第23話 におい立つ強敵
表現を出来るだけ多彩にしようと精進しております。
ツンデレちゃんは顎に手首のところを当てて「アイーン」のようなポーズをしている。これはおそらく勝利した際に行うスカルマンのポーズなので、出した手はスカルマンだと思われる。
一方メリッサは体を縮こまらせて両手を頭の上でむすんでとんがり帽子のようにしている。これはおそらくスライム系統のモンスターの特徴を表しているのでアシッドスライムだろう。
となると....えーと、うん、どっちの勝ちなんだ....?うーん....おそらくアシッドスライムだろうから、、メリッサか....?
「メリちゃんの勝ちね、じゃあ草原エリアにしましょう」
じゃん勝ちの権威は強いのかすごく聞き分けが良くなった。これから物事を決めるときには採用してもいいかもしれない。
「えーと、今のは何の手で勝ったの?」
一応確認しておく。
「えと、私がアシッドで、ツンデレちゃんがスカルでした。.それで、あの、アシッドはスカルに勝つので、私が勝ちました」
予想は当たっていたようだ。ジェスチャーだけで当てられたのは何だか嬉しく、言いようもない充足感が心を満たす。まぁとてつもなくやりこんだゲームなので、当たって当然といえば当然だが。
「なるほどね、ちなみにだけどゴールドマリンはどうやって表現するの?」
「それは、こうするのよ!」
勢いよく足を肩幅より大きく広げて、両手を両頬の横で開く。ウーパールーパーのようなその格好は滑稽ではあったが、なるほど確かにゴールドマリンの特徴を捉えていた。
花を象った宝石を頭に乗せたモンスター。『M蒐』ではお金集めのためのモンスターとして初期の頃は乱獲が流行っていた。
異文化に触れて感心している俺を尻目にツンデレちゃんとメリッサはもう探索の準備を済ませたようだ。と言ってもダメージはほとんど受けてないのでポーションでメリッサがSPを回復させただけだが。
「えーと草原で未探索なのは....北西の方かな、いいもの落ちてるといいね」
俺たちは移動を開始する。途中で落ちている薬草なども拾いながら進んでいく。
ようやく着いた北西の場所は草原エリアの中でもかなり開けた場所だった。川や岩などの自然の障害物もあまり見当たらない。
早速スライムが出てきたので応戦する。今回の俺が連れてきたモンスターはヘビ対策の「ナメナメクジ」と火力用の「ヒマワリマン」とレベルを上げたい「スライム」だ。コアラは一応昼も行動してくれるが、夜の方が活発に動いてくれるので置いてきた。
また先ほど捕まえたヘビはボックスがいっぱいのため、庭へと送られた。ボックスから庭へと送られるのは一体どういう仕組みなのだろう、と思ったがゲームの世界だし考えるのはやめた。
とにかく今回はこの3体で冒険を進めていく。先ほど出てきたスライムはこちらのスライムの水鉄砲とナメクジが一回体当たりしただけで倒せた。スライムくらいならかなり容易く対処できるようになった。成長が見られて自分としてもほくほくだ。
まあスライムを倒しても経験値やお金は全然もらえないのでそこはほくほくではないが。
「ヒールいるかしら?」
「あ、じゃあナメナメクジにお願いしようかな」
「わかったわ」
ツンデレちゃんのヒールがかかり、再び探索をし始める。
「なんか新しいモンスターいないのかしらねぇ、ショウには早くレベル上がってもらってパーティリーダーとして威厳を持ってもらいたいわ」
今は威厳がないとでも言いたげたが、実際俺は現在5体を捕まえて5レベル、ツンデレちゃんは7レベル、メリッサも7レベルと俺が一番低い。これに加えモンスタテイマーのレベルの上がり方は上に行くほど緩やかになっていくので本当に辛い。
モンスターたちもそんなにレベルは上がっておらず、スライム5レベル、ナメナメクジ3レベル、ヒマワリマンはほぼ戦闘未経験のため1レベルだ。
「そうだね、確かにもっと俺自身のレベルあげないと防具とか色々つけられないし....」
「た、たいへんですね....威厳が出るように頑張ってください....!」
ツンデレちゃんと同じようなことを言われているのにメリッサに言われると嫌味に聞こえないのが不思議だ。
そんなこんなでいつも通りアイテム収集とモンスター討伐を繰り返していると、ツンデレちゃんが最初に何やら異変に気づく。
「ねえショウ、何だか変なにおいがしない?」
「え?におい?」
「いやなんというか、変なにおいがするっていうか....」
ツンデレちゃんは鼻がいいのだろうか、すごくにおいに関して敏感なようだ。
しかし草原エリアで異臭となると....ああ、あいつか....そんなに強くはないけどメンタル的にあまり戦いたくないな....
