第30話 自然の恐ろしさ
GW中暇だったので出来あがりました。
「こ、コアラさん....ですか?」
「こいつ、本当に使えるのかしら?」
みんなムーンコアラのことを過小評価しすぎではないだろうか。
「まあ、黙って見てなって。絶対勝ってくれるはずだよ、多分絶対。きっと、おそらく、天文学的確率で」
「どんどん確率下がってるじゃない!?」
それは冗談として、ムーンコアラは相手のマタンゴの様子を窺っているようだ。マタンゴも性質上自ら積極的には攻撃しない。2人とも目を逸らさず(?)互いに様子を見る時間が過ぎる。
「....退屈なんだけど」
「、、ですね、どこの国発祥かも分からないボードゲームを『見たらわかるから!』と言われて見させられてる気分です....」
「なんだその独特な例えは....」
ともかく、確かに時間をかけすぎて他のモンスターが寄ってきたら嫌なので、そろそろ攻撃してもらおう。
「ムーンコアラ!あいつに噛みつけ!!」
「え...?」「は....?」
ザッ
2人の理解が及ぶ前にムーンコアラは飛び出していく。そして素早い動きから繰り出される噛みつき攻撃を行う。
「ちょ、ちょっと!?攻撃したら反撃ダメージが........え。」
反論しようとしたツンデレちゃんは目の前の光景を見て呆然とする。
ムシャムシャバクバク
命令の通り、ムーンコアラがマタンゴに噛み付いている、もとい食べている。
「........」
モンスターがモンスターを食べるその様はあまりにも残酷で、攻撃を指令した俺ですら目を逸らしてしまうほどだ。
捕食するコアラのかぶりつく様子はとても獰猛で、草食獣とは思えない風格を漂わせている。食べられてる側のマタンゴの描写は....ここでは控えておこう。とにかく見ていて気分がいいものではない。
バクバク
「う....うぅ、、」
メリッサは気分が悪くなったのか目を閉じ耳を塞ぎうずくまってしまっている。確かに、モンスターを倒す際にここまでグロテスクな状況は未だかつてなかった。ただでさえ気弱で繊細な彼女には見聞きしていて辛いものがあるのだろう。
バクバク
音を聞き、少し様子を見てみたが、まだ捕食は終わっていないようだ。もう既に絶命しているのだろうが、骨の髄まで吸い尽くすということだろうか。マタンゴの顔がこちらをずっと見ているようで少し怖い。
「....い、いつまで続くのよ....これ....早く終わらせてほしいわ....メリちゃんのためにも、コアラのためにも....」
目を背けながらツンデレちゃんが懇願してくる。
「わ、わかった。今命令出すよ....ムーンコアラ!かみつき攻撃はもうやめるんだ!」
俺はコアラに捕食を止めるように命令を飛ばす。
バクバク
が、ダメ。理由はよくわからないが、かみつき攻撃が終わっていない判定で、命令を上書きできないとかなのだろうか。その辺の細かい仕様は未だによくわかっていない。
一瞬目を細めて捕食現場の方をチラッと見ると、先ほどと変わらず、ムーンコアラが夢中になってマタンゴを食べている。見るもおぞましい光景だが、何か違和感を抱く。
ムーンコアラの口の中に入っているマタンゴが一切変化していないことだ。もちろん絶命しているので動いたり攻撃したりと変化する方が怖いのだが、そういうことではない。
食べられているはずなのに、少しもキノコのかさが減っていないのだ。先ほどまでムシャムシャバクバクと音を立てて食べていたはず(クチャラーならぬバクラー)なのに、少しの欠けもない。何故だ....?まさかあのイベントがもう進んでしまっているのか....!?
バクバク
と思ったが、理由はすぐにわかった。今食べた音がしたはずなのに、マタンゴは一切食べられていない。つまり、物質としてそこに存在しているがダメージや被害は一切出ないという状況にあるのだ。そして先ほどからずっとこっちを見ている。これらを合わせて導き出せる答えは....
「マタンゴ、GETだぜ!」
◯
手持ちモンスター2体が毒にやられて、ツンデレちゃんもメリッサも精神的にやられて、マタンゴもゲットできたことなので俺たちは一度家に帰ることにした。
「メリッサ、大丈夫か....?」
「は、はい....何とか....」
「全く、あんたがそういうのに耐性あるのかどうかは知らないけど、駆け出しの冒険者にあんなの見せないで欲しいわ!」
「ご、ごめん....」
とはいえ、あの場面でムーンコアラを出して倒して(食べて)もらわないと最悪全滅もあり得たので苦渋の決断だった。
「....自然の残酷さを知った、気がします、、」
「そうかもね....」
野生のモンスターが他のモンスターを捕食しているのかどうかなど知る由もない。しかし、モンスターではない通常の動物がいないことを考えると自然界での食物連鎖はこの世界にもあるのではないだろうか。
「あんたたち〜、夕飯できたわよ〜」
母親から夕飯準備完了の合図が来る。
「とりあえず、今日の話はここまでにして、夕飯食べよう!そしたら落ち込んだ気分も上向くはずだよ!」
リーダーとしてチームメンバーのコンディション維持も重要な役目だ(多分)。今日のことは忘れる、とまでは行かなくても今後に引きずらない程度には昇華しておきたい。メリッサはもちろんのこと、ツンデレちゃんも、俺自身も。
「そうね、夕飯が冷めちゃうわね!さぁ、メリちゃん、行きましょう!!....ってちょっと待ったぁ!」
「........どうしたの?」
何か不可解なことを言っただろうか。
「どーしたもこーしたも、そもそもムーンコアラがマタンゴに対してどこが相性バツグンなのよ!あんなもの見せられる時点で相性最悪じゃない!」
ああ、また聞かれるのか。次は後で聞かれないように作戦を事前に言っておこうかな。
「相性がいいって言ったのは、ムーンコアラに毒耐性があるからだよ」
「そうだったの!?」
「まあ厳密には体内に入った毒を解毒できるって感じだけどね」
「どういうことかしら....?」
俺はお腹も減ったので早口で説明する。
「コアラは見た目の通りか弱いから(こいつは例外だけど)、競争相手のいないユーカリを食べるんだ。これはユーカリが弱い毒性を含んでるからなんだよね。そしてコアラは体のある器官でその毒を壊す力を保有してるんだ。だから毒に強いっていう特徴を持ってると推測して、戦わせたって感じだね」
「ふ、ふーん、そういうことね!完全に理解したわ!....さ!早くご飯食べましょっ!」
絶対理解してないし、俺もこれがキノコの胞子にも通用するかどうか若干のギャンブルもあった。しかし、まあ結果的には口の中に入れてくれたおかげで撒き散らされるはずだった胞子の毒を一手に受け入れて、解毒までしてくれたので本当に相性は良かったようだ。
食卓に着くと、料理が登場してきた。
「キノコの炊き込みご飯にキノコスープ、キノコの刺身にキノコステーキ、キノコアイスと今日はキノコ尽くしよ!」
「げ....」
「これ、、食べ切れるのかしら....」
「なんか私、キノコを食べるとなるとまた思い出してきちゃいました....ううっ....」
俺たちはキノコを大量に摂ってきたことを後悔することとなった。
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