第31話 それぞれの休暇
お久しぶりです。ラノベやアニメの消化に勤しんでいたのですが、ふと思い立って再開しました。
「さあ、今日も今日とてモンスターを捕まえに行こうか」
「、、やっぱり行くのね....」
「うう....わたしもう森に行きたくありません....」
ツンデレ・メリッサの両名の気分はあからさまに落ちている。
「....だよね」
無理もない。対マタンゴの一件でモンスターがモンスターを捕食する現場を目の当たりにしてしまったのだ。当然、人間だって動物を育てたり狩ったりして食べるのでそれと同じようなことをしているのは間違いない。また闇市などではモンスターの肉などの食材も出回っており、それを食している人もいることだろう。
しかし、今まで間接的にしかその事実を知らなかった俺たちにとっては刺激が強すぎた。今なら道徳の授業で先生が言っていたことがわかる気がする。
「うーん....さすがに昨日の今日じゃみんな辛いだろうし、今日は各々自由に過ごそうか」
「すみません....今日一日で憂さ晴らしでもしてきます....」
「そうね、私も憂さ晴らすわ....」
憂さ晴らしというとなんだか物騒に聞こえるのでストレス発散とでも言ってほしい。
早速各々準備に取り掛かる。昨日受けた衝撃やストレスを少しでも緩和できることを祈って....
◯
ショウの過ごし方
俺はいつも通りに過ごそうと思っていた。どこかに遊びにいくなどと言っても行く当ては王都以外にはないし、王都はキラキラしすぎてあまり行きたくないし....
そう思い、リビングで本でも読みながらゴロゴロしようと思っていた矢先、母親からこんなことを伝えられた。
「王都の近くに情報屋さんが開いたらしいわよ?暇なら行ってきたら?」
「情報屋、か」
情報屋、とは読んで字の如く情報を売っている店....とは少し異なり、いわゆるこの『M蒐』のtips的なのを一覧で見られる場所だ。とはいえあくまでもゲームではそうだっただけなので、殺伐とした世界にありがちなお金と引き換えに機密な情報を教えてくれる店である可能性もありえる。
記憶では草原をクリア後、森に行った後に家で起こるイベントだったはずなので、このタイミングで来たのだろう。
「じゃあせっかくだし、行ってみようかな」
どうせ行くところもなかったので、行くことに決めた。王都からちょっとはずれた場所にあるようなので、キラキラしすぎて思わず吐いてしまいそうになる王都の洗礼も受けなくて済む。これぞまさに『嘔吐の先例がある王都の洗礼』だ。
情報屋までの道すがら、他の二人がなにをしているのかふと気になった。玄関にきちんと整えておいてあった靴から推測するに、メリッサもツンデレちゃんも俺が出た時はまだ家にいたようだが....
「下手に草原とか行ってモンスターと出くわしたりしないよね....?」
あの二人のことだからなんだか心配になってくる。
「プライベートなリラックスタイムなわけだし大丈夫か....」
と考えを改め、とりあえず今はポンコツ2人衆のことは気にしないことにした。
「相変わらずこじんまりしてるな」
その後5分もしないで情報屋に到着し、見た目がゲームと同じだったため心なしか安堵する。もし派手な外見で客もパーリーなピーポーがたむろするような場所だったら、この場からバイビー(バイバイ)するために一目散にトーソー(逃走)するところだった。
カランコロンカラン
喫茶店みたいなドアのベル音とともに入店する。王都にある神々しい店とは違い、躊躇なく入ることができた。
ドアを開けてすぐの部屋は、受付と待合室のように順番待ちするための椅子が何脚も並べられていた。そして、どうやらその先の部屋が情報屋から情報を聞ける場所になっているようだ。
新装開店という理由もあってか待っている人は多い。賑わっているようだ。俺は受付を済ませ、余った椅子に座って自分の順番を待つ。
待っている間に奥の部屋から出てきた人たちが俺の前を通ったが、女性や子供、ご老人はもれなくニコニコしていた。一方男性は憔悴しきったような顔をしている人もいれば、ニヤニヤした顔をして出てくる人もいた。人によっては絶望的な情報を聞かされる人もいるのかもしれない。
「番号札46番のお客様〜」
「あ、はい」
銀行のような整理券システムで俺の持っている番号が呼ばれる。結構待たされたので、ぜひいい情報を聞いて持ち帰りたいところだ。
「では、こちらの扉の中にお進みください。あ、番号札はお預かりしますね」
番号札を係員に渡し、扉の中へと進む。
扉を開けてまず飛び込んできたのは黒幕だ。一面を黒幕に覆われていて薄気味悪い。儀式でも執り行われるんじゃないかとさえ思わせられる。そしてその先に二脚の椅子。一脚は既に情報屋が座っている。
