第9話 気弱な魔法使いを助けろ
錬金術師のチート系を鋭意製作中です。
相手は向かって右側にスライム3体、左側にナメナメクジ3体。数は多くもなく少なくもない程度だが、一度に相手するとなると状況は変わってくる。双方ともに遠距離の攻撃を持っているので同時に打たれたら避けるのはかなり難しい。
だからといって不用意に近づくと、体当たりの応酬を受けることになる。
また入り口付近よりスライムもナメナメクジも少しレベルが高いので、そこも注意が必要だ。
というかそもそも俺の装備は木の棒だけなので、塩をかけたナメナメクジぐらいしか倒せないかもしれない。だからスライムたちはおとなしくナメナメクジに任せよう。
ツンデレちゃんの方を見ると、蛞蝓にはようやく耐性ができたのか、やってやる!と言った表情をしている。まあこの人回復しかしないんですけどね!
モンスターたちの方に振り返る。先ほどは気にもしなかったが、みな表情がどこか狂気的に見える。
ナメナメクジの何かに突き動かされているような鋭い目つきと不敵な微笑みを浮かべている口元。通常のナメナメクジの表情とは似ても似つかない。
目だけしかないスライムからですらそれが伝わってくるようだった。スライムに似合わぬ獰猛な目つき。
俺は少し怖気づく。
今考えるとモンスターが寄って集って1人の人間を襲うなんていうシチュエーションは滅多にないことだ。
イベントだからと言われればそれまでなのだが、何か強大な力が働いているような気もする。もしかしたら俺が倒していないラスボスや裏ボスのせいだろうか....?
とりあえず今はこのことを考えるよりもまずは目先の問題からだ。
「ナメナメクジ!お前はスライムの方をやってくれ!」
スライムとナメナメクジの間が一定距離空いていたので、分業することにした。何も返事がないが、わかってくれていると信じている。
「君はそこに隠れていて!」
「は....はい....!」
少女には茂みに隠れるよう指示した。
その後、俺はナメナメクジ三体と向かい合って、そこら辺に落ちている石ころをナメナメクジに向かって思い切り投げた。
もちろんダメージはないだろうが、これでナメナメクジのターゲットは俺になるはずだ。
一方、味方のナメナメクジの方は理解してくれたのか、スライムと対峙している。
しかし、スライムは3匹が連携を取っているのか、1匹のクールタイムにもう1匹が撃ち、そしてその2匹のクールタイムで3匹目が撃ち、そのクールタイムに1匹目が撃つ....というように絶え間なく水鉄砲を撃ってくる。
SP切れを待とうにも、敵キャラのSPは普通より高く設定されているため現実的ではない。
動きが遅いナメナメクジはまともに動くこともできない。
「ツンデレちゃん...!」
「さっきからやってるわよ....!天使のご加護を彼の者に与えよ....ヒール!」
なんとかツンデレちゃんの回復魔法で持ちこたえているが、時間の問題だろう。
「まずいな....」
俺が相手しているナメナメクジもスライム同様三段構えの攻撃をしてきて隙があまりない。
「こうするしかないか....!」
俺は塩を一掴みして敵のナメナメクジの方へ向かって思いっきり撒いた。
だが、遠すぎるため塩は地面にパラパラと落ちるだけだった。
それを何度も何度も繰り返す。あたり一面は塩だらけだ。
一見失敗のように見えるが、実際にはこれが狙いだ。これでナメナメクジの行動範囲を狭めることができた。
「ツンデレちゃん....!ごめん....!スライムのヘイトを買ってくれ....!」
「ヘイトを買うって何よ!?」
「いいから!スライムに向かって石を投げて!」
「狙われろってことかしら....ほんとはやりたくないけど....しょうがないわね!今だけよ!」
スライムの標的がツンデレちゃんに変わった。
「私だって活躍してみせるわぁぁぁあ!!いやぁぁぁぁああ!やめてぇぇぇええ!」
ツンデレちゃんに向けて絶え間なく水鉄砲が飛び交う。少々当たっているがおしゃれ用装備とはいえ、防具のおかげでなんとかなりそうだ。なんだかすごい叫び声が聞こえるが今は耳を塞いでおこう。
「そして後は....ナメナメクジ!相手の真ん中のナメナメクジに向けて粘液を撃ってくれ!」
ぷるぷるぷる
ぷるぷr....
