数分のうちに、艦隊の約半数が事実上の撃破に追いやられたのである。明らかにルイ少将の敗北であった。ただ、敵フリゲート3隻も、四散した各艦をバラバラに追撃するという愚を犯した。これは、輸送船や敵艦を拿捕すると報奨金が貰えるため、各敵艦の艦長が拿捕を目指したからであった。このため、敵艦三隻も戦力外になってしまった。まさに、功名心によって両軍とも損をしたのである。


後続三隻が追い散らされる中、ルイ少将率いる5隻はついに、8隻の敵艦を大砲の最大射程2kmに収めた。しかし、ルイ少将が敵フリゲートに翻弄されているうちに敵艦は大きく動いていたようで、頭を抑えることはできなかった。だが、ルイ少将は怯むことなく、


「全艦弾種を榴弾に変え、敵艦隊側面20mまで接近。あらゆる砲及び銃隊で攻撃したのち、一旦距離を取る。尚、砲撃は敵艦隊から距離1km未満になった後、開始する」


と悠然たる態度で命じた。5隻のフリゲートは一列の縦陣を保って、敵艦隊との距離を詰めていった。敵艦隊は慌てて砲撃を開始する。数多の砲弾がいくつもの水柱を立ち上らせる。しかし、5隻の艦列が乱れることはない。


「そんな脅しが通用するか。本官の艦隊に臆病者はおらん」


とルイ少将は砲弾を海に投げ捨てるだけの敵艦隊を嗤った。序盤では無計画な猪突から敵に 後れを取ったものの、いざ正々堂々の戦いになると、整備や練度の違いが顕著に出ている。既に敵艦隊に5発以上の命中弾を与えているが、彼の艦隊は一隻の脱落もなく、敵艦隊から100mまで近づいた。だが、この時、ついに敵の砲弾が旗艦「タンクレイド」を捉えた。水兵が薙ぎ倒され、艦が大きく揺れる。ルイ少将も破片を受けて、血を垂れ流しながら後甲板に倒れこんだ。しかし、ルイ少将は傷口を手巾で押さえて、


「怯むな! まだ一発だ」


と叫ぶ。波を被ってびしょ濡れになった水兵達が歓声を上げる。被弾しながらも士気は上々だった。


そして、その後も5隻合計で6発の被弾を出しながらも、敵艦隊から20mまで接近した。ルイ少将は声を張り上げて命じる。


「よし、銃隊、全艦砲斉射開始!」


まず、「タンクレイド」の旋回砲が放ったぶどう弾が敵旗艦「サン・ファン」のマストを2本撃ち倒し、散弾が甲板上の水兵を襲った。帆もいくらか切り裂かれ、敵旗艦の船速は目に見えて落ちていく。敵の後続艦「ヌマンティア」「ナバラ」はマストを一本折られ、火災を起こしていた。しかし、敵は腐っても戦列艦である。ルイ艦隊の方も大きな損害を負うことになった。2番艦はマストを一本失い、5番艦は火災を起こしていた。ただ、幸いにも先の一斉射撃で敵を気後れさせたのか、積極的な追撃を受けなかった。そのため、彼我共に決定的な被害を負う前に、砲戦距離から外れて行った。


ルイ少将は小さくなって行く敵艦を眺めながら「さて、後は戦列艦の連中に任せるか。そろそろ来るだろう」と言って、たばこを一服した。

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