「みんな、そろそろ鼻をつまんでおいた方がいいかもしれない....」
「もう私はそうしふぇるわよ....」
「え....みなさん、なんで............ウ゛ッ....これ、、なんふぇす、か....やばいふぇ、す....」
メリッサから発せられたとは思えない声が聞こえた。しかしそれほど強烈なにおいの持ち主が近くにいるということだ。
みんなが鼻をつまんでいる間に奴らが現れる。緑色の胴体に6本の足。キャラクター付けのためなのかなんなのか触覚がぐるぐると渦巻いている。
こいつの名前はオオカメムシ。草原エリアの北西地域でスポーンしやすい。現実世界のカメムシが4回りぐらい大きくなったものだ。自身がそもそも臭いのに、強烈なにおいを放つ分泌液を撒いて攻撃してくる。敵として現れた場合はSPがある限り撒いてくる。これに当たるとダメージやデバフがかかるほか、リアルとなったこの世界ではおそらくとんでもないにおいが服や皮膚に付着することになるだろう。
まあステータス自体は高くないので、ゲームではかなり簡単に倒せた。しかしこの臭さは異常だ....ゴミ処理場に温泉が沸いたらこんなにおいがするのだろうか....まさかここまでキツいにおいを伴った攻撃だとは思わなかった、、
「ふぁの、、ヒョウふぁん....ふぉれ、ふぉうやってふぁおすんふぇすか....?(あのショウさん、これどうやって倒すんですか?)」
強く鼻をつまんでいるせいか先ほどよりも何を言ってるのかわからなくなってきた。
「ヒョウ....ふぉれふぉんふぉふぃふぉうするのよ、ふぁふぁふぃふぉんなやつふぉふぁふぁふぁいふぁくふぁいわ(ショウ、これ本当にどうするのよ、私こんなやつと戦いたくないわ)」
もはや何と言っているのか理解不能だ。わざとやっているんじゃないかと疑いたくなる。
「とりあえず、あの液にだけは当たっちゃダメだよ、ダメージ以上に辛いものが待ってるから....」
「ふぁふぁっふぁわ!(わかったわ!)」
「わかり....ましふぁ....!」
返事はいいのだが、全員鼻をつまむために片手が塞がっている状態なのでろくに攻撃もできず、魔法も使えない。
困った俺はとりあえずヒマワリマンを出す。
ビクッ....!タッタッタッタッタッ....
しかし、あまりのにおいに一瞬全身が震え上がった後、後ろに引いてしまった。これでは魔法の範囲外でカメムシに攻撃することができない。モンスターも異臭は感じ取るのか....
俺はすかさずスライムを出す。しかしスライムもヒマワリマンと同じで俺の後ろへと隠れてしまった。
「弱ったな....まさかカメムシがここまで厄介だとは....」
こちらからの遠距離攻撃手段がない以上、近距離で詰めるしかないのだが、近づけば近づくほど異臭が増す。ゼロ距離だったら卒倒してしまうんじゃないかと思うほどだ。
どう対処すればいいか困っている俺たちのことなど気にすることもなく、カメムシは攻撃を撃ってくる。
ピュッ
なんとか躱すことができたが、近くに行くと避けるのも難しくなるだろう。近づかなければいけないのにそれをすると絶望の未来が待っているかもしれないという恐怖。
このモンスター、ゲームの時よりも格段に強い........鼻がひん曲がるほどの臭さのせいで全滅なんてオチだけは勘弁だ。
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カメムシの臭気を先日久しぶりに体験したのですがかなりすごかったです。