ぺっ
俺はナメナメクジに指示を出して、次に粘液攻撃を撃ってくるナメナメクジを痺れさせた。
作戦はうまくいき、粘液攻撃の途中で麻痺が入った。
そして俺はスライムのさらに右側へと回り込んだ。
この状況でナメナメクジの麻痺が解けるとどうなるのか。
もちろん俺を狙った粘液攻撃はターゲットを変えないまま右に向かって撃たれる。
だからその間にいるスライムに粘液が当たった。
スライムが痺れる。
スライムは攻撃を連携が乱れたため一度攻撃を中止する。
ナメナメクジはスライムに当ててしまったことに気づき、場所を移動しようとするが、塩がそれを阻む。
結局また粘液攻撃をして、スライムが痺れる。
そのうち、スライムが粘液を撃ってきたナメナメクジに対して水鉄砲を発射し出した。
それに反応してナメナメクジも俺ではなく完全にスライムをターゲットにして攻撃を開始する。
「なんとかうまく事が運んだみたいだな....」
俺の狙いはスライムとナメナメクジの対立だった。
何者かに操られているようだった事、スライムとナメナメクジが混ざって戦っていなかった事、ある程度2グループ間に物理的な距離があった事を考えると、この2グループは互いのことを仲間としての認識はしてないのではないかと考えた。
この考えは当たっていて、プレイヤーという共通の敵から見事にナメナメクジとスライムの対立という構造に誘導できた。
「野生のモンスター同士で争うなんてことがあるのね....」
たしかに。食う食われるの食物連鎖の関係ならまだしも、勝っても一切利益がない争いをしているのはなんだか見ていて悲しい。まあこれを誘発したのは他でもない俺なんだが。
ほどなくして、ナメナメクジ一体だけが残った。ピュロスの勝利だ。もはや風前の灯火で、塩をかけるまでもなく、ナメナメクジに倒させた。
ただこの作戦には欠点がある。経験値があまり手に入らないことだ。経験値は最後に倒したものにしか入らないことだ。だから味方に経験値は溜まらない。ナメナメクジも最後の一体分しか入ってないのだ。依然としてレベルは3のまま。
とその時。
ガサガサッ
奥の茂みが揺れる。
「な、なに!?まだ何かいるの!?」
「あの....!倒してくださったんです、、よね?えとその、素敵でした....!あ、ありがとうございます....!」
出てきたのは護衛対象(?)の少女だった。
すっかり忘れてた。そうだ、この子を守るためにこいつらと戦ってたんだ。
「ふぅ....びっくりしたわ....で、あんたは一体誰なのよ、いかにも魔法使いのような格好してるけど」
白い肌で目立つ薄みがかった紫色の髪の毛と青い目。そしていかにも魔法使いと言わんばかりの黒いとんがり帽子に黒のローブ。
「あ、、はい....えっと、メリッサと言います....!い、一応魔法使いを...その、やらせてもらってます....!ま、まだかけだしですけど....!」
「やっぱりそうだったのね、モンスターを倒しているうちに奥に行ってしまったってとこかしら?」
「い、いえ、その....モンスター全然倒せなくて....嫌になって草原の奥の森の方で一人で考え事してたんです....そしたら、なんか、蛇のようなモンスターが出てきて....!びっくりして一目散に逃げたらいつの間にかモンスターに囲まれちゃって....」
たしかにメリー草原の奥地は森のように木が林立している。っていうかいつの間にかモンスターに囲まれるって運が悪すぎるだろう。かわいそうに。
「そうだったのね、次からは気をつけたほうがいいわ、無闇に奥に進んじゃダメよ」
どの口が言ってんだか。
「は、はい....ありがとうございます....」
「じゃあ私たちはもうそろそろ行くわ、じゃあねメリッサちゃん」
そう言って別れを告げ立ち去ろうとするツンデレちゃん。だがここで起こるイベントを知っている俺はまだここに残る。
「あ、あの....!」
精一杯の大きな声で言った。
「わ、私を仲間に入れていただけませんか!」
「もちろん、大歓迎だよ」
「ちょ、ちょっと!?そんな簡単に決めちゃっていいの!?」
いや決めるとか以前にそういうイベントだし。魔法使いが仲間になるって言ってるんだからならないわけにはいかないだろう。
「....可愛いからって、、あっさり即決だなんて...」
なんだか勘違いしているようだが、ここで反論しても状況は悪化するばかりだ。やめておこう。
「あ、あの....お邪魔、、ですかね?」
「いや....別にそういうわけじゃないわよ?ただ、なんというか....」
「じゃあ、なってもいいですよね?」
気弱なイメージを持っていたが急にグイグイきたな。打算で気弱を演じている線が出てきつつあるんだが。
「で、でも....!」
「俺らのパーティはまだ未熟だし全然人数が足りてないだろ。だからさ、ここはひとつ仲間に入れてみないか?」
「わ、わかったわよ....そこまで言うならいいわよ....」
なんか気に食わないみたいだが、ここはツンデレちゃんに少し折れてもらうしかない。
「あ、ありがとうございます!精一杯頑張ります....!」
新たな仲間が加わった。
チョロインちゃん2人でバチバチしてますね。