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帝国達の闘争  作者: invincible
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第五艦隊出撃準備

さて、首相らから艦隊の動員を願われた海軍であったが、初めは皇帝の勅命でないことを理由に、これを拒否した。ただでさえ予算が減らされている中、迂闊に艦隊出撃などしたくなかったのだ。

「皇帝の勅命が必要」これが、大きな問題であった。帝国では皇帝の権限はさほど強くはないので、皇帝の意思が大きく関与することは少ない。あくまで、形式上のものであった。しかし、海軍が勝手に軍事行動を起こすことは難しかった。もっとも、小規模なものなら見過ごされることもあったが、今では少ない予算を取り合って、陸軍がしゃしゃり出てくるので、どうにもならないのである。


しかし、海軍は、目先の予算に気を取られて、重要な仕事を放棄するということを良しとしなかった。といっても、内相や首相の歓心を買おうという邪な気持ちもあったが。

海軍がそのために取った戦略というのは、当の海軍でさえ呆れるものであった。

それは、「陸軍を説得する」というものである。もちろん、全海軍が鼻で笑い、そして憤慨した。

例えば、ある海軍准将は、


「建軍以来幾星霜、陸海軍が手を取り合ったことは、戦時においても僅かだった。この平時に陸海軍の停戦どころか、同盟を結べというのは、無理難題がすぎる」


と軍事部総長のリボー元帥に食って掛かった。こう言った意見が、いくつもいくつもあったものだから、リボーは言葉を詰まらせながら、


「海軍大臣は陸軍大臣と個人的友誼があって、協調の成功を確信するものである」


と言うしかなかった。

こうして、合意なき協調が開始されたわけであるが、海軍大臣側の「機嫌をとる」準備は万全であった。それは陰で、「きっと外交省を特別コーチにつけたに違いない」と揶揄されるほどであった。馬鹿馬鹿しい話ではあるが、酒で攻められても良いように、飲み好きで飲みぐせの良いものを集めて行ったという噂が、面白おかしく広められた。


海軍大臣は意気揚々と陸軍大臣の元を訪ねた。

陸軍大臣とがっしり握手をした時点で、彼の脳内は凱旋時のスピーチを考えることに、95%を向けていた。

だが、陸軍大臣はなかなか手強く、海軍側の話を一頻り聞いたのち、軽く顎をつまんで、僅かに唸ると、


「もし、陛下の御聖意にそぐわぬ場合はどうするのか」


と言った。海軍大臣は内心ほくそ笑んだ。陸軍大臣が皇帝の意思を持ち出すときは、大抵反論材料に事欠いているときなのだ。無論、皇帝の意思を反論として出してくることは予想していたので、言い包められる心配はない。海軍大臣は協調の成功を改めて確信した。


「畏くも皇帝陛下におかせられましては、平和を希求されている。問題はない」


反論を受けて、陸軍大臣は、腕を組み、低く唸ると、


「ならばなぜ陛下に奏上せず、勝手に行動しようとするのか。問題がないなら、なぜ奏上しないのか」


海軍大臣は、一瞬、動きを止めた。その後、ゆっくりとグラスを持って、一口だけ飲んだ。


「色々と事情があるようでな。だが、きっと陛下にはご理解いただけるはずだ」


「奏上している暇もないほど、急を要するのか」


と陸軍大臣がいうと、海軍大臣は「助け舟だ!」と心の中で叫んだ。本当は、港を封鎖する根拠や、旧敵国との国境に位置する海上で行動することの危険性が不十分であっただけなのだが、陸軍の方が良い勘違いをしてくれた。


「その通り、だから協力してほしい。急を要するんだ」


というと、陸軍大臣は快諾してくれた。


その後、海軍ではどの艦隊を警備に用いるか議論が行われた。出来るだけ費用は絞らないといけない、しかし、中途半端に終わってはいけない。そこで、フリゲート1、2隻ではなく、戦列艦を使うことが決まった。戦列艦を持つ艦隊で最も金のかからない艦隊は第五艦隊しかない。言うまでもなく、第五艦隊が動員されることになった。

休暇を潰された水兵たちは、


「憶測で艦隊を動かすなんてバカだ」


と不平不満を言ったが、動員が決定してから1週間も経たないうちに、憶測とはいえなくなってしまう。

陸海軍及び政府の情報部が、カンタテーロ王国の旧国王派とブラウヘン帝国内の過激派が裏で協力し、処刑の日に反乱を起こすということが分かったのである。

さて、こうも簡単に反乱計画が分かったのには理由があった。第三国からの情報提供があったのである。外交省や軍部の諜報部が第三国に目を向けていたおかげであった。もし、王国からの提供を待っていれば、提供されることすらなかっただろう。そもそも、まだ国交を回復したばかりの帝国に、有用な情報を手にすることは難しかったし、国内の旧国王派も現王国と手を結んだ政府に情報を明け渡すわけがなかった。

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