ゲームでは情報屋の見た目など注視したことがなかったので知らなかったが、どうやら情報屋は女性のようだ。長いブロンドの髪を携え、色気のある顔、起伏の激しい体、とお姉さん系美人要素が多分に含まれている。てっきりメガネをかけた男性だとばかり思っていたが偏見だったか。
「座って」と促されたのでどぎまぎしながらも椅子に座る。これほどまでに美人な女性と一対一で会話するなんてことは今までの人生であっただろうか、いやない。
「ようこそ。私が情報屋の『Miss』よ」
情報屋からの自己紹介がなされた。偽名を匂わせるような口ぶりだが、そのような世界で生きている人にとっては当然のことなのだろうか。
「あなたはなんて言うのかしら?あとお仕事は何をされてるの?」
「えと、あの、言わないと、いけない、んでしょうか?」
無事に発声できたことへの喜びを噛み締めながら、疑問をぶつける。そちらがあからさまな偽名なのにこちらの名前を訊くのはいかがなものなのだろうか。
「んー、そうねぇ。無理して言う必要はないわ。でもわたしはね、お客さんと親密な関係になりたいって思ってるの。だから、今日来たお客さん一人一人に名前とか職業とかを色々聞かせてもらってるわ」
「な、なるほど....」
上目遣いでそう言われては仕方がない。
「えっと、『ショウ』って、言います。えっと、冒険者、です、一応」
「あら、冒険者さんだったのね。確かにそう言われてみれば筋骨隆々とした体つきに見えるわねぇ」
「あ、、いえ、えっと、自分は戦ってなくて、えっと、モンスターテイマー....なんです」
「なんだ、モンスターテイマーかよ」
Missが小声で呟く。
「....え?」
「はぁ。めんどくせえけど出された分は働かねえとな。えーと?どういう情報がほしくてここに来たわけ?」
「え、、え....」
人格が変わったかのような豹変っぷりに俺は狼狽える。何か気に障る事でも言ってしまったのだろうか....
「チッ、まぁモンスターテイマーごときに欲しい情報なんてあるわけねえか」
「いや、あの....親密な関係、って....え....?」
どう考えてもこの態度は親密になりたい人のものではない。
「あぁん?私が親密な関係になりたいのは稼ぎのある男だよ。モンスターテイマー風情が勘違いすんな」
「えぇ....」
職業:モンスターテイマーと言っただけでこの態度を取られるなんてたまったものではない。というか、出会いのために情報屋を営まないでほしい。
そういえば、先程見た憔悴しきった顔をしていた男性達はおそらく俺と同じ状況に陥っていた者たちなのだろう....
「で?なんの情報が欲しいわけ?ないならこっちで勝手に決めさせてもらうけど」
自分にとっても相手にとっても手早く済ますべきだな....
「あ、じゃあ、、ええと、もんすt....」
「あーもうめんどくせえし、特にないって事でいいよな?」
「え、いや....あの....」
「なんか文句あっか?」
泣きそうだ。特殊な趣味を持っていれば話は別だが、これではただ単に精神をすり減らすためにお金を払ったようなものだ。ドブに捨てた方がまだマシに思える。
「お前みたいな年中部屋にこもってそうなやつにぴったりな情報がちょうどあるんだよ笑笑」
「....」
「年中部屋にこもっている」はクリティカルヒットだからやめてほしい。
「近いうちに王都のとある防具屋でノイズキャンセリングヘッドフォンが大値引きされる。お前みたいなやつにはお似合いだと思うぜ、陰気な感じがして」
「....」
すっっっっごくしょうもない情報だ。何でわざわざこんな情報を仕入れているんだ。あとヘッドフォンを普段から身につけている人に謝れ。
「あとは、そうだな....」
その後も「なんかでっかい卵が見つかった」やら「カジノでイカサマをして捕まった奴がいる」やら「石化状態は表面が石化してるだけ」やらのちょっと気になるがそれ以上は話してくれない話や「誰々さんがメガネを無くした」やら「砂漠地帯はこのところ雨が降っていない」やら「スライムはやはり弱い」というようなしょうもない話まで訥々と聞かされた。
モンスターテイマーと聞いて強くあたっていた態度が、情報の話をすると和らいでいってくれたことが唯一の救いだ。
そして時間も迫る中、「これは不確かな情報源だから鵜呑みにしないでほしいけど」と前置きをして話し始めた。
「お前、魔王はわかるよな?」
「魔王....?」
『M蒐』のゲームの中でも名前は出てきたが、確か「伝説のパーティによって何百年か前に封印された」というような記述があった気がする。
「その魔王が復活の予兆を見せてるらしい」
「....え?」
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